■弘文堂2511
１９９５年の阪神・淡路大震災以降、災害ボランティアは定着してきたはずだったのに、東日本大震災では、自粛ムードによって初動が遅れた。２０２４年の能登半島地震では石川県が知事を筆頭に４カ月にもわたって「ボランティア自粛」を言いつづけ、さらに遅れた。
この本は２０１４年出版だから、東日本大震災までのボランティアの流れと課題が網羅されている。
阪神淡路大震災のボランティアは自発的で自由な活動として生まれた。制度の枠にとらわれない自由な発想で、「被災者のそばにいる」ことを重視してさまざまな活動が生まれ、NPO法成立にもつながった。
１９９７年の重油流出事故は、作業が単純に見えたたため、災害ボランティアが空間的に拡大された。９８年の南東北・北関東水害ころから、ボランティアを受付・派遣する災害ボランティアセンターが、行政や社協とNPOが協力して開設されるようになった。
２０００年ごろ、災害NPOが行政機関との会合にも定期的に参加するようになり、各地の防災計画に「災害ボランティア」という言葉が見られるようになった。
０４年の新潟県中越地震では、緊急時の災害救援活動だけではなく、長期の被災地の復興にかかわるようになる。０７年の中越沖地震では、援助する側の社協職員などからじっくり話を聴く寄り添いプロジェクトを進めた。
こうした進化の一方、ボランティアが効率的にコーディネートされるようになると、臨機応変な対応を忌避し、秩序を求める動きが強まってきた。
こうした「秩序化のドライブ」をふせぐには、ボランティア活動の境界を流動的にする戦略（たとえば危険とされた家屋にも部分的に立ち入って活動することを提案）や、災害ボランティアの原点が阪神・淡路にあったことを確認する戦略が必要とされる。
０４年の中越地震の被災地は、過疎・高齢化・伝統社会への誇りなど、都市社会にはない要素が多く、新しい発想の活動が求められた。被災者を中心とする発想へたちかえり、集落をつぶさに眺める機運が高まった。各集落で地域リーダーを見いだし、住民と協働して集落独特の活動を展開した。救援活動中心だった災害ボランティアが、集落復興という活動へ幅を広げることになった。
「秩序化のドライブ」は弱まるかに見えたが、災害救援活動で成立しつつあった「コーディネート」「災害ボランティアセンター」「ネットワーク」という動きが、「集落のコーディネート」「復興支援センター」「地域のネットワーク」という具合に復興場面にももちこまれた。住民一人ひとりへの関わりは薄まり、被災者を中心にボランティアが臨機応変に展開するという特徴が見失われてしまった。
０７年の中越沖地震であらわれた足湯や寄り添い活動は、被災者を活動の中心にすえて臨機応変に対応しようとした。災害ボランティアの原点である「助けつつ助けられる」という関係へひきもどすとりくみだった。
２０１１年の東日本大震災では、災害ボランティアが定着しつつあったがゆえに、かえって初動が遅れるという事態が生じた。「受け入れ体制が整っていないので、ボランティアは来ないで」という情報が被災地からも流れた。参加自粛を呼びかける組織もあった。
①受付・登録 ②ニーズ紹介 ③活動後はセンターに報告 ④報告と新たな申し込みをもとにニーズ票を整理して翌日のマッチングへ……という「標準形」には、肝心の被災者が欠落している。
「秩序化のドライブ」の結果、救援のための手段にすぎなかった災害ボランティアが目的化し、それを達成するための秩序維持が優先されるようになっていった。ボラセンがなにもかもコーディネートしようとすることで、ボラセンを通さない団体や個人に警戒感をもち、創意に満ちたボランティア活動を妨げる例もでてきた。
「受け入れ体制」やボラセンが存在しなくても、現地へ行けばできることがある、ということが忘れられてしまった。
東日本大震災のとき、全国の災害NPOが終結して連携するという構想があったが、筆者の関係するNVNADは、それに加わらなかった。緊急時に多様な人があつまって、被災者本位の決定を矢継ぎ早にくだしていけるのか不安を覚えたからだ。被災者のそばに行くことを優先した。
