12小説・エッセー– category –
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デンジャラス<桐野夏生>
■中公文庫 数々の女性と浮名をやつし、それらの女性をモデルにした小説を書きつづけた谷崎潤一郞。彼と周囲の女たちの姿を、3番目の妻・松子の妹である重子の視点から描いた小説。 最初の妻千代は貞淑で谷崎の趣味にあわず、その妹で奔放な性格のせい子... -
ある光<阪本繁紀>
■和歌山下津漫画制作同好会250223 主人公は歌手をいわき市の女子高生。支えてくれた同級生に恋をして、幼い頃からの親友にさそわれて歌手になるため音楽の専門学校をめざす。 あたりまえの青春を謳歌しながら2011年3月11日に卒業式をむかえる。夕方の校... -
眠れないほどおもしろい おくのほそ道<板野博行>
■王様文庫241015 芭蕉の弟子で「おくのほそ道」の旅に同行した曽良が「おくのほそ道」の世界を紹介するというしつらえ。 芭蕉の「おくのほそ道」は事実をつづった紀行文だと長らく思われてきたが、1943年の「曽良随行日記」の発見で、フィクションが... -
眠れないほどおもしろい紫式部日記<板野博行>20240128
■王様文庫 中宮彰子につかえていた和泉式部が語り手として、同僚の紫式部や、彰子のライバルの中宮定子とその下の清少納言らついても解説するという組み立て。 中宮定子が清少納言らをあつめて最高の文化サロンをつくっていたが、道長のごりおしで彰子も... -
巡礼の家<天童荒太>
■20230225 舞台は道後温泉の宿「さぎのや」。 水害で兄以外の家族を亡くした15歳の雛歩は、お世話になっていたおじの家の認知症のおじいさんを「殺して」家を飛び出し、山でたおれているところを「さぎのや」のおかみに救われる。 さぎのやは、帰る場所... -
ある男<平野啓一郎>文春文庫
映画を最初に見た。その感想は下記のようなものだった。 ストーリーは原作もほとんど変わらないが、ラストだけは大きくちがった。 小説の結末は凡庸だったが、里枝一家の成長物語という意味づけが映画よりよくわかった。 原作と映画、どちらがよいか... -
須賀敦子全集2
■河出書房新社 須賀敦子は1953年に24歳でパリに留学したが、パリでの暮らしはつらいものだった。帰国して一時NHK国際局で働いたあと、29歳のときカトリック留学生としてイタリアに向かった。イタリアにどっぷりつかり、貧しい鉄道員の家で育った夫ペッピ... -
恋と日本文学と本居宣長<丸谷才一>20210815
中国の文学は恋愛は描かれず猥談も嫌がる。結婚制度を乱さない妓女への執着を歌うことが許された程度だ。詩歌の主流は友情の歌だった。 なのに日本文学では源氏物語や万葉集のころから恋愛が取りあげられてきた。歌の主流は相聞歌だ。柿本人麻呂も紀貫... -
眠れないほどおもしろい平家物語<板野博行>
■三笠書房王様文庫 20210819 平家物語の見どころを抜粋して、とくに人物に焦点を当て、原作にはないエピソードもふんだんに加えて登場人物の魅力を浮き彫りにしている。 平家=悪、源氏=善、という一般の印象を覆し、むしろ平家の人々の人間らしさとお... -
智恵子抄の光と影<上杉省和>
大修館書店 20210730 気が狂ってしまった妻、智恵子に最後まで寄り添った高村光太郎。愛を貫いた日々を振り返った「智恵子抄」は涙なしには読めない。 でも戦後、いくつかの疑問が呈された。自由を求める「新しい女」が家庭に縛られることで精神を病ん... -
打ちのめされるようなすごい本<米原真理>
■文藝春秋20210316 米原真理のエッセーは抜群におもしろかった。その彼女が「打ちのめされるような」本って、どんな作品なのだろうと思って読んだら、その書評の面白さに打ちのめされた。その切れ味は齋藤美奈子の書評を彷彿とさせる。 僕が書く書評はど... -
だいたい四国八十八ヶ所<宮田珠己>
■集英社文庫20200821 途中でカヌーの川下りやシュノーケリングをしたり、しまなみ海道を自転車で走ったり……かなり軽いおアウトドア系遍路本だと思って手に取った。 読経はするけど線香やロウソクは省略する、というのは私と同じ。杖も白衣も身につけな... -
星と祭 上下<井上靖>
■角川書店20191208 主人公は、前妻との間にできた17歳の娘みはるを琵琶湖の水難事故で亡くした。大学生の男友達とともに遺体はあがらなかった。 夜中に何度も目覚め、目覚めるたびに心は悲しみで冷たくなる。何をしても張り合いを感じない。友だちづき... -
剱岳 点の記<新田次郎>
■文春文庫 20191128 学生時代に読んで、最近映画を見たものだから再読した。 富山に住んで立山は何度も登ったから、小説に出てくる場所の描写が手に取るようによくわかる。柴崎測量官が歩いた、ザラ峠、鷲岳、鳶山、越中沢岳、出原山、丸山などは何度... -
さよならの力<伊集院静>
■講談社 20191112 20代で弟を30代で前妻の夏目雅子を亡くしている。その彼が身近な人の死をどう受け止めたのか知りたくて手に取った。 「なぜ彼女がこんな目に、なぜ自分だけがこんな目にあうのか」と混乱し、1年間はすさんだ暮らしを送った。 ... -
