■がんでも長生き 心のメソッド<保坂隆、今渕恵子>マガジンハウス 20180120
乳がんがあちこちに転移してしまったコピーライターの女性と、精神腫瘍科の医師の対談。
がんになってしまった恐怖や後悔、不安にどう対応したらよいのかを対談形式でわかりやすく紹介している。
まずはがんという病気の誤解を解きほぐす。がんは高血圧などと同じ慢性病である。そして99%のがんは痛みのコントロールができる。
告知されたとき、衝撃を受け、「あれは夢だった」と否認し、でも受け入れざるを得なくなって「受容」し、「もしかしたら誤診かも」とまた否認する。だれもがそんな経緯をたどる。
まず誤解をほぐし、それから運動療法で気分を前向きにする。
脳は、過去を振り返れば後悔のネタを探し、将来を考えれば不安や心配のネタを探し続けるという性質がある。
だから、意識的に脳を方向づけする必要がある。
脳は1度にひとつのことにしか集中できないから、料理でも掃除でも集中している時は、ネガティブな感情は消える。
悲しい感情は、無理して消し去る必要はない。ネガティブな感情があってもよいが、そんな感情に溺れてしまわないことが大事だ。悲しみがわき起こったら「ああ、脳がまた悲しみという感情をつくった」と、少し客観的な視点で眺めてみる。
その感覚、友人が言っていた。激痛があるとき、痛みを「観察」しようとすると、痛み事態が和らいでくると。
免疫力を上げるためにも、自律神経系をコントロールし、リラックス状態を自分でつくりだすとよい。そのための方法として、「腹式呼吸」と「筋弛緩法」(全身の筋肉を緩める)、「自律訓練法」、「イメージ療法」があるという。
さらに、紙とペンを用意して、「がんになって悪かったこと、失ったもの」を書いていく。書き尽くしたら、今度は「がんになってよかったこと・得たこと」を書きだして行く。「良かったこと」が自覚できることが大きいらしい。
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▽22 精神腫瘍科 1977年にNYの病院に精神科医が常勤したのがはじまり。日本では90年代から。
70年代に入ったころから、心の状態ががんの病状に影響を与えることがわかってきた。それ以降は「サイコオンコロジー」という名前でがんと心の双方向性の関係を研究するという新しい分野として確立された。…直訳して「精神腫瘍科」という名前ではじめた。
▽27 がんが属する「完治しない病気」のグループには、高血圧、糖尿病、痛風……うつ病など。うつ病も治療で確実に改善するけれど、「もう病院に来なくてもいいですよ」とはならない病気なので。
▽31 告知されて頭が真っ白になる「衝撃の段階」。一晩寝ると「あれは夢だったかも」なんて思えて「否認」の方向に。検査日程などが伝えられたりするとまた「受容」にふれるんだけど、少し経つと「いや、誤診という可能性があるかも」と「否認」して…
▽33 私は、2カ月ほどして、朝目が覚めてショックを受けることもなくなりました。…ところが、告知から3カ月も経ったころに、食事を支度する気が出なくなり、何を食べてもおいしくなくなって、何でもないことで涙があふれたり…。
告知直後の段階で、悲しんだりとか、泣いたりとか、しっかり「否認」を経ていなかったから、3カ月もして出てきちゃったのかしら。
▽35 認知療法「考え方の修正」 頭を使うのがしんどい、という患者さんもいる。
運動療法。週3回ほど運動をして、これを3カ月以上つづけてもらう。
運動には抗うつ剤と同じような効果があります。運動することで脳のセロトニン代謝が活性化する。
……お気に入りのスポーツがない人には?
