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放射線はなぜわかりにくいのか<名取春彦>

■あっぷる出版社 202007

 政府は「ただちに健康に影響はない」、反原発系の学者は「少しでも危ない」と言う。国際機関の基準も、内部被曝をカウントしておらず科学的とは言えないらしい。どの程度の放射線を浴びると人体に影響が出るのか? どこも明確な説明をしてくれない。放射線医の立場からそんな疑問に答え、放射線の基礎知識を学べる本になっている。国際的な枠組みそのものが米国の核戦略にもとづいてつくられており、そこで決められる基準値も科学からはほど遠いという実態も浮き彫りにする。
 放射線とは、分子を切断したり壊したりする作用のある高速微粒子あるいは高エネルギーの見えない光のことで、陽子と中性子が結合したものを放出するのがアルファ線、電子を放出するのがベータ線、ガンマ線は電磁波のようなものだ。
 ベータ線や低エネルギー線は飛程が短いが、狭い範囲にエネルギーのすべてが吸収されるため内部被曝が問題となる。さらに、体の部位によって放射線の影響の度合いが異なる。
 だから、放射線の種類や被曝部位を特定しなければ健康への影響を論ずることはできない。なのに、臓器ごとの影響を換算した係数を掛け合わせて足した「実効線量」といういいかげんな概念でごまかしているという。
 内部被曝による被害は、ヨウ素131による甲状腺がん、ストロンチウムによる骨肉腫、プルトニウムによる肺がんなど、放射性物質が特定部位にトラップされる時に起こる。
 ストロンチウムやプルトニウムの汚染状況を日本のメディアが取りあげないのは異常だという。セシウム137汚染があるところには、たいていストロンチウム90も存在する。ストロンチウム90はガンマ線を出さないので線量計で検出できない。プルトニウムもアルファ線放出核種だから検出が難しい。福島原発のプルトニウムは、ハワイや米国西海岸でも検出されている。「重いから飛散しない」という政府系の学者の発表はウソだという。
 トリチウム(三重水素)を含む汚染水問題でも「心配しなくてよい」「とても危険だ」という対立構図がある。トリチウム水は、食物連鎖による生物濃縮はないと考えられるが、化合物が合成される過程で取り込まれる比率が高い。DNAに取り込まれたトリチウムがどの程度影響を与えるのかわからない。わからない以上は予防するべきだという。
 一方、「被曝するとがんになる」という反原発側の主張は大げさであり、「がんになるリスクを若干高める」と言うべきだと批判する。チェルノブイリでも、生涯にわたっての低線量被曝が年間20ミリシーベルト程度ではがんの増加はないとされている。
 ICRP(国際放射線防護委員会)の防護基準はヒロシマ・ナガサキの発がんデータに基づいている。被爆者の子どもの染色体調査では異常がなかったとされた。だが、英国セラフィールド近隣においては父親の被曝が、その子の白血病発生率を増やした。
 チェルノブイリで小児甲状腺がんの多発を明らかにしたのは、現地の医師や研究者だった。だが今もなお、現地の医師や研究者が、原因不明の突然死や心血管系の異常、意欲低下などは原発事故に起因すると考えるのにたいして、IAEAなどの国際機関は、心因性の要因や経済状況の悪化が原因だとして原発との関係を否定している。
 内部被曝の健康への影響予測は、過去の記録が決め手だが、原爆では、GHQなどの方針で内部被曝に関するデータは収集されず、日本人研究者による数少ない貴重なデータはABCCによって独占され公表されなかった。
 ビキニでは、第5福竜丸の乗組員と船体に残っていた放射性物質のデータが公表されなかった。日本独自の海洋調査船がビキニ環礁に派遣され、食物連鎖によって放射性物質が濃縮しマグロに蓄積することを示したが、日米政府が覚書を交わし、米国が見舞金を払うことで政治決着され、その後は市場のマグロの汚染検査も海洋調査も中止された。
 そしてフクシマでも、被爆直後の避難住民の被曝線量を測定するべきだったのに、調査は1カ月以上経過してから始まった。「せめて避難者の尿だけでも確保するべきだった」と言う。

