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それってどうなの主義 <斎藤美奈子>

白水社 10080612

空襲を空爆といいかえると、悲劇性が薄れてしまう。「自己責任」を「政府に迷惑をかけるな」と言いかえると、政府の傲慢さがみえてくる……。なんとなくおかしいな、と思いながらもやもやしていたものを筆者はズバリを切りとる。いったいどこからその切れ味がでてくるんだろ。
拉致問題の異様なもりあがりの原因を、「家族の絆」の強調からうまれた「親戚感情」にもとめ、日本型ナショナリズムは「疑似家族」の形をとったときにもっとも強力に発動する、と説く。逆に、二度目の首相訪朝に家族会が不満をしめすと、「態度が悪い」の一点で、まさに「親戚感情」で村八分にする。熊本の宿泊拒否事件のときのハンセン病患者への異常なバッシングも、「弱い子だと思ったからやさしくしてあげたのに、生意気なことを言って!」という親戚感情だったのかもしれない。
女性天皇をめぐる朝日の社説の迷走も、後からこうやって指摘されると、けっきょく「現状肯定主義」でしかないことがわかって興味深い。
日本人女性のアジア旅行ブームを、農協団体旅行や売春観光ツアーと同列にならべて「かわいい帝国主義」と位置づけるのも、納得のいく視点だった。-------覚え書き-------

▽34 空爆か空襲か 被攻撃側から見た空襲=air raid   攻撃側からは air strike
だとしたら、「イラク空襲」というべきだろう。
▽49 外務省の竹内事務次官「邦人保護に限界があるのは当然だ。自己責任の原則を自覚してほしい」 自己責任論=自業自得とほぼ同義。そういうことを親戚のオジオバならともかく、一国の官僚や政治家が口にするか?
安田純平「いま盛んに言われている「自己責任」論は、実は「政府に迷惑をかけてはいかん」論にすぎない気がします。
官僚も政府高官も、それをチェックすべき大新聞までが、村のオジオバと同じレベルで「自業自得だ」「お上に迷惑をかけるな」といい放ったわけ。
▽65 日露開戦時の鳩山春子の文章。戦争はよくないが、正義のためにやむを得ず戦うのだ、という奥歯にものが挟まったような調子で、苦しい胸の内を語っている。……日中開戦時の婦人雑誌の論文はもっとみんな好戦的で、こういった逡巡がほとんど見られないのである。
▽87 拉致問題 ジャーナリズムは「家族の絆」という視点で報じてきた。進展するかに見えた国交正常化交渉を座礁させたのも、「北朝鮮憎し」の感情をあそこまで加熱させたのも、世論という名の「親戚感情」だった。……日本型ナショナリズムは「疑似家族」の形をとったとき、もっとも強力に発動する。
……親戚感情はしかし、昔から憎悪と表裏一体。自衛隊撤退を訴えたイラク人質の家族が非難の的にされたのも、二度目の首相訪朝への不満を示した拉致被害者家族への新たな批判が噴出したのもそれ。「態度が悪い」の一点で一族の意に添わない家族を村八分にする風習もよみがえったのだと思えば納得もいく。
▽107 靖国の公式ガイドや図録は完成度が高い。
戦争の悲惨さがキレイに拭い去られ、民間人の犠牲者は一顧だにされず、アジア・太平洋一帯の犠牲者に対する想像力など皆無に等しい。……とはいうものの、それ以上に問題なのは、靖国神社は過去の亡霊ではなくなりつつあるという事実である。靖国は確実に巻き返しをはかっている。
小林よしのりは「とても戦前の人間たちにはかなわない それは特攻隊員の遺書の文字を見ただけでわかる」 古い酒(思想)も新しい革袋(意匠)に入れ直せばゾンビみたいに再生する。
▽116 皇室典範をめぐる社説 皇太子妃懐妊発表のときは女性天皇を支持した。なのに、秋篠宮家に男児が誕生したとたん、朝日は「男子が誕生した以上、現行の順位をくつがえすような皇室典範の改正は現実的ではあるまい」
男子であることがそんなにも重要だったのね、という感じ。ことに「朝日」と「産経」の手のひらを返したような態度は注目に値しよう。
▽130
▽140 戦中の人々にとっての「総力戦体制」は、現代の「地球環境保護」同様、是非を検討する余地もないほどの大前提、絶対的な社会正義として君臨していた。……市川房枝、平塚らいてう、羽仁もと子らの戦争協力。しかし、自分を棚にあげて彼女たちの「戦争責任」を指弾する気にはとてもなれない。戦中は翼賛体制が、戦後は反戦平和思想が彼女たちの正義だった。。いまもご存命なら、みなさん環境保護の先頭に立っていただろう。
環境団体に、国防婦人会に通じるノリがまったくないと断言できる? 国中が同じお題目を唱える構図がまさに総力戦。(イタリアのスローフードは?〓)
▽143 六本木、おしゃれだったはずの町が一気に荒廃。風紀の悪さは歌舞伎町以上かと思うほど。
▽149 「へっぽこケ丘」 郊外の「丘」から都心の「丘」(ヒルズ)にあそびにいく構図。
▽164
▽203 旅行ガイドや女性誌のアジア特集は、歴史に触れたうっとうしい記事は一切ない。オリエンタリズムどころか露骨なコロニアリズムが跋扈する。彼女らにとってコロニアルとは「東西文化の美しい融合」の別名にすぎない。戦時中は武力侵攻、戦後は農協団体旅行、経済侵略、売春観光ツアー、そして日本人女性の「かわいい帝国主義」。主役はかわれど「日本人は傍若無人」という印象は不変……
▽221
▽336 大正末期から昭和初期にかけて、新潟県が日本一の出稼ぎ県だった。多くは女工さん。……「女工あがり」の女性が吉原の遊郭にも? 東京で働く娼妓の出身地は、地元東京を除くと、山形と新潟県が多数を占める。「新潟美人」というのは、「商品価値」を見だしてPRする必要があったからじゃないんだろうか。ひとつは花街のPRのため、もうひとつは娘を高く売りつけるため。

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