東京からの支援が届きにくい被災地北部に照準をさだめ、旧知の弘前大学教員を介して視察し、野田村を拠点に選んだ。
関西から月１回、片道１８時間のボランティアバスを２年間で２０回運行した。往路は車中泊、２日間活動し、また夜行バスで帰った。
１日の活動が終了すると宿泊先で感想を共有し、被災者本位の活動になっているかをチェックした。
仮設ができると、毎月「誕生会」を開いた。「皆さんはまた来てくれる。今日はうまく話せなくても、今度会って話せばよい。そう思うと楽になる」と言われた。「みなし仮設や自宅で孤独にすごす人たちにもボランティア活動を」という声にこたえて、社協の生活支援相談員とみなし仮設を訪問を訪問する。津波で流された写真を回収・修復して、「写真返却お茶会」をもよおした。
新潟・小千谷で東北の被災者を受け入れた社協職員は「こんな時こそ、助けてもらったお礼をしなければ」と立ちあがった。さらに、新潟県の被災経験者が東北へと救援活動に向かった。「被災地のリレー」が生まれた。
研究者としては、さまざまなコミュニティや組織といった現場に入りこみ、現場の当事者と現場の改善にたずさわる学問「グループ・ダイナミックス」を提唱する。
グループ・ダイナミックスは、人々の内面に心を想定しない。そして、現場にはいる前には研究計画を準備せず、なんであっても現場で必要とされる事柄を遂行する。言葉の変化を通して、世界の意味が変化していくことをもって研究成果と考える。
要は事前の問題意識の枠をはめるのではなく、現地の人と活動するなかで問題を浮き彫りにしていく、ということだろう。
エスノグラフィー（聞き書き）は、グループ・ダイナミックスの途中経過を記したテキストであり、一度書かれたものは、災害の当事者や現地の多様な人々、さまざまな分野の研究者や郷土史家らが改定をくり返す、という。さまざまな人によって加筆され、そこから実践活動が生まれ、その活動がまた新たなエスノグラフィーとして記述される……という動的なあり方が大きな可能性の一つだと考えられる。
これは実感としてよくわかる。能登半島地震でも、地震前のレポートを参考に新たな活動が生まれ、それを記述することがまた別の活動が生まれる……という例がでてきているからだ。
災害直後には、災害ユートピアやパラダイスという状態になり、「即興」を交えた助けあいが機能するが、短期間で消滅する場合が多い。
それを持続するためには、災害NPOは、即興的な運営を通して、災害ボランティアに関する意味を構成し、社会における新たな選択肢を提示していく必要がある。筆者らの災害NGOでは、被災者との間で個別の関係を構築することを奨励している。対話を通じて、新たなニーズを把握できるからだ。上記のエスノグラフイーはそのためのツールになるのだろう。秩序化のドライブに対抗する「遊動化のドライブ」を駆動するためにも「ただ傍にいる」という原点回帰がもとめられる。
あと、「心のケア」ブーム批判も印象的だった。
心のケアというのは、心が傷ついた個人を救援するという発想だ。本来「心」をケアするならば、「心」を析出する社会的文脈のケアを模索すべきだ。社会システムの脆弱さを個人の問題に矮小化し、「専門家」にまかせるのはおかしい、という。
災害復興論における死者の存在（臨在）の大切さの指摘も納得できる。
過去の死者たちを想起することを復興の道筋につなげる。
「物語」やメタファーも力を発揮する。０４年の中越地震で被災した塩谷集落の「塩谷分校」と称する有志の会は、住民の学び合いを通した復興活動を目的として生まれた。「生徒会長」、行事の担当は「日直」、懇親会は「給食係」が担当する。「分校」というメタファーに導かれて、次々に活動を展開してきた。
能登町不動寺支度の「水車の里の音楽会」も「学校」をメタファーにすることで、男女も老若も平等な「祭り」を生みだしていたことを思いだした。
