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それってどうなの主義 <斎藤美奈子>
白水社 10080612 空襲を空爆といいかえると、悲劇性が薄れてしまう。「自己責任」を「政府に迷惑をかけるな」と言いかえると、政府の傲慢さがみえてくる……。なんとなくおかしいな、と思いながらもやもやしていたものを筆者はズバリを切りとる。いったいど... -
信州に上医あり 若月俊一と佐久病院 <南木佳士>
岩波新書 20080618 徹底して農村にこだわり、地域にこだわり、農村医学という言葉をうみだした。農民の必要を満たすため、一斉健診を組織し、専門医療も手がけ、研究機関も設立し、佐久病院を長野県随一の総合病院にそだてた。 ふつうに良心的な「赤ひげ... -
ジャガイモのきた道–文明・飢饉・戦争 <山本紀夫>
岩波新書 20080603 穀物じゃないと文明はできない、と言われてきた。麦や米などの穀物は貯蔵できるから、富の蓄積になる。多くの人口も養える。それに対して芋は、単位面積あたりの収穫量は多いけど、水分が多いから貯蔵がきかない。だから、文明の発祥に... -
久妙寺に生きて <永井民枝>
20080609 古くから伝わる行事や言い伝えは、ムラで生きていくための知恵にあふれている。たとえば、川を神聖なものと考えて、小便をしたり汚いものを流すのは昔はタブーだった。今はそういうタブーがなくなり、ゴミだらけになった。田植えがはじまって「お... -
竹内好 <鶴見俊輔>
筑摩書房 20080528 魯迅を日本に紹介したことで知られる中国文学者の半生を、鶴見独特の転向論の切り口でえがいている。同じ切り口でえがいた柳宗悦の評伝のほうがわかりやすいが、こちらもおもしろかった。 竹内はニヒルで口下手だった。消極的な理由か... -
今夜列車は走る
鉄道マンはみな家族のようなものだった。同じ釜のメシを食い、組合で議論し、泣き笑い……。それがある日、鉄道が廃止されることになる。組合幹部の言うままに、自主退職して金銭を獲得する道を1人をのぞいてみながえらぶ。 職をうしなった男たち。ある男は... -
島に生きる 魚島村長の離島過疎振興記おもろい村長の夢 <佐伯増夫>
20080522 瀬戸内海の真ん中、どこからも高速船で1時間かかる孤立した村。そんな離島の村で下水道100%、電話普及率日本一、CATV導入、Iターンの呼びこみ……といったユニークな村おこしを実践してきた村長の体験記だ。 「村」という自治体だったか... -
アメノウズメ伝 <鶴見俊輔>
平凡社 20080504 天照大神が洞窟にこもっているのを、半裸でおどって神々の笑いをい、天の岩戸を開けさせた、という女神がアメノウズメだ。神話の女神についての論考かと思ったらさにあらず。歴史上各年代の現代にいたるまでの「アメノウズメ」をとりあげ... -
物は言いよう <斎藤美奈子>
平凡社 20080525 政治家の妄言、曽野綾子らのはちゃめちゃ意見はもちろん、良識派とされる大江健三郎まで、それらの発言の数々を「フェミコード」という切り口で、なにが問題なのかを切る。 「性別役割分業をみとめないのか」「フェミは全体主義だ」とい... -
趣味は読書 <斎藤美奈子>
平凡社 20070515 批判のしかた、切れ味が鋭い。右翼の「新しい歴史教科書」から左翼の「金曜日」までバサリバサリと切りおとし、「いい人」の象徴のような大江健三郎や茨木のり子でさえも容赦しない。 たとえば、天声人語がべたぼめした茨木のり子の詩。 ... -
「源氏物語」に学ぶ女性の気品 <板野博行>
■ 青春新書 20080504 源氏物語は、一流の恋愛小説でもありエロ小説でもあるってことがよくわかる。登場する女性を1人1人生き様を紹介する。 当時の貴族は妻問婚である。セックスするまでは顔をみることができず、だから、噂話を収集し和歌の交換によっ... -
柳宗悦<鶴見俊輔>
鶴見俊輔集続4 柳宗悦・竹内好 筑摩書房 20080511 生活でつかわれる食器などを「民芸」として再評価した、ありがたいけど敷居が高そうな人、という柳宗悦のイメージをくつがえされる。 名をなした晩年の柳宗悦の位置から過去をふりかえって(回想して... -
健全な肉体に狂気は宿る<内田樹、春日武彦>
角川oneテーマ21 20080419 「自分」がまずあって、それが世界を切り開く、という「自我」の立場にはたたない。 他者との関係、つながりのなかで「自分」をとらえる。まさに構造主義の考え方なのだろう。 「キャリア形成」とか「自己実現」というのは、「... -
戦時期日本の精神史1931-1945年 <鶴見俊輔>
岩波現代文庫 20080428 カナダの大学での講義録であり、著者の長年の研究成果をわかりやすくまとめている。 「転向」を悪い意味だけではなく、積極面もとらえる。獄中でたたかいつづけた人だけでなく、妥協をくりかえしながら生き抜いた柔軟さを積極的に... -
反哲学史 <木田元>
講談社学術文庫 1080329 プラトンのイデア論とかなんとか、説明されれば意味はわかるけど、なぜそんなまわりくどい思考をするのかわからなかった。当時の社会状況をふまえて、なぜそんな思想が出現するのかをわかりやすく説明してくれる。 「ソフィーの世... -
反米大陸 中南米がアメリカにつきつけるNO <伊藤千尋>