早く家へ帰りたい<高階杞一>
■夏葉社 20191106 貸してもらって、なんの予備知識もなく読みはじめた。 難病を抱えて生まれた息子の雄介くんが、何度も手術を受けて、ちょっとずつ元気になって、笑って、しゃべって、「いないいないばー」でキャッキャと喜ぶ。 はじめて笑った時、「ぼ... -
深い河<遠藤周作>
■講談社文庫 20190225(新幹線で) 磯辺という男は妻をがんで亡くそうとしている。子どもがいないから妻が死んだら一人になる。 妻は、「命は決して消えない」と樹木が語ったと言う。死を間近にすると不思議な感性が得られる。それは永遠の命とつながる... -
「3月のライオン」実写版と漫画 20190121
「3月のライオン」実写版を4時間かけてみた。 小学3年生のときに父母と妹を亡くした主人公の桐山零は、父の友だちの棋士の家で育てられる。家族も何もない。空虚のなかで将棋にしがみつき、そのなかで母を亡くした3姉妹と出会う。 家族が消えた穴は「... -
アミターバ 無量光明<玄侑宗久>
■アミターバ 無量光明<玄侑宗久>新潮文庫 20181201 がんで余命幾ばくもない女性が主人公。娘とその夫で僧侶である慈雲さんが付き添っている。 病気が進み、ベッドから起き上がれなくなると、夢が多彩になり、さまざまな時間と空間が入り乱れてくる... -
中陰の花 <玄侑宗久>
■中陰の花 <玄侑宗久>文春文庫 20181118 「中陰」とは、「有」と「無」の中間、陰と陽のどちらでもあるようなあり方という。49日に中陰が終わると、あちら側に行って成仏するのだ。 主人公の禅僧が、幼いころからお世話になった拝み屋のおばあさ... -
上を向いてアルコール<小田嶋隆>
■上を向いてアルコール<小田嶋隆>ミシマ社 20180615 アル中が重度化して、幻聴を聞くようになり、知らない間にトイレとまちがえて衣装ケースに小便をするようになってしまった。 専門医に「8,9割は治らない。だけどまあ、あなたはどうやらインテリ... -
生き上手 死に上手<遠藤周作>
■文春文庫 20180305 「ひとつだって無駄なものはないんです。僕が味わった苦しみ。僕が他人に与えた苦しみ」。罪でさえも意味がある。 死んだ父や母や兄姉と、盆の間は交流したいという願望は日本人に特有のものである。それは死んだ肉親が自分からそう... -
イエスの生涯<遠藤周作>
■イエスの生涯<遠藤周作> 20170925 遠藤周作が描くイエスの伝記。 ローマ帝国によって支配されている時代背景や、傀儡政権のように統治する宗教指導者や権力者、政治犯たちの立場と心理を小説家の想像力で具体的に描くことで、イエスの生き様の意味... -
2時間でおさらいできる日本文学史<板野博行>
■2時間でおさらいできる日本文学史<板野博行>だいわ文庫 20161231 加藤周一の「日本文学史序説」を要約して、かみ砕いて、中高校生にもわかるようにした、という印象を受けた。長い文学史を一覧できるから大きな流れが理解しやすい。それぞれの作品の魅... -
千年の愉楽<中上健次>
■千年の愉楽<中上健次>小学館文庫 20161229 和歌山県新宮市の臥龍山という山のふもとにある被差別部落「路地」に住む中本一統の男たちの物語。産婆として「路地」の子を手にとりあげ、路地の過去も現在も未来も知るというオリュウノオバを狂言回しにし... -
岬<中上健次>
■岬<中上健次>文春文庫 20161126 ▽黄金比の朝 夜勤の肉体労働をしながら大学をめざす浪人生が主人公。母は旅館の仲居をして、売春もしながら生計を立てている。腹違いの兄は、過激な学生運動にかかわり、主人公の家に逃げてくる。 母を恨み、大学をやめ... -
美しい日本の私<川端康成>
■美しい日本の私<川端康成> 講談社 ノーベル文学賞受賞時の講演。明恵をどう位置づけているか知りたくて買った。 道元や良寛とともに明恵の歌を紹介する。 雲を出でて我にともなふ冬の月 風や身にしむ雪や冷めたき という歌について、「自然や人間にた... -
カヌー式生活<野田知佑>
■カヌー式生活<野田知佑>文藝春秋 20160923 久々にカヌーに乗るようになって、アユ釣りの人との確執やらの話を聞いて、野田さんはどんな思いでカヌーに乗りつづけてきたんだろう、と考えた。以前何冊か読んでいたが、10年以上ぶりに手に取った。 若いこ... -
夢の船旅 父中上健次と熊野<中上紀>
■夢の船旅 父中上健次と熊野<中上紀>河出書房新社 20160713 中上健次の人物像を知りたくて購入した。作家の中上紀が、父の中上健次の思い出と、その背景に広がる「熊野」の印象をつづっている。 父は床にうつぶせになって、タバコを吹かし、コーヒ... -
日記をつづるということ 国民教育装置とその逸脱-西川祐子
■日記をつづるということ 国民教育装置とその逸脱<西川祐子>吉川弘文館 20160711 日記を史料として用いるためには、日記の通読「つづけ読み」と同時に、事実確認のために他の日記の併読「ならべ読み」をする必要がある。「つづけ読み」と「ならべ読...