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▽13 放射線の人体影響とは実際のところどうなのか? 多くの国民はその答えを求めている。放射線科医たちは、なぜか、発言を避けている。
▽24 避難住民の被曝線量が測定されなかった。調査は1カ月以上経過してから始まった。…内部被曝のデータはヒロシマ・ナガサキでも残されなかった。…せめて避難者の尿だけでも確保できなかったかと悔やまれる。
▽26 安定ヨウ素剤は「個人の判断で服用してはいけない」と現地対策本部は通達を出した。…配布した三春町の判断は正しかった。
▽29 「ただちに健康への影響はない」は「けいれんを起こして即死する者が出るほどのことはない」と言っているのと同じこと。…政府だけではない。メディアも学者も、放射線障害発生時期についての解説はなかった。
▽49 放射線とは、電離放射線のことで、分子を切断したり壊したりする作用のある高速微粒子あるいは高エネルギーの見えない光のこと。
▽53 アルファ崩壊 用紙2個と中性子2個が結合したものを放出、それをアルファ線と呼ぶ。ベータ崩壊では電子を放出し、ベータ線と呼ぶ。
▽58 放射線のエネルギーの違いは、放射線の透過性や到達範囲の違い、放射線の影響の質的違いという形になって現れる。エネルギーがちがえば影響の質がちがうのだから、別の放射線として扱わなければならない。
▽61 ベータ線、電子線には高エネルギーのものはない。そのぶん飛程が短く、狭い範囲にエネルギーのすべてが吸収されるため、狭い範囲内の組織への影響力は大きくなる。したがって、ベータ線と低エネルギー線では、内部被曝が問題となる。
▽63 リニアックのX線では治せない悪性黒色腫を、中性子線や重粒子線で治せるのは影響の質がちがうからである。
…電離放射線と紫外線の違いは、エネルギーがちがうだけ。紫外線は小さいから、真皮層までにほぼ吸収され深部に到達しない。
▽68 放射性物質の量はベクレルという単位。放射性物質の1秒あたりの崩壊数。
 被曝の程度はグレイ。被曝を受ける物質1㎏につき、1ジュールのエネルギーを与える線量。
 政府機関はシーベルトで表すが、等価線量、実効線量、実用線量などまったくべつなものを表すときに使われ、混乱の原因に。
 等価線量とは、破壊力の異なる放射線を、足し算できるように、放射線の種類ごとの加重係数をかけたもの。
 実効線量も便宜上の架空の概念。臓器組織ごとに換算係数をつくり、その係数をかけて、その値の個体全体における総和が実効線量。
 実用線量。そのうちエリアモニタリング線量は、地上1メートルの個所に人体があったとして、その人体の体表から1センチの深さの1時間あたりの等価線量。
▽77 CTは被曝線量が高いことも問題に。日本の検査被曝は発がんリスクを増やしていると英国の学術誌は警告している。
▽84 放射線治療は、日本ではその効果が十分発揮されていない。患者も医者も手術が第一という意識に支配されているからだろう。
▽88 PET診断 通常β崩壊ではマイナスに荷電した電子を放出する。ところがプラスに荷電した電子(陽電子)を放出するベータプラス崩壊がある。陽電子は付近にある電子と結びつき消滅する。そのとき2本のX線を互いに反対方向に放出する。そのX線をとらえ画像化する。…ガン検診におけるPETは糖質代謝を見ているのであって、あくまで機能診断。糖質代謝が低下しているガンは検出できない。
▽95 放射線はジャガイモの発芽防止、医療器具の滅菌にも。…蛍光塗料は紫外線や放射線のエネルギーを吸収して発光する。発光塗料に以前は微量のラジウムが用いられてきたが、文字盤職人の発がんが問題になった。…
▽103 細胞分裂の速い細胞ほど、放射線の感受性が高く、悪性黒色腫はきわめて感受性が悪い。酸素不足の状態では放射線の感受性は低くなる。
▽132 遺伝子変異の発生率は、研究に使われる細胞種、変異の中身、放射線の種類、線量率などによって異なることがわかってきた。
▽ICRP(国際放射線防護委員会)
▽135 ヒロシマ・ナガサキの発がんのデータから、国際機関は放射線リスクを推定し、ICRPの防護基準はそれを元にしている。チェルノブイリの被災小児に甲状腺がん発生率が高い
