■文藝春秋20210316
米原真理のエッセーは抜群におもしろかった。その彼女が「打ちのめされるような」本って、どんな作品なのだろうと思って読んだら、その書評の面白さに打ちのめされた。その切れ味は齋藤美奈子の書評を彷彿とさせる。
僕が書く書評はどうしても要約になってしまう。評者と書物とが切り結び、別の思想や知見が立ちあがる独立した作品にならないとおもしろくないんだなあと思い知らされる。
読みたい本がつぎつぎに出てきたが、ほとんど読めないだろうな。
1日平均7冊も読んでいたというのも驚き。やはり一流の人は速読をマスターしているのか。
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▽「記憶力を強くする」(講談社ブルーバックス)
歳を取ると記憶力が低下するという常識の嘘も覆す。天才になるコツも伝授。
▽「モダンガール論」(齋藤美奈子)
性差別より階級差別がはるかに切実だったことがわかる。市川房枝、奥むめお、羽仁もと子、平塚らいてうら進歩派の女たちが、戦争が始まるや進んで翼賛的言動をヒートアップさせていく様子を「戦争は変化を求めていた人々の気持ちをパッと明るくした。保守的で頑迷な昔風の女性ではなく、前向きで活発で近代的なセンスを持った女性ほど、戦争にはまりやすい」と解説し、同じ女たちの、「戦争中とまったく同じテンションで、戦後は復興の精神を説き、とくに過去を清算するでもなく、婦人解放・平和運動のリーダーに復帰した変わり身の早さ」について「だから言ったでしょ。『進歩的』な女の人は、いつも『新体制』の前で張り切っちゃうんだって」と軽々と言ってのける。
▽阪神大震災 郵便局 多くのサービスを無料で提供することを決断。被災者には避難先届け出用紙が配布され、避難先にも郵便が届くようになる…貯金も簡易保険も、通帳、証書がなくても本人確認のみで支払うという超法規的措置に地震発生当日に踏み切っている。局員が人々の生活に密着し、顔を見知った仲だからこそできた英断だろう。
▽「取り替え子 チェンジリング」「憂い顔の騎士」
「『自分の木』の下で」子どもに語りかけるエッセー
▽「プロになるための文章術 なぜ没なのか」(ノア・リュークマン 河出書房新社)
▽丸谷才一「笹まくら」 徴兵忌避。
「花火屋の大将」ピカソが描いたスターリンの肖像にまつわる話
「綾とりで天の川」エッセイ集 福沢諭吉の遺体が1977年に残っていた奇跡。
「恋と女の日本文学」自然科学ならノーベル賞級の大発見を…
▽15世紀末に欧州にもたらされたジャガイモ 「聖書に出ていない植物」、種から派生するのではなく、クローン型の繁殖をするのを気味悪がられた。転機は、戦争や飢餓などの極限状況。
▽井上章一「パンツが見える」女がパンツを恥ずかしがり、男がパンチラに心躍るようになるまでの風俗と精神の紆余曲折。…
▽「南京戦 閉ざされた記憶を尋ねて 元兵士102人の証言」「淋病治すには人間の脳みそがいいんや…支那人の頭をごんぼ剣でこじ開けて飯盒で脳みそを炊いていたのを…」
▽八尾恵さんの懺悔本「謝罪します」 「よど号グループ」特権的な待遇。「愛と配慮」に答えるべく、北朝鮮の工作員として拉致などに手を染めていく。
▽ノルベルト・フォラツェン「北朝鮮を知りすぎた医者」
▽齋藤勉「日露外交」北方領土を返す気などさらさらなく、領土交渉をひきのばして日本側からなるべく多くの資金援助をもぎ取ろうとしているだけだ…ロシア側の本音。外務官僚の傲慢さ、法人の保護や安全に対する冷酷無比というか、完全な無関心と無責任。佐藤優をなぜ生かせなかったのかという著者の怒り。
▽多田富雄「懐かしい日々の想い」
