■文春文庫 20191128
学生時代に読んで、最近映画を見たものだから再読した。
富山に住んで立山は何度も登ったから、小説に出てくる場所の描写が手に取るようによくわかる。柴崎測量官が歩いた、ザラ峠、鷲岳、鳶山、越中沢岳、出原山、丸山などは何度も眺めた。拠点のひとつとした立山温泉は廃墟になり、今はたどりつくのも難しい。筆者は営林署やガイドの助けを借りて旅館の跡を訪ねている。
今は登山道が整備されている山々も当時は人跡未踏に近かった。主人公の柴崎ら測量隊は野宿を重ねて歩き、地図のもとになる三角点を築いていった。その労苦がひしひしと伝わってくる。
映画では剱岳に立派な三角点を築くことになっているが、実際は資材を担ぎ上げられず、記録にも残らない四等三角点しか設置できなかった。「至上命令」によって未踏峰とされていた剱岳に命を賭して登ったが、頂上には奈良時代の行者が登頂した証拠の品が残されていた。
軍隊という組織のいびつさをも浮き彫りにする小説だった。
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