…抗がん剤治療では、放射線治療と比べものにならない高い頻度で、二次発がんの白血病発生させることはあまり知られていない。
▽138 がんは、免疫システムが異物と認識しなくなったり、ストレスなどで免疫機能が低下したときに、眠っていたガン細胞が急速に分裂・増殖を開始する(やっぱりストレスなんだ〓)
 眠っているガン細胞やガン組織はだれでも持っている。解剖すると、前立腺がんは高齢者の80パーセント以上に見られる。
▽146 放射線治療では大線量を照射するが、照射範囲から発がんすることはまれな現象だ。発がんリスクが線量に比例するなら、放射線治療後の患者はことごとく発ガンしていなければならない。
▽148 舌がんや口腔がんに大きく関与するのは物理的刺激である。虫歯がかけて舌や粘膜を傷つける状態を放置すれば数カ月でがんになる。
▽150 「被爆するとがんになる」のではなく「がんになるリスクを若干高める」と言わなければならない。
▽160 妊娠までの被爆の影響は、妊娠率の低下という形で現れる。…妊娠中の被爆は…
▽167 妊娠している女性は、できるだけ被爆を避けなければならず、妊娠可能な女性がエックス戦検査を受けるときは、月経開始後10日以内におこなう。
▽169 ダウン症の子が生まれる頻度は十代がもっとも少なく、40代では数パーセントになる。
▽180 被爆者の調査はABCCが担い、新生児65000人の調査で、被爆とのかかわりは認められなかったとされる。奇形についても、東京赤十字病院の調査による日本人の新生児の頻度と変わりがないとされた。
 ABCCを受け継いだ放射線影響研究所は、被爆者の子どもの染色体異常を調査。世界の新生児の異常の結果と同程度だった。放影研は、日米政府の共同出資で運営されている。米政府の以降に逆らえるはずがない。原爆被爆者のデータはいまだ実質的に米国の管理下にあるのである。
 …英国セラフィールド近隣における白血病の多発。父親の被曝が、その子どもの白血病発生率を増やしていることがわかった。…父親の生殖細胞に起きた遺伝子変化が子に伝わり発病につながる可能性を指摘したものとして、注目された。調査は今もつづけられている。
▽185 ちなみに米国政府は枯葉剤の2世への影響どころか、妊娠中の胎児への影響も認めていない。
▽188 アラファトの遺品から放射性のポロニウム210が検出された。ほんの微量で大量のアルファ線を放出するので、1マイクログラムでも人間を100%死亡させることができる。アルファ線以外ほとんど出さないので、食品に混ぜても、通常の検出器で検出されることはない。アルファ線は、ごく限られた研究機関でしか検出できない。暗殺にはもってこい。
▽202 ヨウ素131の内部被曝は甲状腺に集積するのに比べ、セシウムは全身に分散する。特定臓器に集積することがないということを考えると、内部被曝の健康への影響は小さいと考えられる。
…カリウム40 生涯にわたって人間はカリウムによって内部被曝を受け続けている。セシウムを数千ベクレル程度一時的に摂取しても内部被曝が問題になるとはなかなか考えられない。(〓是々非々。内臓によって、放射性物質の種類によって異なる。それをきっちり区分けして心配すべきものと安心できるものをはっきりさせる)
▽204 チェルノブイリ 小児甲状腺がんの多発などを明らかにしたのは、国際機関と関係がない現地の医師や研究者たちの地道な調査である。それによって国際的に認められるようになった。しかしなお、現地の医師や研究者と国際機関の間には健康被害の見方に隔たりがある。…原因不明の突然死、心血管系の異常、意欲や活力が低下する人が多く現れた。甲状腺以外のがんも増加している。これらが原発事故に起因するかどうかで対立している。IAEAなどの国際機関は、心因性の要因や経済状況の悪化が原因だとし、原発事故との関係を否定。
▽207 内部被曝による被害は、ヨウ素131による甲状腺がん、トロトラストによる肝臓がん、ストロンチウムによる骨肉腫、プルトニウムによる肺がんなどに見られるように、放射性物質が特定部位にトラップされるときに起こる。…カリウム40は、体内で常に動きまわり、トラップされることはない。セシウムがどこかにトラップされるのかは研究されていない。これは研究されるべき。
