■＜高橋慈正編＞250922
「われらが海民 映画監督大重潤一郞著作集」と同時に編まれた。大重監督は「久髙オデッセイ」を仕上げてまもない２０１５年７月２２日に、８人の友人たちに看取られて旅立った。そうした人々の文章からは、大地や海や地球につながる命を感じとり、それを映像にしてきた監督の姿が立ちあがってくる。
鎌田東二さんは、カトリック司祭で上智大学教授だった故トマス・イモースさんは、「詩人の存在意義というのは、太古からの人間の普遍的な体験を言葉で表現するところにある」という言葉を引用する。詩人は「いのち」を感知する人である。この本に文章をよせた人たちは詩人の力で「世直し」をしようとしている。
大重監督は阪神大震災に直面してこんな言葉を残した。
「地球から、次の千年の未来の人々へ贈られた啓示であったのではないかと思えてならないのです。今そう思うことで、ようやくこの現実に対峙し始めています。そしてそれが小生にも訪れている確かな未来なのです」
「街が壊れ、家の壁が崩れたら、人を隔てる壁がなくなった。エレベーターが止まったマンションの階段を、金髪にピアスの若者が何度も行き来して上階にいるおばあさんに水を届ける姿をみて、まさにここが極楽浄土だと思ったのも束の間、３年経って街が復旧したらみんな何もかも忘れてしまった」
大きな災害は、ふだんは隠されている「生命」「浄土」のようなものを大地の裂け目から現出させる。東日本や能登の被災地を歩くと、悲惨な状況なのだけど、菩薩のようにやさしい人や命を支え合う共同体が見えてくる。
でもほとぼりがさめると消えてしまう。だからこそ、災害を記録し記憶しなければならないのだ。
高木慶子さんの言葉も、災害のそんな側面をとらえている。
－－大自然がちょっと動くだけで地球の上にいるものはとっても辛く悲しい思いをするのだけど、でも、大自然はこんなに静かで豊かなものなんだ、その「大自然の中のいのちへの讃歌」、（「光りの島」は）先生のお祈りだったと思うのです－－
大重コミュニティの人たちは「身体性」を大切にする。
映画「縄文」に出演した天人純さんは、断食をして、部屋のブレーカーも切って，素足で砂利の上を歩いて、下着はフンドシにして、麻のゴワゴワ衣装を着てしばらく生活した。靴にズボンの現代人とは動き方がぜんぜんちがうことがわかった。「現代人は、身体内部に個人に固有の意識の構造があるのだが、縄文人の場合、巨大な意識の中に身体が浮いて大地と繋がっているという状態」という。「今、縄文という生命根底に流れるものを取りもどさないと我々は人間本来に帰還もできないし、未来にも進めないのだ」と大重監督は言った。
島薗進さんは「大地」と「海」のちがいを指摘する。
－－大地と共に生きる人との共振は大重監督の多くの作品にあるものだが、久髙オデッセイは、さらにそれを開かれた海のかなたへの憧憬を結びつけた。海と共に生きる人びとの開放性が見る者を元気づける。そして、いつしか大重監督が語る「地下水脈」を自らのうちに感じとるようになるだろう－－
なるほど。ほかの作品にはない「久髙オデッセイ」独特の明るさは「開かれた海」とのつながりによるのか。能登でも、山里の伝承よりも、海の伝承のほうがそこはかとない明るさを感じたのを思いだした。
最後に印象に残った言葉を２つ。
深海で生きる魚族のように 自らが燃えていなければ 何処にも光はない
（ハンセン病詩人、明石海人の言葉）
あきらめぬ 生き抜く先に いのちあり 大地空海 足元の愛
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□鎌田
▽13 カトリック司祭で上智大学教授だった故トマス・イモースさんは、「詩人の存在意義というのは、太古からの人間の普遍的な体験を言葉で表現するところにある」「詩人は彼個人の哀しみや歓びを、それが人間的普遍性をもつような形に凝固させなければならない。詩人の魂には、その民族、その宗教、いえ、全人類の集合的記憶が蓄えられている」
このコトバは映像の詩人・大重潤一郞の姿を表すのにぴったりの言葉です。
【そういう詩人こそが求められている。鎌田さんも大重さんもそんな詩人だった。詩人の集まりによる世直しを志した。】
□宮内勝典 鹿児島・甲南高校の文芸部で
「ぼくは始祖鳥になりたい」
□神馬亥佐雄
▽83 「風の島」「光りの島」は「大重君の祈り」
阪神大震災後、「女房が死ぬのではないか」。「もうあとはどうなってもいいのです。ただ彼女のいのちだけは救ってほしいと思って……」
▽85 １９８３年に無人となった島パナリから出発し、神戸と沖縄の年ともいうべき１９９５年に２本の映画が完成。「地球から、次の千年の未来の人々へ贈られた啓示であったのではないかと思えてならないのです。今そう思うことで、ようやくこの現実に対峙し始めています。そしてそれが小生にも訪れている確かな未来なのです」
【大きな時間のなかで位置づける。記録する】
□天人純
▽88 三方町の縄文博物館で上映される映画「縄文」
