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ローサは密告された
すばらしい作品なのだけど、救いのなさがたまらない。 フィリピンの貧困地区に住むローサは夫とと雑貨店を営みながら、覚醒剤を販売していた。ところが密告されて警察に捕まってしまう。警察の留置記録に記されず軟禁された部屋で「10万ドルよこせ」と... -
ブランカとギター弾き
フィリピンが舞台で、イタリアの配給会社で、日本人の監督という異色の組み合わせ。 日本人の監督がフィリピンのスラムを描く、という時点で期待していなかったが、よい意味で裏切ってくれた。 路上でひとりで生活する少女ブランカは、有名な俳優が... -
暮らしの論理 生活創造への道<山本松代>
■暮らしの論理 生活創造への道<山本松代>ドメス出版 20170416 筆者は、戦後直後の生活改善改善運動の、農水省の最初の担当者だった。「生産」一辺倒の主流派に対抗して、農村女性たちの「生活」の改善に取り組んだ。 生活改善運動はアメリカに生ま... -
人生フルーツ
戦後の復興期、公団で各地の団地造成にかかわり、愛知県の高蔵寺ニュータウンのデザインもつくった津端修一さんと妻の英子さんの晩年を撮影したドキュメンタリー。 雑木林の豊かなニュータウンをめざした津端さんだったが、高蔵寺ニュータウンは、経済... -
日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか<内山節>
■日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか<内山節>講談社現代新書 20170324 1965年ごろを境にして「キツネにだまされた」という話が発生しなくなったという。 高度成長、合理的社会の形成、進学率やテレビの普及などの情報のあり方の変化、都市の隆... -
マヤ学を学ぶ人のために<八杉佳穂編>
■マヤ学を学ぶ人のために<八杉佳穂編>世界思想社 20170310 遺跡やマヤ文字、スペイン人による侵略、マヤの人々が自分たちの歴史をつづる取り組み、1996年に終わる内戦の影響まで、幅広い分野の研究者がマヤについて執筆している。マヤを研究したいと考... -
世界の食べもの 食の文化地理<石毛直道>
■世界の食べもの 食の文化地理<石毛直道>講談社学術文庫 20170309 世界的視野で「食」を比較すると、あたりまえと思っていたことがあたりまえではないこと、ほんのちょっとしたきっかけで食文化が変化することがわかる。 たとえば、主食と副食という区... -
哲学者 内山節の世界<かがり火編集委員会編>
■哲学者 内山節の世界<かがり火編集委員会編> 20170315 内山節の著作は何冊か読んできたが、彼の哲学の流れと大枠をつかみたくて購入した。 ベトナム戦争時、中学時代からマルクスやヘーゲル、カントと読み進んだが、サルトルの実存主義は評価しな... -
小泉教授が選ぶ食の世界遺産 日本編<小泉武夫>
■小泉教授が選ぶ食の世界遺産 日本編<小泉武夫>講談社文庫 20161221 食べ物を巡る、ユニークで珍しい話、常識を打ち破るような話がふんだんに紹介されている。 昔たくあんは、日干しして味を濃くしてからぬか漬けにしたが、今は、干さずに漬けたり、調... -
海に生きる人びと<宮本常一>
■海に生きる人びと<宮本常一>河出文庫 20170203 (初版は1964年) 古代の中央政府から海人と見られていた人々は、海岸づたいに新しい漁場を見つけつつ広がった。輪島の海女などは福岡の鐘ケ崎の海人がルーツだ。海人の一部は陸上がりして、一部は海上交... -
鉄幹と文壇照魔鏡事件 山川登美子及び「明星」異史 <木村勲>
■鉄幹と文壇照魔鏡事件 山川登美子及び「明星」異史 <木村勲>国書刊行会 20170226 山川登美子と与謝野晶子といえば「明星」の歌人で、与謝野鉄幹を巡ってさや当てをして、奔放な恋愛をうたったというぐらいしか知らなかった。ましてや照魔鏡事件と登... -
だれのための仕事 労働vs.余暇を超えて <鷲田清一>
■だれのための仕事 労働vs.余暇を超えて <鷲田清一> 講談社学術文庫 20170210 生きがいって何だろう。労働と余暇とわけられたとき、労働は苦役で、余暇は遊びとされる。その分割が、仕事から遊びの要素を奪い、遊びからやりがいの要素を奪った部... -
世界遺産 熊野古道と紀伊山地の霊場<五十嵐敬喜、岩槻邦男、西村幸夫、松浦晃一郎>
■世界遺産 熊野古道と紀伊山地の霊場<五十嵐敬喜、岩槻邦男、西村幸夫、松浦晃一郎>ブックエンド 20170116 世界遺産の制度のなかで、「道」が選ばれるのは、サンティアゴ・デ・コンポステーラの霊場が最初だった。 もとは文化遺産は姫路城など「点」で... -
2時間でおさらいできる日本文学史<板野博行>
■2時間でおさらいできる日本文学史<板野博行>だいわ文庫 20161231 加藤周一の「日本文学史序説」を要約して、かみ砕いて、中高校生にもわかるようにした、という印象を受けた。長い文学史を一覧できるから大きな流れが理解しやすい。それぞれの作品の魅... -
森の思想<南方熊楠、責任編集中沢新一>
