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希望のつくり方<玄田有史>
■岩波新書20201217 死ばかり見つめていて希望って言葉を忘れていた。もともと意味もわからず使っていた言葉だ。もしかしたら「底」から見えてくる希望があるのかなあと思って手に取った。 仏教は苦しみをやわらげようと、希望など持たなくてもよいと説く... -
日本のいちばん長い日<岡本喜八監督>
■日本のいちばん長い日20201223 昭和20年7月26日にポツダム宣言が突きつけれたとき、当初は「静観」と発表した。新聞は「笑止」であると軽く扱った。その後、宣言を「重要視しない」と言ったら世界では「拒絶」と報道された。その結果、広島に原爆が落と... -
東京物語<小津安二郎>
■東京物語<小津安二郎>20201221 山田洋次の「東京家族」を見て、そのもとになった「東京物語」を見たいと思った。小津の「東京」の方がやはりよかった。役者のちがいだろうか。 主人公は尾道に住む老夫婦。笠智衆がおじいさん役。息子や娘に会いに東... -
老化も進化<仲代達矢>
■講談社α新書 20201210 仲代達矢は脚本家で演出家だった奥さんをがんで亡くしている。「立ち直るまで」を描いた本人が言っている。死別を経験して「立ち直り」を前面に出す人は珍しい。 「死」だけでなく、子どもを死産で亡くしているところまで僕らと... -
ひとり居の記<川本三郎>平凡社20201125
2008年に奥さんを亡くし、8年後に出した本。「悲しみのみが悲しみを慰めてくれる。淋しさのみが淋しさを癒やしてくれる」という柳宗悦の言葉をひき、「悲しみ、淋しさと共にありたい」と綴る。 奥さんと訪ねた台湾は、自分だけ楽しむような気がして再訪... -
いまも、君を想う<川本三郎>
■いまも、君を想う<川本三郎>新潮文庫 20201117 筆者は2008年に、ファッション評論の仕事をしていた6歳下の奥さんをがんで亡くした。57歳だった。奥さんとの2人暮らしの思い出をつづるエッセー集。 時系列で描くのではなく、猫の話から説きおこし、... -
山の宗教 修験道案内<五来重>
■山の宗教 修験道案内<五来重>角川ソフィア文庫 20201019 麓の民が山々を自分たちの先祖の霊の行く山「神奈備」として拝んでいた。死者の霊は山へ行き、霊をまつる宗教者として狩人がいた。それが修験道の山の開創者になった。 大峰・熊野の山伏が... -
仏教と民俗 仏教民俗学入門<五来重>
■仏教と民俗 仏教民俗学入門<五来重>角川ソフィア文庫 20201006 お盆やお彼岸、葬式や年忌、位牌といった習俗は仏教だと思われているが、実は本来の仏教ではなく、仏教伝来以前の日本古来の在来宗教の名残だという。 日本の在来宗教は先祖の霊に対す... -
路上の映像論 うた・近代・辺境<西世賢寿>
■路上の映像論 うた・近代・辺境<西世賢寿>現代書館 筆者はNHKの元ディレクター。近現代の時代のなかで滅びつつある、精神文化のなかに地下水脈のように流れてぉた口承文芸や語り物芸能の世界を「語り物としてのドキュメンタリー」という形にしてきた... -
四国八十八ヶ所感情巡礼<車谷長吉>
■四国八十八ヶ所感情巡礼<車谷長吉>文藝春秋 20200831 はちゃめちゃな人生を歩んだ無頼の作家という印象の車谷が、2010年に奥さんと遍路をしていたとは知らなかった。 日記スタイルの文章は彼らしい。徳島は日本一ごみが多い、東京の女優と結婚した後... -
空海の思想について<梅原猛>
■空海の思想について<梅原猛>講談社学術文庫20200828 空海の宗教は明治以降、呪術的で前近代的なものとされてインテリ層に疎んじられた。親鸞や日連、道元がファンを獲得したのと対照的だった。歴史教科書でも、大師の宗教は貴族仏教・加持祈祷とされ... -
だいたい四国八十八ヶ所<宮田珠己>
■集英社文庫20200821 途中でカヌーの川下りやシュノーケリングをしたり、しまなみ海道を自転車で走ったり……かなり軽いおアウトドア系遍路本だと思って手に取った。 読経はするけど線香やロウソクは省略する、というのは私と同じ。杖も白衣も身につけな... -
ロヒンギャ 差別の深層<宇田有三>高文研202008
ミャンマーからバングラデシュに流出したロヒンギャ難民について、「民族紛争」や「宗教迫害」と報じられたが、筆者はそうした見方こそが問題を深刻化させてきたと批判する。 ミャンマー政府は1982年以来、ロヒンギャをバングラデシュからの不法移民と... -
映画「イル・ポスティーノ」20200823
舞台は、祖国チリを追われた詩人のパブロ・ネルーダがつかの間の亡命生活を送った1950年代のイタリアの小島。 漁師の息子で、内気な青年マリオは郵便配達夫になり、ネルーダの家に郵便物を届け、詩人に刺激をうけて自らも詩をつくりはじめる。飲み屋の... -
放射線はなぜわかりにくいのか<名取春彦>
■あっぷる出版社 202007 政府は「ただちに健康に影響はない」、反原発系の学者は「少しでも危ない」と言う。国際機関の基準も、内部被曝をカウントしておらず科学的とは言えないらしい。どの程度の放射線を浴びると人体に影響が出るのか? どこも明確... -