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▽20 「主たる被災地」であるかどうかに関わりなく、東京からの支援が届きにくいと思われる被災地北部に照準を定め、そこで生まれる出会いに賭けてみようと思った。弘前大学の山下祐介氏に連絡をとり……
▽21 災害ボランティアセンターよっては、何でもセンターで扱うという姿勢が見られ、それではボランティアの創意に満ちた活動を妨げてしまうのではないかという懸念をもっていた。
▽24 「受け入れ体制、災害ボラセンといった言葉に惑わされることがまちがっている。受け入れなどなくても、ボラセンが存在しなくても、とにかく現地へ来ればできることがある」
▽26 西宮から野田村へボランティアバスを運行。片道１８時間。運行費用は、支援金や西宮市からも補填。月１回、２年間で２０回。往路は車中泊、２日間活動し、また１８時間の夜行バスで帰る。……１日の活動が終了すると、宿泊先に移動し、感想をひとりひとりのべて共有し、被災者本位の活動になっているかを随時チェックしていた。
▽27 ボラセンですべてコーディネートする傾向がある。その結果、ボラセンを通さない団体や個人に警戒感をもつ場合があり、過度になると、被災者を置き去りにしたまま、支援者間の葛藤に発展する場合もある。
▽29 現地拠点があると、資材や足湯活動の道具などを毎回運ばなくてよい。ボランティアの休憩や着替えの場所にもなる。
▽33 仮設住宅 イベントのない日には、仮設住宅をぶらりと訪れ、話をし、知り合いが広がって……。。
▽36 新潟・小千谷で被災者を受け入れ。社協職員がケア。「こんな時こそ、助けてもらったお礼をしなければ」
「被災地のリレー」
その後、新潟県で過去に被災した人々が東北へと救援活動に向かう。
▽44 救援物資 被災された人たちの立場に立って、送り元で分類整理してから送る。
避難生活が長引くと季節が移り、必要な物資もかわってくる。
▽50 「仮設住宅に入居している人たちばかりが被災者ではない。みなし仮設でもボランティア活動を展開してほしい。家で孤独にすごす村民にも展開してほしい」地元の社協と連携し、生活支援相談員といっしょにみなし仮設を訪問。
▽52 毎月の「誕生会」 「北リアスの皆さんはまた来てくれる。今日辛くて、うまく話せなくても、今度会って話せばよい。そう思うと楽になる」
寄り添い活動は、じっくりと落ち着いて行うことだと教えられる。
▽54 写真班 写真の回収・修復・展示をおこなっていたが、その後、写真返却お茶会を展開する。写真のクリアファイルを回覧し、自分の写真があれば、番号を写真班に告げる。写真を持ち主に返すための会合。
▽57 東日本大震災後、地域FM局の設置にかかわる規制が緩和され、被災地にも臨時のFM局が次々設置され、復旧復興時の情報発信に寄与した。
▽65 チーム北リアス現地事務所の向かいに、大阪大学野田村サテライトが開設された。
▽68 グループ・ダイナミックスは、研究者が、さまざまなコミュニティや組織といった現場に入りこみ、現場の当事者と一緒に現場の改善を行っていく実践的な学問。
……人々の内面に心を想定しない。
▽70 グループ・ダイナミックスは、現場に入るときにあらかじめ研究計画を準備しない。そのかわり、なんであっても現場で必要とされる事柄を遂行する。
……言葉の変化に着目し、言葉の変化を通して、いわば世界の意味が変化していくことをもって、その研究成果と考える。
▽87 エスノグラフィーは、グループ・ダイナミックスの実践と研究の途中経過を記したテキストである。いったん書かれたエスノグラフィーは、研究者のみならず、災害の当事者である被災者や現地の多様な人々、別の分野の研究者や歴史家、郷土史家といった人々が参加して、改定をくり返すことを想定したテクストである。
