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国宝<李相日監督>2506

 時間とカネをふんだんにかけて、伝統芸能の世界での人間物語をえがきだす傑作。

 やくざの組長の息子として生まれた主人公の喜久雄(吉沢亮)は、抗争で父を殺され、上方歌舞伎の花井半二郎(渡辺謙)にひきとられる。半二郎には、喜久雄と同級生の跡取り息子・俊介(横浜流星)がいた。
 2人は女形として才能を開花させ、ライバルとなっていく。
 父の半二郎が後継にえらんだのは、「血」を受け継ぐ俊介ではなく喜久雄だった。「血統」の特権を「部屋子」出身の親友が奪ってしまう。
 血より実力、という冷徹な判断が親友同士だった2人を決裂させる。これが結論かと思ったら、まだ序盤にすぎなかった。
 俊介は失意のうちに、喜久雄の恋人だった女とともに夜逃げする。
 一方の喜久雄は、先代・半二郎の急逝後、やくざの子という過去があばかれ、正当な御曹司の地位をうばった「泥棒猫」と世間から白眼視される。
 彼も女と出奔し、地方の旅館の酔い客に芸をみせて糊口をしのぐ。そんなとき、親友だった俊介が表舞台に復帰して活躍していることを知る。
 福の禍となり、禍の福となる「塞翁が馬」。
 2人の成長と挫折を見てきた人間国宝の歌舞伎役者・小野川万菊(田中泯)の存在感が圧倒的だ。女形を演じる舞台はもちろん、若者2人をみつめる眼光や指先のちょっとした動きまで鬼気迫るものがある。田中泯のすごみが若い2人の役者に乗り移り、2人の舞もすごみを増していく。
 どれほど稽古をくりかえしたのだろう。
 3時間、まったく息を抜けなかった。
 李相日監督の作品を見たのは「フラガール」につづいて2作目だが、どちらも心にのこる傑作だ。


(ネタバレ ふたたび、少年のころのように2人で舞台に立つが、今度は病が俊介を襲う。なにもかもをすてて芸をきわめた喜久雄は……となる)

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