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ある男<平野啓一郎>文春文庫

 映画を最初に見た。その感想は下記のようなものだった。
 ストーリーは原作もほとんど変わらないが、ラストだけは大きくちがった。
 小説の結末は凡庸だったが、里枝一家の成長物語という意味づけが映画よりよくわかった。
 原作と映画、どちらがよいか。
 ラストは映画のほうがインパクトがある。
 でも、登場人物の人生をたどるという意味では原作のほうが現実味をかんじる。
 今までの経験では、映画より原作の方が複雑でおもしろいことが多いのだが、今回は優劣つけがたい。
 どちらか選べといわれたら、ドラマチックな映画をえらぶかな。

=======映画の感想=========

 赤ん坊を亡くして離婚し、幼い息子とともに実家にもどってきた里枝は、山仕事のために移住してきた大祐と恋に落ちて再婚する。息子とあらたにできた娘と4人で暮らしていたが、結婚から3年9カ月後、大祐は山の事故で亡くなる。
 大祐は伊香保温泉の旅館に生まれ、兄がいる。その兄がお参りに来たとき「大祐」の写真をみて「弟(大祐)じゃない」と言う。なんらかの理由でなりかわっていたのだ。
 夫は犯罪者だったのか? いったいだれなのか? 里枝は、身元調査を城戸弁護士に依頼する。逮捕されている詐欺師の仲介で戸籍のすり替えをしていたことが判明する。
 謎解きをする城戸弁護士は在日3世で、妻は保守的な金持ち家庭のお嬢さん。息子がひとりいるが、セレブの妻との関係はギクシャクし、「大祐さがし」の過程で、そのギャップは次第にひろがっていく。
 ミステリーならば、謎がとけて、里枝がなんらかの希望を見出すことができれば物語はまとまる。だが、探偵役の城戸夫婦のギクシャクはどんな形で結着をつけるのか? なかなか見えない。
 謎が解けるとともに、二人が大切なナニカに気づいて元の鞘におさまる、というのではやすっぽい。人生観のちがいに気づいて別れる、というだけでも弱い。着地点がみえない。
 「大祐」の身元が判明したとき里枝は、「今から思うと、彼の身元は知らなくてもよかった」と述懐する。あの3年9カ月が幸せだったのなら、それでいいじゃないか、と。
 それが、伏線となって、城戸夫妻の関係は……。
 え? そうくるか! というみごとな結末だった。

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