▽90 エスノグラフィーが、時を経て継続し、さまざまな人によって加筆され、そこから実践活動が生まれ、その活動がまた新たなエスノグラフィーとして記述されていく。きのような動的なエスノグラフィーのあり方が大きな可能性の一つだと考えられる。
▽100 阪神・淡路大震災後の「心のケア（騒動）」……専門家とされる臨床心理士の乱入に対して被災現場は拒否的であったという……いかにも専門家という姿勢で被災者に接したために、受け入れられず、むしろ生活経験豊かな被災者のほうが、はるかに有為なせっしかたをして安心を提供してきたと報告している。
……中央志向、資格志向、専門家志向をもち、公的センターを開設し、仕事を生みだしていく。
▽103 「心」のケアというのは、心というものが傷ついた個人にたいする救援が必要であるという発想である。……「心」のケアをしようとするならば、「心」を析出する社会的文脈に配視し、そのケアについて方法を模索すべきである。
……社会システムの脆弱さを専門家ありきの心のケアで補足しようとする魂胆……のおかしさ。
▽111 協働想起の実践には、痕跡や慰霊碑、博物館といった場は有望である。「人と防災未来センター」では、語り部ボランティアが活動しており、対話を通して来館者とともに集合的想起を喚起している。
▽118 阪神から１０年を経過するころから、災害ボランティア活動は、どんどん広がりを見せてきた。２００４年の新潟県中越地震では、緊急時の災害救援活動だけではなく、現在も被災地の復興に携わるボランティアがいる。２００７年の中越沖地震では、被災者はもちろん、援助する側にまわった社協職員などからじっくり話を聴くという寄り添いプロジェクトを進めた。
▽121 災害ボランティアの空間的拡大に拍車をかけたのは、１９９７年に発生した重油流出事故だった……作業そのものは誰にでもできる活動として映った。
▽122 １９９８年南東北・北関東水害の頃からは、ボランティアを受付、派遣する災害ボランティアセンターが、行政や社協とNPOが協力して開設されるようになった。
……２０００年ごろから、災害NPOは、行政機関との会合にも定期的に参加するようになり、各地の防災計画にも災害ボランティアという言葉が見られるようになった。
……阪神・淡路から１０年を迎えることには、災害ボランティアが秩序だって活動する基盤が整備されていった。
▽124 一方、災害ボランティアが当たり前に存在し、効率的にコーディネートされるようになると、被災者を中心にすえ、臨機応変に対応するという本来の意義が見失われてしまうのでは、という懸念も出てきた。臨機応変な対応を回避、忌避するような秩序を求める動きが駆動されていった。
「秩序化のドライブ」
▽ 災害ボランティアは、被災者のそばに「いることからはじめ、臨機応変に既存システムの内外を柔軟に往復する実力が問われる。
秩序化のドライブを制動するには、ボランティア活動の境界を曖昧で流動的にしていく戦略（たとえば危険とされた家屋にも部分的に立ち入って活動することを提案）、もうひとつは、災害ボランティアの原点が阪神・淡路にあったことを確認する戦略。
▽128 ２００４年の中越地震の被災地は、過疎・高齢化・伝統社会・集落への誇りなｑど、都市社会では顕著ではない事柄がたくさん見られた。新しい発想のボランティア活動が求められた。被災者を中心とした活動を展開するという発想へと立ち返り、中越の集落をつぶさに眺める機運が高まった。……各集落で復興へと歩む地域リーダーを見いだし、住民と協働して集落独特の活動を展開した。
……それまでは救援活動に焦点をあてていた災害ボランティアが、集落復興という新しい活動へと幅を広げていくことになった。時間的にも延長。
▽130 秩序化のドライブは、弱まるかに見えた。ところが緊急時の災害救援活動において成立しつつあった「コーディネート」「災害ボランティアセンター」「ネットワーク」という動きが、「集落のコーディネート」「復興支援センター」「地域のネットワーク」という具合に復興という場面にも持ちこまれた。……ボランティアによる被災された人たち一人ひとりへの関わりは薄まり、暮ランティが被災者を中心にすえて臨機応変に展開するという特徴は見失われてしまった。