スクワットを勧めます。筋トレのなかでは、もっとも効率的に運動効果が得られるトレーニング。上から見下ろしたときに、つま先が膝に隠れないように、膝を前に突き出さない角度で腰を落として、10回やって、少し休んで、また10回というように10分間ほど繰り返すだけで、十分な運動効果が得られます。
▽45 「がん診療連携拠点病院」 必ず相談室があって、心療内科や臨床心理士と連携を取ってくれたり、外部のクリニックを紹介してくれたり、かならず適切な方法を見つけてくれます。
▽52 カウンセリング 第1段階のテーマは「誤解から来る不安」の解消。第2段階は「脳の堂々巡り」の解消。
脳は、過去を振り返らせればわざわざ公開のネタを探し続けるし、将来を考えさせれば不安や心配のネタを探し続ける。とんでもなく根暗です。
…「東京オリンピックの時には死んでいる」というのも「絶対生きている」というのも根拠がない。根拠のないことを当てにして心を立て直そうとするポジティブ思考は非常にリスキーで、論理療法というカウンセリングでは「不健全思考」といわれている。何が健全な思考かというと、「東京オリンピックの時に死んでいるとは限らない」という思考ですね。
…脳に好きかってさせても、ろくな働きをしないから、自分で意識的に脳を操作したり方向づけしていくことが肝心になってきます。
…脳は1度にひとつのことにしか集中できない。…料理、窓ふき、タイル磨き…。集中している間は、ネガティブな感情は完璧に消えている。
…(悲しいとかこわいという感情を根本からなくすのは難しいのでは?)無理して消し去らなくてもいいんですよ。大切なのは、ネガティブな感情をつくらないことではなく、ネガティブな感情に溺れてしまわないこと。
…悲しいという感情があったら、それを脳の働きとして眺めてみるんです。悲しみがわき起こったら「ああ、脳がまた悲しみという感情をつくった」と、少し客観的な視点で眺めてみるんです(痛みを観察する〓)。
…ネガティブな感情がどこかへ行ってしまうのをのんびりして気持ちで待ってあげるんです。
▽59 「あきらめと絶望」は予後を悪くするが、「負けないで勝ってみせる」「真摯に受けとめて粛々と治療にとりくむ」「がんであることを忘れているかのように過ごす」の3つのグループは変わらない。2000年前後に論文が発表され、「その人なりにがんと向き合えばいい。それを全力でサポートする」というスタンスが主流になってきた。
▽71 「静」のストレス解消法である、リラクセーション法を身につけることが重要。全部で4つ。
一つ目は「腹式呼吸」。まずは大きく息を吐く。それからゆっくり吸う。胸ではなくお腹を膨らませるように吸う。今度はお腹がへこむように息を吐く。吐いて吸ってで、十数秒かけてほしい。
二つ目は「筋弛緩法」。下半身から、脚全体にぎゅーっと力を入れてしばらく息を止めてから、次に息を吐きながら一気に力を抜く。次はおしりのまわりに力を入れて、息を吐きながら一気に力を抜く。お腹、背中、肩…と、体のパーツをひとつずつ緩めていく。
三つ目は「自律訓練法」。「両手がだんだん温かくなる…」と頭のなかで何度も繰り返し、本当に手が温かくなってくるのをゆったり待つ。眠れないときに蒲団のなかでやるのもよい。
四つ目は「イメージ療法」。旅の思い出を利用すると入りこみやすい。楽な姿勢を取って眼を閉じる。そして、今までいった旅先で、のんびりくつろいているところを想像してみる。どんな音や声が聞こえて、どんな匂いがして、頬をなでる風の感触がどんな感じなのか、五感の記憶をたどって、できるだけ具体的に…。いつの間にかイメージの世界に引き込まれている。やればやるほど、どんな場所でもうまくできるようになっていく。
この4つの方法をマスターすれば、じつは自律神経系もコントロールできることがわかってきます。
…リラックス状態を自分でうまくつくり出せるようになれば、免疫機能の回復にもとてもいい効果をもたらします。気分の切り替えもうまくできるようになるから、仕事のパフォーマンスも上がります。
▽77 孤立感ほどがん患者の心にダメージを与えるものはない。連帯感ほど心を元気づけるものもない。「グループ療法」のメソッドをアメリカから日本に持ち帰ったんです。
▽81 「情緒的ソーシャルサポート」「手段的ソーシャルサポート」「情報的ソーシャルサポート」の3種類のソーシャルサポート。