…ストロンチウム、プルトニウムの汚染状況について、日本のメディアがまったく取りあげないのは異常だ。
…セシウム137の汚染が存在するところには、たいていはストロンチウム90も存在する。ストロンチウム90はベータ線を出すが、γ線を出さないので、線量計で検出できない。だから汚染状況が公表されないのかもしれない。
…ストロンチウムは、いったん骨に取り込まれると排出されない。骨肉腫や白血病などの原因となる。
▽212 電子粒子が低速になればなるほど物質に多くのエネルギーを与える。あたかも高温に熱したパチンコ玉が肉のかたまりに打ちこまれるようなもの。…エネルギーが小さくなれば単位距離あたりに物質に与えるエネルギーが大きくなる。
…原発事故の被爆者に多発する心血管系の影響や、だるい、疲れやすい、筋力低下、意欲低下などの症状は、放射性ストロンチウムからの内部被曝に起因している可能性も否定できない。
▽213 プルトニウムはアルファ線放出核種。ガンマ線をほとんど出さないので、簡単には検出でいない。
▽214 過去の核実験によって、微量のプルトニウムが世界中の土壌や人々の体に存在している。環境中では酸化プルトニウムとなり、…土の上に降り注いでも定着せず容易に飛散する。ホットパーティクル(放射性粒子)となる。…プルトニウムは体内に沈着すると移動はほとんどなく…。
 福島原発のプルトニウムは、ハワイや米国西海岸でも検出されている。「重いから飛散しない」というのはウソ。
▽216 トリチウム(三重水素) 汚染水問題。「心配しなくてよい」「とても危険だ」という対立構図。…トリチウム水は、食物連鎖による生物濃縮はないと考えられているが、…化合物が合成される過程で取り込まれる比率が高い。DNAに取り込まれたトリチウムがどの程度の影響を与えるのか。
 …わからないときは「安全だ」とも「危険だ」とも癒えない。「予防原則」という言葉は、深刻な危険の可能性があるときは、証拠がなくても予防措置をするべきである、と教えている。
▽232 統計データはいとも簡単にごまかせる。
・都合の悪いデータは隠す。原爆の内部被曝のデータ隠蔽。
・意図的な「言いすぎ」。「被曝するとがんになる」という主張。
・意図的な「過度の否定」。「100ミリシーベルト以下の被曝ではがんにならない」
 …原発の発電コストは安上がり、と言われたが、そこには、労働者や住民の健康被害、放射性廃棄物の処理費などが入っていなかったことが明らかになった。
▽236 確定的影響は一定線量以下では現れないので、しきい値(下限線量)があるとされる。では確率的影響もしきい値があるのか?
▽239 空間線量率は距離の2乗に反比例する。…被曝線量は、頭や顔よりも足や生殖腺のほうが断然大きいし、大人の生殖腺より子どもの生殖腺のほうがはるかに大きい。
▽250 安定ヨウ素剤よりコンブ。「しばらく毎日昆布飴を1個食べろ」…昆布飴1個を前日に食べると放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みが20分の1まで抑えられることがわかった。昆布飴1個のよう素は0.05㎎。この量は乾燥昆布約40ミリグラム。昆布片1,2平方センチ。…大切なことは汚染がつづくかぎり毎日欠かさないこと。
▽256 政府の予防策が安定ヨウ素剤だけなのは、ICRPやIAEAなどの国際機関が安定ヨウ素剤を推奨しているから。
▽259 汚染地域や近海で採れたもので、カルシウムを多く含有するものを避ける。動植物がカルシウムを吸収するとき、同時にストロンチウムを吸収していると考えられるからである。
▽262 骨髄移植前には、放射線の全身照射か、大量の抗がん剤を投与して、自分の骨髄細胞を全滅させなければならない。
▽270 ICRPは、放射線防護の世界における最大の権威であり、その勧告に異議を唱える政府はない。
▽272 原爆被害のデータはABCC(原爆傷害調査委員会)に集められた。米国核戦略のためにデータが独占されることに。
 活動停止状態だった国際X線及びラジウム防護委員会(IXRPC)に米国が資金と人材を送り込み、1950年に名称を「ICRP」と変えた。
