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ここにいるよ<真山仁>

■祥伝社260124
 能登半島地震をテーマに東京新聞・中日新聞に連載された小説。
 主人公の退職教員は阪神大震災で妻と娘を亡くし、東日本の被災地の小学校を支援した経験をもつ。2024年正月、教え子が女将をつとめる温泉旅館に遊びに来て被災する。廃校がきまった小学校のかわりにNPOと石川県が設立した「のとそいる」小学校の校長に就任する。
 舞台の「えびす温泉」のモデルは和倉温泉だとすぐわかる。本当の地名と架空の地名や人物が混在しているから、どこまでが事実でどこからが創作かわからない。だから逆に本質をえぐりとることができる。
 旅館の経営者が避難所に弁当やお茶を寄付しようとしたら、役所の職員が「数が足りないから辞退する」と言う。東日本大震災では、避難者数より提供数が少ないという理由で受けとりをことわる例があった。能登でも役所の職員がボランティアを拒否することがあった。
「えびす温泉のお客様と従業員は無事でございました」と避難所で報告して拍手が広がることに「とても嫌な気分」がする。片隅には家族や自宅を失ったかもしれない地元住民がいるからだ。
 「えびす温泉の奇跡」という報道にも違和感をおぼえる。メディアが「奇跡」ともちあげると、その言葉にしばられて苦労することになる、という。東日本ではさまざまな「奇跡」が報じられた。筆者は奇跡のその後を取材してきたから、小説のなかにおりこむことができたのだろう。。
 地震から1カ月ちょっとで、報道は激減する。
「マズいですね。風化とか忘却ではなく、無関心モードに入ってますから」
 忘れることと無関心のちがいを明確にできる記者はほとんどいないだろうな。
 東日本や熊本にくらべて被害は……復興のスピードが……と比較されることへの違和感は何度も何度もでてくる。
「被害比べ、やめません? 私、それ聞くたびにむかっとするんだよね」
「東北に比べて遅いという話、東北の被災経験者がしきりに言ってるんだって、僕は現地で聴きました」
「酷いなあ。私たちだって、阪神の経験者の人に、東北はとろいって言われてむかっとしたよね。なのに、今度は偉そうに自分たちが言うなんて」……
 避難が解消されるペースや、断水の復旧、仮設住宅の建設も、熊本よりはるかに遅れていた。それは事実だ。だが毎日のように「能登は遅れている」という言葉を耳にして、うんざりする……。
 「能登のとと楽、加賀のかか楽」は地震でもかいま見られた。だが事実として「男はさぼっている」と報道することはできない。小説はそれをうまく織り込んでいく。
「仮設に暮らす人たちのなかには、朝からパチンコやったり、昼間っから酒呑んだりぶらぶらしてる人もいるでしょ。あれは、とと楽の名残かもね」
「今のお父さんたちのとと楽は、……街の活気が蒸発して、生きるのが精一杯の暮らしのなかで、なんとかふんばっていた人たちの心が、地震でポキッと折れちゃったせいもあるのではないでしょうか」
 一方的に善悪を断じない。迷いを迷いのままえがく。創造力と想像力がうらやましい。
 「珠洲市復興未来シンポジウム」で外からきたボランティアの男性は「もっと積極的に不満を声にして、要望を訴えるべきなんですよ。能登の人は、何を遠慮しているのか、お行儀がよすぎます」と強弁する。
 一方、身内を亡くした女子小学生は「比較されるつらさいをぶちまける。
「いつも大人の方たちは、誰かと、何かと比べている。大震災に襲われたこともつらいですが、ずっと何かと比べられているのは、もっとつらいなと思うようになりました。私は、今感じていることを、しっかりと日本中の人に伝えたいと思います」
 そしてこう言う。
「私たちはここが大好きで、ここにいるよ。みんなの故郷になるために、毎日頑張っているよって、ずっとここから発信し続けたいんです」
 つらい地震と豪雨だったけど、「いま・ここ」を大切に生きている。それを発信し、全国の人たちともつながって生きていきたい。「ここにいるよ」というタイトルはそんな思いをこめている。

 個人的には、この登場人物はだれがモデルだろう……と想像しながら読むのも楽しかった。「白髪頭の輪島塗の人間国宝」は小森邦衞さんかな。「父は蒔絵や沈金のような加飾は一切しません」「シンプル・イズ・ベスト」は、桐本さんや吉田さんが言いそうだ。
 間垣の里の上大沢・大沢で「間垣は……やわらかく受け入れる。能登は『待ちの文化』の地です。間垣はその象徴です」というのは藤平朝雄さんの言葉だな。
 巻末をみたら #能登のムラは死なない を参考文献にあげてくれていた。ありがたい。でも自分に豊かな創造力があれば小説を書いてみたかったなぁ。

===
・小学校廃校を市が一方的に決める。それに反対して……
・「きのどくな」といわれてびっくり。「ありがとうという意味の方言なんですって」
・「能登そいる小学校」教頭は県教委からのお目付役
・これまでえびす温泉郷は、それぞれの旅館が娯楽施設やカフェ、土産物屋まで完備し、宿泊客を囲い込む戦略のところが多かった。その結果、温泉街としての風情にとぼしく……
・揚浜塩田の塩サイダー。
・「今のお父さんたちのとと楽は、……街の活気が蒸発して、生きるのが精一杯の暮らしのなかで、なんとかふんばっていた人たちの心が、地震でポキッと折れちゃったせいもあるのではないでしょうか」(金蔵〓)
・泊まった客には国が7割宿泊費を補助するって言ったでしょ」「えびす温泉郷には、今、泊まれる旅館は1軒しかないんですよ」……のと半島をバカにしてるんでしょうか
・「分かったつもりでスルーされていく能登半島」
・マンホール隆起の原因ともなった下水管の被害は、能登半島全域で総延長の50%を超えている。阪神では2%にすぎず、中越や熊本などでも10%未満だったのに比べると深刻な状況……
・「震災で焼け太り? 輪島塗チャリティで、失敗作まで高額売却」という見出し
・朝市 焼け跡のままの荒れ地。「うちは無事でしたが、お隣の団子屋のご主人が亡くなりました」
・間垣の里 上大沢。大沢は椀木地の材料のアラカタの産地だった。
「輪島塗は、輪島でつくるからこそ意味があるんです。……才気煥発な塗師屋の活躍も重要です。でも、それ以上に大切なのは、能登人気質だと思っています」
「間垣は……やわらかく受け入れる。能登は『待ちの文化』の地です。間垣はその象徴です」
・えびす温泉 泊食分離をめざす若手。

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