▽85 「ベネフィット・ファインディング」 1枚の紙とペンを用意して、真ん中に縦の線を1本引く。左側に「がんになって悪かったこと、失ったもの」を書いていく。そのうち必ずペンが止まるので、今度は線の右側に「がんになってよかったこと・得たこと」を書きだして行きます。
……「悪かったこと」はすぐにネタ切れになって、たいてい「よかったこと」のほうが多くなってくるんです。
…「良かったこと」が自覚できるようになったことが本当にすばらしかった。リストとして可視化してみると、より確かなものとして実感できるようになる。〓〓(家族の立場でも)
…「ベネフィット・ファインディング」は、告知されて3カ月以上たった患者さんを対象とすることが多い。人間はどんな逆境に遭遇しても、3カ月経つと、その逆境に意味や価値を見出せるようになってくるからなんです。
▽104 患者力アップを。診察中にメモを取るとか録音するとか、きちんと記録するくせをつける心がけだけでも、「患者力」は上がっていきます。
▽106 心配症タイプの患者さんにおすすめする方法のなかに、「徹底的に心配してみる」という方法があります。…想定しうるなかで「最悪のシナリオ」を考える。できるだけ具体的に。「手術は成功した。ところが体のどこかに…1年後には苦しみにもだえながら、たくさんのことをやり残したまま無念のまま死んでしまう」とか。…次に、そのシナリオを検証するんです。…1年後に死ぬ、というのはあり得ない。今は痛みをコントロールできる時代だから「苦しみにもだえながら」もあり得ない。やり残していることが「若いころに断念した夢があった」などだったら、「じゃあ具体的に計画を立てましょう」って。
…現実は、最悪のシナリオよりはベターなんです。
…シナリオの内容を紙に書き出して、医学的な部分は担当医師に聞いてみたらいい。「仮に転移していたら1年後に死ぬ可能性があるのか」「末期になると悶え苦しむほど痛い者なのか」というように。
▽109 ネガティブな感情が訪れたら自分で区切らないといけない。
たとえばタイマーで「5分」とセットしてから、あえていつも以上に極限状態まで暗いことばかり集中的に考える。そして、ピピピと鳴ったら、今日はここまでと。
…人間の気持ちは、沈むところまで沈んだら、あとは浮きあがってくるような仕組みになっている。大事なのはその1セットを短時間で終わらせること…
▽128 櫻井なおみさんの「キャンサー・ソリューションズ」 がん患者と仕事。
▽133 「死にたくない」という思いを「なぜ死にたくないんだろう」と整理していく。すると次第に「子どもが立派に大人になるのを見届けたかった」などと具体的になっていく。これが肝心。それから「その心配を解決するために必要なことは何か」と整理していき、「自分が生きているうちにするべきこと」という生きる目標そのものに変換していく。
▽142 悔しそう、悲しそうにしている人がいる一方で、非常に穏やかに過ごしていらっしゃる方たちがいる。穏やかな方が3割ぐらい。
「エネルギーのあるなし」「スピリチュアリティのあるなし」で4象限に分ける。エネルギーの大小にかかわらず、スピリチュアリティのある患者さんほど穏やかな気持ちで死と向き合ってらっしゃる。
▽150 サイモントン療法 2003年、帯津三敬病院長を理事長に迎えて「NPO法人サイモントン療法協会」 副理事長が川畑伸子さん。
▽ アメリカのベストセラー「がんが自然に治る生き方」(プレジデント社)
▽157 日本の告知率は、90年代で30%程度だった。「インフォームド・コンセント」と同様に米国からの流れを受けてじょじょに上がって、2008年3月現在で70%。
▽165 あの世はあるか。…肉体が死ぬと、魂は違う次元の空間に行くんだと思います。「フラットランド 多次元の冒険」
…高次元があると仮定すると説明がつく事象がたくさんある。臨死体験。虫の知らせとか第六感。
…「あの世」という空間があると信じたほうがお得なんです。
▽179「祈り」の効果。自分の悩みや苦しみで心がいっぱいになっている時ほど、人のために祈れる自分になれたら、いろんな意味ですばらしい結果が得られると思います。(アンドーが紀伊半島の水害被災者のことを病室から祈っていた)
▽182 「生きがいの創造」飯田史彦
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