▽131 ２００７年の中越沖地震
▽134 足湯や寄り添いは、被災者を活動の中心にすえ、臨機応変に、被災者や被災地の支援を行おうとした。災害ボランティア活動の原点。「助けつつ助けられる」という関係へ引き戻してくれる
▽135 東日本大震災 災害ボランティアが社会に定着しつつあったがゆえに、かえって、初動が遅れるという事態が生じてしまった。
「受け入れ体制が整っていないので、ボランティアは来ないでほしい」という情報が被災地からも流れた。参加自粛を呼びかける組織もみられた。秩序化のドライブ
▽140 受付・登録→センターでニーズを紹介→活動後はセンターに報告→報告と新たな申し込みをもとにニーズ票を整理して翌日のマッチングに備える。……という標準形は効率や秩序を優先する場面では歓迎されるが、肝心の被災者が欠落している。
「秩序化のドライブ」の結果、救援という目的のための手段にすぎなかった災害ボランティアの活動じたいが目的と化し、それを達成するための秩序維持へと関心を移行してしまったことに問題がある。
▽154 秩序化のドライブを打破する２つの方法 ひとつは災害ボランティアの原点にもどること。もうひとつは秩序化を打ち消すように作用する遊動化のドライブの駆動である。
足湯と寄り添い＝原点 被災者と向き合い、臨機応変に対応している。
▽158 災害直後には、災害ユートピアやパラダイスという状態になり、お互いに助けあうという即興をおりなす。しかし、即興を交えた相互扶助は短期間で消滅する場合が多い。
それを持続する方法は？
（ジャズの）即興はなにもないところから生じるのではなく、過去に慣れ親しんだ旋律をいまここで新たに構成しなおすといった形式で行われる。……組織においては意思決定よりもむしろ、即興を通して意味を構成する。……災害NPOは、即興的な運営を通して、災害ボランティアに関する意味を構成し、社会における新たな選択肢を提示していく。
【ニカラグア】
▽168 筆者らの災害NGOでは、ボランティアと被災者との間で、個別の関係を構築することを奨励している。対話を通じて、そこで生まれるニーズに対応するようにしている。
▽171 臨機応変に活動していたボランティアも、そのうち、コーディネートが必要だとされ、マニュアルが整備されていく。マニュアルに示された標準的な活動に従事するボラが災害ボラとされていく。このことが東日本で如実にあらわれた。
秩序化のドライブに対抗して、人々の遊動性を駆動し、即興を可能にするような場をしつらえるドライブが、遊動化のドライブである。「ただ傍にいること」といった言説がその具体例となる。
▽180 復興に関わる研究者に求められることはまず、被災された方々の「ただ傍にいる」こと。足湯のように、被災者に限りなく近くいることで、一体感と新しい関係を紡ぎ出すことが必要。
▽183 災害復興には、まず、歴史、文化、習俗、伝統などに目を配り、主に過去との連絡をとりながら復興を進める活動がある。次に、いま・ここに注目し、住民が自ら次々と活動を展開できるように寄り添っていく活動。最後に、招来に焦点を当て、そんな招来を演出する物語を紡ぎ出す活動がある。
▽184 災害復興論には、死者の存在（臨在）が欠落している。……内山節は、共同体が死者および自然とともに成立しているとしている。安藤泰至は、死や死者を排除することなく、「今、ここに（死者と共に）生きている」私たちの生に寄り添うような文化を医療文化とし、その創生を求めている。これは災害文化と置きかえてもよい。〓「いのちの思想」を掘り起こすー生命倫理の再生に向けて（岩波）〓
▽190 伝統行事による復興。習俗への民俗学的関心を超えて、過去に行った人たち＝死者たち＝を想起することを通して復興へとつなげる道筋を探る。協働想起