集英社新書 20080411 アラモも米西戦争もフィリピンの占領も真珠湾も同時多発テロも、「リメンバー」とさけんで、米国は戦争に邁進した。嘘をメディアに流してでも戦いの正当性をでっちあげた。 米国人の安全と財産を守るため、という名目で軍を派遣する... -
国畜 <佐高信>
KKベストセラーズ 20080417 国家に飼い慣らされ、自分と家族だけが安穏に暮らすことを求め、国家を信じ、判断を任せている人を筆者は「国畜」とよぶ。愛国者という意思表示もせず弱者の皮をかぶっているからやっかいな存在だという。 イラクでつかまっ... -
空疎な小皇帝–「石原慎太郎」という問題 斎藤貴男
20080416 石原の「評伝」ではない。佐野眞一がつくる評伝を期待したらダメだ。 権力にへつらい弱者に高飛車で、こびへつらう者ばかりを重用する、「小皇帝」石原の言動がなにをもたらすか、もたらしているかを丹念に描いている。 秘書時代から暴力事件をお... -
胡同の理髪師 <ハスチョロー監督>
20080417 北京のどまんなか、故宮のすぐ脇にある路地の街・胡同の、93歳の老理髪師の日々を描く。近代的なビルや高速道路にかこまれて、そこだけ時代から取り残されたかのような胡同が、切なく懐かしく切りとられている。 1日に5分遅れるゼンマイ式古... -
実録・連合赤軍 <若松孝二監督>
1080329 「突入せよ!浅間山荘事件」という佐々淳行作品の映画は完全に警察側の視点だった。連合赤軍という「不気味な奴ら」をたたきつぶす「正義の味方」という構図の、ハリウッドのベトナム戦争映画のような薄っぺらさだった。今回の作品はまさに「ベ... -
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方 <カンポン・トーンブンヌム 上田紀行監修>
佼成出版 20080224 前途有望な青年教師が事故で全身不随となる。絶望のなかで仏教をまなぶうちに「気づきの瞑想」の師にであう。 体と心を観察しなさい。思考を「観なさい」という。苦しいこと腹立たしいことがあったら、そういう思考そのものを観察しな... -
期待と回想 <鶴見俊輔>
朝日文庫 20080321 .□転向論 父は大正時代の自由主義者で、軍の横暴に批判的で、張作霖爆殺には反対していた。だが、満州事変のころから変節し国策を支持するようになる。捕虜を死刑にせよ、という。一高英法科の首席だった人が大政翼賛になってしまった... -
少年Mのイムジン河 <松山猛>
木楽舎 20080225 フォーククルセダーズがうたった「イムジン河」の誕生秘話である。 筆者の生まれ育った京都の南は、在日朝鮮人が多く、朝鮮戦争で負傷した米兵が後送される病院もあった。当時の京都は、ニンニクはおろか納豆とも縁がなく、ニンニクのに... -
この国の品質 <佐野眞一>
ビジネス社 20080201 佐野眞一の本は、いつ読んでも刺激にあふれている。彼の言動ひとつひとつが、表面しかとらえる力をもたない今のメディアへの批判である。 東電OL事件のゴビンダは、今も服役している。司法取引にのっていて、再審請求などしなけれ... -
冷蔵庫で食品を腐らす日本人 <魚柄仁之助>
朝日新書 20080130 あまったリンゴやらご飯やら野菜やらを干して保存食にする……といった筆者の知恵はすごい。独身で自炊しているころに知っていたら、もっと食生活は安く豊かになったことだろう。 「食」をめぐる観察も興味深い。 たとえば、かつて塩っ辛... -
兵役拒否の思想 市民的不服従の理念と展開 <市川ひろみ>
明石書店 20070127 イラク戦争における米国、旧東西ドイツ、イスラエルの兵役拒否のありかたを紹介するともに、その背後にあるキリスト教や近代哲学の流れをフォローしている。社会主義独裁とされてきた東ドイツで、教会を支えにした兵役拒否の運動があり... -
新聞記者 疋田桂一郎とその仕事 <柴田鉄治・外岡秀俊>
朝日新聞社 20071004 体言止めという文体を創造し、かつ、それをみずから捨てた人であり、希代の名文家で知られる。本多勝一氏らの本でしばしばとりあげられ、いくつかの作品は読んでいたつもりだったが、実際に彼の代表的な記事をあつめてならべられて驚... -
実戦・日本語の作文技術 <本多勝一>
朝日文庫 20080110 ずっと以前に「日本語の作文技術」を読んで、読点の打ち方をまなんだ。本書の前半はその内容のおさらいになっている。いま改めて読むと、これだけの論理的なルールを、忙しい新聞記者の仕事をこなしながら、40歳になるかならないかで... -
「あたりまえ」を疑う社会学 <好井裕明>
光文社新書 20080105 社会学といえば、かつては理論的枠組みとかなんとか敷居が高いイメージがあった。最近は逆に統計調査のような無味乾燥なものが主流をしめている。どちらも好きになれない。「定型」にきりとられた新聞やテレビの「ニュース」にたい... -
ボランタリー経済の誕生 <金子郁容 松岡正剛 下河辺淳>
実業之日本社 20080105 社会主義やケインズ的福祉国家などの「大きな政府」ではなく、かといって市場一辺倒の「小さな政府」でもない第3の道を「ボランタリー」にもとめる。 イギリス産業革命とアメリカ独立とフランス革命によって準備された近代国家...