■森の思想<南方熊楠、責任編集中沢新一>河出文庫 20170124 「南方二書」が圧巻だった。 中沢新一の解説よりも話の幅が広く、わかりやすい。たしかに冗長でくどい部分はあるが、だれにでもわかる言葉で、深い内容を伝えてしまう。合祀を巡る村々の細かな... -
千年の愉楽<中上健次>
■千年の愉楽<中上健次>小学館文庫 20161229 和歌山県新宮市の臥龍山という山のふもとにある被差別部落「路地」に住む中本一統の男たちの物語。産婆として「路地」の子を手にとりあげ、路地の過去も現在も未来も知るというオリュウノオバを狂言回しにし... -
岬<中上健次>
■岬<中上健次>文春文庫 20161126 ▽黄金比の朝 夜勤の肉体労働をしながら大学をめざす浪人生が主人公。母は旅館の仲居をして、売春もしながら生計を立てている。腹違いの兄は、過激な学生運動にかかわり、主人公の家に逃げてくる。 母を恨み、大学をやめ... -
柳田国男 知と社会構想の全貌<川田稔>
■柳田国男 知と社会構想の全貌<川田稔>ちくま新書 20161229 柳田国男は、前期は山人などを対象にしたが、後期は稲作民だけを「常民」として描くようになった…とか、国内の民俗ばかりを見ていて国際的な視野をもっていない、などと批判されてきた。保守... -
シーカヤック教書<内田正洋>
■シーカヤック教書<内田正洋>海文堂 20161210 シーカヤックが日本に上陸したのは1987年。主なメーカーはワシントン州のシアトル周辺に集中していた。そのころからかかわってきた筆者は日本のシーカヤックの先駆者だ。 大きな視点でシーカヤックのもつ意... -
南方熊楠 森羅万象に挑んだ巨人<中瀬喜陽>
■南方熊楠 森羅万象に挑んだ巨人<中瀬喜陽> 別冊太陽 2016105 ▽8 荒俣宏 1990年代からの熊楠再評価の機運。熊楠の草稿類を解読しつづける松居竜五さんたちの活動、「ミニ熊楠」とも呼ばれた故・後藤伸さんたちによる神島生態系調査の継続などは、... -
修行と信仰<藤田庄市>
■修行と信仰<藤田庄市>岩波書店 20161019 みなべ町の赤松宗典住職の章だけを熟読し、あとは流した。 10分間でも苦痛な座禅を何日もつづけたり、大峰山や比叡山を天狗のような速さでのぼっていったり、わけのわからない問答を延々とづけたり……。何か意味... -
作業中)風と波を知る101のコツ 海辺の気象学入門<森朗>
■風と波を知る101のコツ 海辺の気象学入門<森朗>枻出版 20161214 北半球の高気圧は時計回りに風が吹き出し、低気圧は半時計回りに風が吹き込む。コリオリの力があるからまっすぐに風は吹かない。向かってくる台風の左側に逃げると風が強く、右側に... -
漂海民<羽原又吉>
■漂海民<羽原又吉>岩波新書 20161119 紀州の漁民は明治になって真珠貝をとりに豪州などに渡ったが、通説と異なって江戸時代以前から海を越えていた、と、1960年代に羽原が主張したと聞いてこの本を手に取った。真珠は広島方面の仲介者の手を経て、... -
作業中)海の熊野<谷川健一・三石学編>
■海の熊野<谷川健一・三石学編>森話社 20161119 □谷川健一 ▽9 土佐の捕鯨は、太地から習ったといわれます。壱岐の鯨漁は熊野の漁師を雇ってはじめたとされています。五島の有川も紀州湯浅の人が捕鯨を行ったのをかわぎりに、古座浦の人を招いて操業し... -
菜園家族の思想 よみがえる小国主義日本<小貫雅男・伊藤恵子>
■菜園家族の思想 よみがえる小国主義日本<小貫雅男・伊藤恵子> かもがわ出版20161118 高度成長からわずか半世紀で、多くの人々が大地から切り離され、家庭から生産や創造が失われ、都市部の家族は消費だけの存在になってしまった。それはいわば、細胞... -
明恵上人<白洲正子>
■明恵上人<白洲正子>講談社文芸文庫 20161106芸術にくわしい筆者が、いさぎよく美しい明恵の生き方を女性の視点から描き出す。 明恵は幸せな幼年時代だったが、8歳で母を亡くし、同じ年に父も上総国で戦死した。頼朝が兵をあげた時の戦だった。 「我は... -
美しい日本の私<川端康成>
■美しい日本の私<川端康成> 講談社 ノーベル文学賞受賞時の講演。明恵をどう位置づけているか知りたくて買った。 道元や良寛とともに明恵の歌を紹介する。 雲を出でて我にともなふ冬の月 風や身にしむ雪や冷めたき という歌について、「自然や人間にた... -
天神崎を守った人たち<河村宏男>
■天神崎を守った人たち<河村宏男>朝日新聞社 20161025 朝日新聞の記者が、天神崎にかかわった人々を丹念に取材し、日本のナショナルトラストの先駆的運動がどんな経緯をたどってきたのかを紹介している。それまでの自然保護運動とちがうのは、土地を買... -
熊野 海が紡ぐ近代史<稲生淳>
■熊野 海が紡ぐ近代史<稲生淳>森話社 20161024 ■熊野 海が紡ぐ近代史<稲生淳>森話社 20161024 熊野と海のつながりの歴史は別の本に詳しく書いてあったが、近代に関する記述はあまりなかった。エルトゥールル号事故や、アラフラ海のダイバーなどの... -
石にやどるもの 甲斐の石神と石仏<中沢厚>
■平凡社 20161004 紀伊半島を歩いているとそこここで丸石にであう。神社に転がる丸石は力比べをした「力石」だったり、信仰の対象だったりする。みなべ町の無人島・鹿島には地震の暴威をおさえるという要石という丸石がまつられている。丸石信仰はどこか...