▽192 ２００４年の中越地震で被災した塩谷集落では０８年以来「塩谷分校」と称する有志の会がある。連続ワークショップの結果、住民の学び合いを通した復興活動を目的として生まれた。
……「分校」というメタファーが活用され、代表は「生徒会長」、毎回の行事の担当は「日直」、懇親会は「給食係」が担当する。
……学校に通うという共通の経験をもち……学校というメタファーに導かれて、次々にアイデアを出し、実行していった。
メタファーによって、住民が自らの問題として復興を考え、さまざまな取り組みをおこなうようになってきた。
▽198 物語復興 １９８９年ロマプリータ地震で被害をうけたサンタクルーズという街の復興。ダウンタウン復興へ「物語」をつくる。未来を描く「物語」のキーワードは「市民のお茶の間」civic living roomであった。「お茶の間なら座る場所が必要」「映画館があって夜遅くても人が来られるように」……と、未来から現在を考えていく議論が進んだ。
「物語」を通して現実が構成される。
▽200 復興の物語を紡ぎ出し、実現していく際には、ボランティアが関わるとよいだろう。ボランティアにとっては、その地域では当たり前になっていることが、かならずしもあたりまえではない。住民が言語化することなく行ってきた事柄について改めて問い、言語化を求めることがある。
▽201 復興曲線をえがく。復興過程を可視化し、曲線を介して対話を重ねる。災害ボランティアにとっても描く本人にとっても、復興過程を意味づけていく上で助けになるだろう。復興曲線は、対話を進め、深化させるツールである。
▽208 復興曲線として可視化していなかったら、復興過程に関する一般的な対話はできても、その人の体験に根ざした対話へと深めることは困難だろう。復興過程に対して抱いた展望が、実際に時間を経るなかでどのように変化してきたのかといった事柄に思いを馳せる機会も多くなかったであろう。復興曲線は、対話を進め、深化させるツールである。
▽214 防災から減災へ 減災では、自分なりにできることから取り組むことが推奨される。自分ができる部分、関心のある部分から減災をはじめることができる。
▽218 人々がすでにとりくんでいる活動に、減災というエッセンスを加えていく発想。
▽225「減災と言わない減災」
▽233 強力な秩序化のドライブが席巻する事態がつづけば「被災者抜きの災害支援」というような状況が到来する。
▽235 災害ボランティアが拓く新しい社会の風景は「災害時の救援過程、復興過程、地域の防災過程などにおいて、既存の秩序にとらわれることなく、人々が無条件に助けあい、互いの求める事柄について臨機応変に取り組むような社会」
▽246 自然災害やテロのような危機に直面した社会では、人々のあいだで無償の行為がおこなわれ、一体感に満ちた、まるでパラダイスが現出する……「災害ユートピア」……方丈記にも描かれているおなじみの光景である。
▽267 慢性疼痛の治療場面では、「痛み随伴性サポート」と、痛みとは関係ないところでサポートする「社会的サポート」がある。前者は症状をかえって悪くすることがわかっており、痛みと関係ないところでサポートする後者の方が痛みを和らげることができると報告されている。……お菓子を配り、酒の味比べをして……一見、苦しみや悲しみとは関係ないところでのサポートが、被災者の癒やしに繋がることを願って……共感不可能性に関する共感が、人と人とをより強力に、深く結びつける。
▽277災害ボランティアが拓く新しい社会への旅を進めるのであれば、秩序化のドライブへの感性を研ぎ澄まし、巻き込まれないように耐え抜かねば旅を完遂できない……愚直なまでに被災者本位になっているかということを検証しながら、実践的な判断を重ねていくしかないだろう。
……何かのためではなく、「ただ傍にいる」
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