……大シマ監督の所から帰った私は、断食をした。……部屋のブレーカーも切って，太陽と月を見て暮らしてみた。素足で砂利の上を歩いたり、やれることはなんでもやった。
……断食はクランクインの屋久島訪問まで１２日間続け、体重は８キロ落ちた。屋久島でも１日中、縄文人の衣装で生活した。……素足で生活、下着はフンドシ、衣装はドンゴロス（麻）のゴワゴワ衣装、この状態での合理的な動きは、靴にズボンの現代人とは大分ちがうのだ。
……東京の運動科学研究所の高岡英夫先生に「先生、縄文人の動きを解析してください」と。土器の扱い、採集の方法など、運動科学からのアプローチで多くのことが分かった。「身体意識考古学」という新たなジャンルの誕生を予感させた。
……現代人は、身体内部に個人に固有の意識の構造があるのだが、縄文人の場合、巨大な意識の中に身体が浮いて大地と繋がっているという状態だ。弥生人となると、我々の想像しうる範囲にある。
▽93「今、縄文という生命根底に流れるものを取りもどさないと我々は人間本来に帰還もできないし、未来にも進めないのだ」（大重）
□須藤義人
▽96 次のシリーズとして、「海洋アジア」という構想があった。「琉球弧からアジアへの生命潮流の賛歌」
琉球弧と九州の「群島アーキペラゴ論」であり、基軸となったのは谷川民俗学のコスモロジーであった。谷川先生の仮説を集約した「甦る海上の道・日本と琉球」を谷川民俗学の到達点としてとらえ、そのコスモロジーを映像表現に入れ込もうとしていた。
□島薗進
▽100 大学に入学した１９６７年ごろ、日本民俗学は若者の人気を集めていた。柳田や折口が、日本の文化の古層を沖縄に見ようとしたもととがあらためて注目された。吉本隆明の「共同幻想論」（１９６８）が刊行されたり、作家の島尾敏雄が「ヤポネシア」という言葉を広めたりした。沖縄にこそ日本的な宗教性の源流があるという考えや、海を通して日本は世界に開かれているというイメージに魅せられた。
▽102 大地と共に生きる人との共振は大重監督の多くの作品にあるものだが、「久髙オデッセイ」は、さらにそれを開かれた海のかなたへの憧憬を結びつけた。海と共に生きる人びとの開放性が見る者を元気づける。そして、いつしか大重監督が語る「地下水脈」を自らのうちに感じとるようになるだろう。
□高木慶子
▽103 阪神大震災 ベッドから振り落とされていなかったら、私は死んでいた。……３日目からは避難所をまわりながら、家族を亡くし、家をなくし……、毎日午前と午後に避難所を歩きまわりました。
……大重先生はご自分も被災して、とてもとてもお辛いなかにあるのに、「みなさん辛いですよね。でも、これだけみんな集まってくれたんだから、一緒に、頑張って明日を生きて参りましょう」と、とっても優しい言葉、お声で、お姿でお話ししていただきました。
▽106 大自然がちょっと動くだけで地球の上にいるものはとっても辛く悲しい思いをするのだけど、でも、大自然はこんなに静かで豊かなものなんだ、その「大自然の中のいのちへの讃歌」、先生のお祈りだったと思うのです。
□坪谷令子
▽112 いのちの広場展 がれきを展示するかどうか……大重さんの口から「ガレキも語りたいんだよなぁ」……大重さんは、照明によって、ガレキに命を吹き込んで下さったのです。
▽114 灰谷先生は、辺野古に、渡嘉敷で持っていた漁船を提供。回航する際、水先案内をして下さったのが久高島の内間豊さんだった。
□鳥飼美和子
▽129 １９９７年、天河の奥宮の弥山に登拝、例大祭に参加し、そのまま沖縄へ。目的地は新城島の秘祭「アカマタクロマタ」に参加するためだった。
▽131 久高島のことを「１週遅れのトップランナー」と呼び、「この世こそがニライカナイであると思えてくる」と語った監督。
□関口亮樹・慶福寺（蓮田市）住職
▽133 お寺で、月１回のペースで「久髙オデッセイ」の連続上映会に取り組んでいる。９６から９９年にかけて１泊２日、境内を開放して「シャンティホリデー」という祭りを開催。そこで「光りの島」を上映した。
▽134 「街が壊れ、家の壁が崩れたら、人を隔てる壁がなくなった。エレベーターが止まったマンションの階段を、金髪にピアスの若者が何度も行き来して上階にいるおばあさんに水を届ける姿をみて、まさにここが極楽浄土だと思ったのも束の間、３年経って街が復旧したらみんな何もかも忘れてしまった」
（能登でも〓観音さまを見た 記録の大切さ）
□矢野智徳 造園家、環境再生医
「大地の再生」家として活躍 （大向さんと知り合い)
□矢島大輔
「俺の映画はよ、日本一眠くなると言われてるんだ。太古のリズムを刻んでいるから自然と眠くなるんだ」
「矢島よ、タバコとお酒はやめるなよ。人類の歴史を否定することになる。いまの価値基準だけで考えてはダメなんだ」
□最後
あきらめぬ 生き抜く先に いのちあり 大地空海 足元の愛
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