■東京物語<小津安二郎>20201221
山田洋次の「東京家族」を見て、そのもとになった「東京物語」を見たいと思った。小津の「東京」の方がやはりよかった。役者のちがいだろうか。
主人公は尾道に住む老夫婦。笠智衆がおじいさん役。息子や娘に会いに東京に出かける。医者の長男一家と美容院の長女の家をあてにするが、滞在が長くなるにつれて「いつまでいるのかしら」とお荷物扱い。それでも「私らは幸せな方でさぁ」と自分に言い聞かせる。「子どもはおらんと寂しいし、おっても寂しいのぉ」という言葉が痛々しい。
唯一、戦争で死んだ次男の嫁(原節子)は、老夫婦を観光バスに乗せ、狭いアパートの自室に招いてもてなし、おばあさんをひと晩部屋に泊まらせる。
東京で10日を過ごし、老夫婦は尾道に帰っていく。帰った直後におばあさんは危篤に陥る。
尾道に家族が集まる。長女は号泣するが、もっとも悲しいはずのおじいさんは、「明日の朝までもつかどうか」と言われて「そうか、いけんのか」「そうか、おしまいかぁ」と淡々と語る。そう、そんなものなのだ。 倒れた時と、亡くなった後にさんざん泣くことになるのだから。本当に思いが深い人は亡くなった直後や葬儀の場面で取り乱すことは少ないのではないか。監督の小津も笠智衆もそれをわかっている。すごい演技力と人間力だなぁと思う。
亡くなった後、みんなが泣いている部屋を出て海辺に行き「きれいな夜明けだったぁ。今日も暑うなるぞ」と語る笠智衆の気持ちが痛いほどよくわかる。
葬儀が終わり、長男と長女は早々と東京に帰っていく。「そうかい、もうみんな帰るかぇ」とおじいさんは寂しさを押さえて語る。
最後まで残るのは戦死した次男の嫁である原節子だった。彼女に対して「もう8年になる。いつでもお嫁に行っておくれ」と言う。それに対して原節子は「このごろ思い出さない日もあるんです。何かが起きることを待っているんです。お母様には申し上げられなかった。私はずるいんです」と吐露する。
どれだけ人の思いや人情の機微をくみ取っているのか。小津安二郎のすごみを感じた。でも、3年前に見てもこれほど深くは感動できなかったろう。
暑い夏は窓を開け放ち、蚊取り線香を焚き、うちわであおいでいた。子どもは「お子様ランチ」を楽しみにしていた。そんな昭和の風景も今はないんだよな。
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