映画「ぶあいそうな手紙」
■20200812 ブラジルに住む78歳の老ウルグアイ人エルネストが主人公。 妻に先立たれ、ポルトアレグレのアパートにひとりで住んでいる。目が悪く、遠くに住む息子からは同居を勧められているが、かたくなに断り、隣に住む同年代のアルゼンチン人と励まし合... -
美しい村に放射能が降った 飯舘村長・決断と覚悟の120日<菅野典雄>
■ワニブックス20200709 著者は飯舘村の村長。 「人づくり」を重視して独特の村おこしを展開してきたが、福島第一原発事故で全村避難となってしまった。それでも村の未来をあきらず、「人づくり」を通して復興をめざす村長の気概が伝わってきた。 著者は... -
映画「もち」<脚本・監督 小松真弓>
■20200804 岩手県一関市郊外の本寺地区という山村が舞台。キャストは全員地元住民で、中学が廃校になるという事実をふまえて、ドキュメンタリーとフィクションを融合させて物語を編んでいる。 おばあさんの葬儀で、おじいさんが臼と杵で餅をつくことを... -
映画「はりぼて」20200803
富山市議会の政務活動費問題をスクープし、市議十数人の辞職につなげた富山市の「チューリップテレビ」の取材の過程を記録したドキュメンタリー。 はじまりは富山市議会議員の月給10万円アップだった。 市議会のドンと呼ばれる自民党議員に「有権者は... -
タゴール・ソングス(映画)
■タゴール・ソングス 20200711 アジア人初のノーベル文学賞受賞者であるタゴールの詩集は以前に読んだことがあった。自然描写の美しさと、意志の力を感じさせる作品が多かった記憶がある。 小説や詩のみならず、2000曲以上の歌もつくっており、「タ... -
ハニーランド 永遠の谷
■北マケドニアの映画 20200708 北マケドニアの山間の村で、自然養蜂を営む中年の女性が主人公のドキュメンタリー。 主人公は寝たきりの母と粗末な家に住みながら、自然のハチミツを採取して暮らしている。蜂の巣を開け、蜜をとるときは「半分は私に、... -
歩く江戸の旅人たち<谷釜尋徳>
◾️晃洋書房20200705 お遍路の記録をまとめる上で参考にできないかと思って手にとった。 江戸時代、お蔭参りがはやったとき、庶民の6人に1人が伊勢を参った。当時の旅は伊勢神宮を参るだけではない。西国33ヵ所をまわったり、四国の金比... -
農と土のある暮らしを次世代へ<菅野正寿・原田直樹編著>
■コモンズ 20200702 福島県の旧東和町は有機農業の町だった。青年団運動や社会教育活動、産直運動、産廃処分場反対運動などに取り組んできた農民がその担い手だった。 2005年に二本松市などと合併する際、つちかった地域自治の受け皿をつくろうと、NPO... -
死の民俗学 日本人の死生観と葬送儀礼<山折哲雄>
■岩波現代文庫20200627Ⅰ 死と民俗 遺骨崇拝の源流 インドは火葬するが骨は川に流す。アメリカ人は遺体をきれいに整えて本土に送るなど、肉体的側面を重視する。エジプトのミイラ文化につながる。それに対して日本は、遺骨を尊重する。 だが万葉集を見... -
絶望と希望 福島・被災者とコミュニティ<吉原直樹>
■作品社20200623 大熊町の住民たちは、原発事故によって故郷に住めない難民となり、さらには行政から見捨てられ棄民化している。マスコミの扱いも小さくなり、忘れ去られようとしている。そんな人々に寄り添う研究の成果をまとめている。 国・県は放射... -
西国巡礼の寺<五来重>
角川ソフィア文庫 20200619 五来の四国遍路についての本を読んで、西国巡礼も読んでみることにした。「宗教文化」は変化するが信仰の原点は日本でも欧州でも同じであり、信仰のもっとも素朴なかたちとして巡礼が起きる。「世界中どこでも、歩くこと、め... -
時を駆ける少女 20200702
30年ぶりぐらいに見た。 原田知世のアイドル映画ってだけで、当時はそれほど印象に残らなかった。 この映画は、とくに後半の「時の旅人」の謎解き以降はB級でしかないけれど、尾道というまちを舞台にすることで成功した。 24時間後に時間が飛んでしま... -
四国遍路 八十八ヶ所巡礼の歴史と文化<森正人>
■中公新書 20200426 筆者は1975年生まれの若手の研究者。五来や頼富ほどの深みはないが、最近の動きをとらえ、「伝統」が実は最近つくられたことなどを指摘していて興味深い。 たとえば白装束は戦後のバスツアーで普及した。山門で一例して納札を入れて... -
四国遍路とはなにか<頼富本宏>
■角川選書20200423 古代から現代に至る遍路の変遷がよくわかる。大師堂と本堂を参拝するという作法は実は第二次大戦後にできたというのには驚いた。 修行者だけが歩いた辺地修行の道は四国だけでなく、伊豆大島や能登半島にもあった。海洋信仰が起源だ... -
ふりまわされない自分をつくる「わがまま」の練習<谷地森久美子>
■角川書店 20200609 自分に自信が持てず人に振りまわされ、生きづらさや自己否定におちいってしまう人は「わがままな自分」になることで新しい人生を生きられるようになる。そのためのカギのひとつが自分と他人を分ける輪郭「心の境界線」という。 幼少...