■夏葉社 20191106
貸してもらって、なんの予備知識もなく読みはじめた。
難病を抱えて生まれた息子の雄介くんが、何度も手術を受けて、ちょっとずつ元気になって、笑って、しゃべって、「いないいないばー」でキャッキャと喜ぶ。
はじめて笑った時、「ぼくの手の中で 愛 という形のないものが はじめて<愛>という形になった」と詩につづった。
愛らしい息子との日常を描く。でもところどころ透き通りすぎる描写が混じっていた。
風船が空に上がっていくのを見ながら「死ぬときは ちょうどあんな具合に帰っていくのかもしれないな 初めてこの世に出てきた日のように ぼくらを 元通りの空っぽにして」。ユーミンの「飛行機雲」に似ている。
雄介くんはしだいに元気になり、笑顔が増えていく。しかし…
「こんなことで こんなにもうれしくなれた日が ぼくにもあった はずだが……」
3歳で突然死んでしまう。もっと遊んであげればよかった。おでかけをせがまれて「また今度」などと言わなければよかった……。
「また今度、とか言うと 怒って きょう、きょう とくり返す … 泣いてしがみついてくる それでも放っておいたばっかりに 僕には永遠に その また今度が 来なく なってしまった」
あとがきには「いつの日か、もう一度ここへ戻ってきて」と書いた。たまらなく切ない詩集だった。
20年後の復刊で次のように記している。
ーー「もう一度ここへ戻ってきて」という願いは、今、その長い時間を振り返ってみると、最初からかなえられていたように思えます。亡くなってからも雄介はいつもそばにいて、ぼくにかたりかけてきてくれました…その姿のひとこまひとこまがたくさんの詩になりました。読み返せば、いつでも雄介はここへ戻ってきます。
もうだいじょうぶ
20年近い時を経て、やっと雄介にそう言えるようになったようです。ーー
忘れるのではなく、心に刻みながら立ち直るまでに20年という歳月が必要だったんだな。
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