▽玉木正之「スポーツ解体新書」 アマチュアリズムは、貴族と新興ブルジョワジーが、スポーツの場から、身体活動のプロである肉体労働者を排除するために生み出した差別しそうだった。…1920年のアントワープ五輪の予選大会のマラソンで1位から5位までがすべて失格した。入賞者のすべてが、人力車夫、牛乳配達、新聞配達、魚売りといった「脚力もしくは体力を職業とせる者」だったから。
▽三浦雅士「身体の零度」 奇異に感じる(中国の纏足や西欧上流階級のコルセットなど)奇妙な立ち居振る舞い(金日成国葬の際の北朝鮮国民の同国、欧米人が理解できない日本人の笑み、なんば歩きなど)を、人類の身体観の変容を社会史、思想史の文脈で読み解いてみせる。
▽岩田昌征「社会主義崩壊から多民族戦争へ」バチカンがカトリック信者の多い2国を独立させるために画策したセルビア悪玉論を流布された手口。
▽澤地久枝「完本 昭和史のおんな」 三面記事を賑わした事件の主人公たちの足跡を通して、国の姿や社会の仕組み、時代の支配的精神を浮かび上がらせる。
▽「魏志倭人伝の考古学」佐原真の絶筆を同僚がまとめた。手で食べる時、中心となる指は人差し指。だから中国では今でも人差し指を「食指」と呼ぶ。
…中国文化のおよばないところでは、数百年前まで手食はごく一般でした。⑯世紀のモンテーニュは「しばしば舌をかみ、ときには指をかむこともある」と書いています。
▽「健康帝国ナチス」大衆はナチズムに、その健康志向をはじめとするさまざまな分野に、若さの回復を見た。…肉や糖分の過剰摂取が諫められ、自然食品への回帰が喧伝され、全粒パンを焼くことが義務づけられ、強制収容所の囚人たちは有機栽培で育てられた花から蜂蜜を作らされた。
▽人質救出 救出費用請求を最初に言いだしたのは公明党の冬柴幹事長。さすが、信じる者しか救わない宗教政党。
▽山下惣一「ザマミロ! 農は永遠なりだ」言いたい放題の山下節。
▽甲野善紀/田中聡「身体から革命を起こす」「身体を梃子とバネとうねりの複合体とみなす」運動生理学とは正反対の身体観。〓
▽がん治療本を身をもって検証 代替療法に挑戦してきた。「……は再発によってまったく向こうであることを確認できた」
「一般に患者・家族は、いかがわしいものであればあるほど、大金支払わされている」(近藤誠)
玄米菜食、温熱療法…爪もみ療法…
▽星野博美「謝々! チャイニーズ」
「銭湯の女神」「いやしは並大抵ではない苦悩を経た人だけに認められる資格だった」のに、いま人々が求めている癒やしは、さしずめ対決拒否である。ゴミ出しの厳格すぎる規則、電車内での携帯電話禁止など「異質さへの非寛容性」
▽「赤いツァーリ」 ヒトラーとてスターリンには太刀打ちできない。
▽青木淳一「ダニにまつわる話」
▽「ゾルゲ 引裂かれたスパイ」新潮文庫 人間くさく魅力的なゾルゲ。
▽「権力をもたない君主」という政治手法は、現権力を相対化させるための、今のところもっとも賢明な方法かもしれないと思えてくる。
▽ミハイル・バフチン「ドストエフスキーの詩学」(ちくま学芸文庫)
▽須賀敦子「ミラノ 霧の風景」
▽阿刀田高「ものがたり風土記」本のおかげで旅が何百倍も楽しくなる。
▽しょうじさだお「タクアンの丸かじり」丸かじりシリーズ
▽後藤栖子「えんぴつ写生と五七五絵手紙のすすめ」
▽480 秀才は模範答案を書こうとする。自由主義がはやれば自由主義の、軍国主義がはやれば軍国主義の模範答案を書くような人間が指導者になった。「そういう知識人がどんなにくだらないかと言うことが、私が戦争で学んだ大きなことだった」と鶴見俊輔。
▽亀山郁夫「ドストエフスキー 父殺しの文学(上下)」
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