■講談社251130
甲子園口にすんでいて、芦屋からロックガーデンをへて有馬温泉まで歩き……と、30代の私とおなじ生活圏でおなじような山歩きをしていることにまず親近感をおぼえた。あえて登山道を通らない山歩きも、一時期やってみたことがあったが、私は地下足袋をはいていた。ピックステッキやチェーンスパイクをつかえばもっとうまく歩けたのか……といった部分も勉強になった。ストーリーは単純だけど、登山の描写だけでも楽しめた。
主人公は会社の同僚にさそわれて六甲山に登るようになる。
おなじ会社の職人気質の男(妻鹿)はグループにには属さず、あえて登山道からはずれて山を歩く「バリ(バリエーション)山行」をしていた。
もとは中小の顧客を大切にする会社だったが、社長が代替わりして、安定をもとめて大手の下請けにはいり、小さな顧客を切っていく。安定するかわりに大手の担当者の接待などに追われるようになる。一方、職人気質の妻鹿は、下請化をきらい、こっそり昔の客とのつきあいをつづけていた。
決められた登山道を歩くのは「下請け」的な登山であり、道のない山を歩くバリ山行は、自分で顧客をさがす自立的な登山である。仕事のあり方や生き方と登山のスタイルを重ね合わせてストーリーが展開する。
主人公は妻鹿のような職人気質の生き方と、バリ山行に次第にひかれていく。安定より自由を志すようになっていく。
コメント