 同時に、被曝線量基準などの勧告が発表される。基準値以内なら問題ないとしてお墨付きを与え、被曝をともなう作業に従事させようとするもの。
 国連やIAEA(国際原子力機関)などの国際機関は、放射線の安全基準をしだいにICRPに依拠するようになり、国際基準をICRPが決めるという体制ができあがっていった。
 …ICRP勧告が、日本ではまるで憲法のごとく、絶対的なものとして浸透している。反原発を唱える市民団体までが、ICRP勧告を引きあいにする。海外からは、日本はICRPにもっとも忠実な国だと言われている。
▽275 国連科学委員会(UNSCEAR)とICRP、IAEAのそれぞれの立場はUNSCEARが人体影響に関する基礎資料を整理して報告し、ICRPがそれにもとづいて放射線防護の理念、原則、基準値を勧告し、IAEAは国際的合意のもとにより具体的な防護指針を作成して、各国を監督監視するという関係になっている。
 これらの機関は、委員たちが兼務したり横滑りすることも多く…蜜月関係。
 …WHOはIAEAとの間に確執があり、IAEAの同意がなければ原子力分野での活動はできないとする協定がある。原子力の利用促進をめざすIAEAが、健康の実現をめざすWHOよりも優位にあることを表す。
 …ECRR(欧州放射線リスク委員会) ただひとつICRPを批判的に見る機関。1997年に欧州議会の緑の党が主導して設立。ECRR勧告はICRPの足りない点を指摘している…。
▽280 ICRPの基本理念は、地域住民の健康被害があっても、経済的損失を抑えることが優先される。「弱者の損失と強者の利益」のトリック。
▽283 平常時の個人被ばくの線量拘束値は、公衆被曝で年間1ミリシーベルト、職業被曝で年間20ミリシーベルト。職業人と一般人とで放射線の感受性にちがいがあるわけではないのに、職業人は利益を受けているから、その分だけ健康リスクがあってもよい、という説明をする。「弱者の損失と強者の利益」のトリック。
…ICRP勧告は、回復作業を含む職業被曝の場合は、個人線量限度を5年間で100ミリシーベルト、どの1年間も50ミリシーベルトまでとしている。年平均20ミリシーベルトだから、線量拘束値とちがいはないと思いがちだが、期間労働者を被曝の多い復旧作業にあたらせるには都合よくなっている。短期間に50ミリシーベルトの被曝をするまで作業にあたらせて使い捨てにし、次々に労働者を変えるのである。
▽287 緊急時や現存被曝状況では基準値が大幅に引き上げられる。…平常時の基準をいかにきびしく設定しても、いくらでも抜け道が用意されている。現存被曝状況とは、現に被曝が存在するのだから仕方がないとして、緊急時を脱しても、いつまでも住民の高い被曝の事実を追認するためのものである。
▽290 日常生活で浴びる放射線の線量は、世界平均で1年あたり2.8ミリシーベルトだが、日本人平均は3.8である。日本人が多いのは医療被曝によるもので、医療被曝だけで2.3ミリシーベルトになる。自然放射線は海外に比べて少ない。
…日本の医療被曝が発がんのリスクを高めていると海外の研究者は警告している。
▽294 実効線量による被曝線量岳では、健康への影響がないのかどうかもわからない。せめて、漏れ出た放射性物質の内訳ぐらいは報道されなければならない。
 内部被曝による健康へのリスクは、放射性物質の種類、侵入経路などによってまちまちである。肝心な情報を伏せたままにして、被曝線量の上限値だけ言うのでは、何かを隠していると疑われてもしかたない。
▽305 内部被曝の健康への影響予測は、過去の記録が決め手。ところが、原爆では、GHQとABCCの方針によって内部被曝に関するデータの収集はなされず、日本人研究者による数少ない貴重なデータはABCCによって独占され公表されなかった。
 ビキニでは、第5福竜丸の乗組員と船体に残っていた放射性物質のデータだけが、唯一信頼できる限られたきわめて貴重なデータであるはずなのだが、公表されることはなく詳しい調査はないとされている。
…日本独自の海洋調査船、俊骨丸がビキニ環礁に派遣され、食物連鎖によって放射性物質が濃縮しマグロに蓄積することを示した。だが、日米政府が覚書を交わし、米国が200万ドルの見舞金を払うことで、政治決着され、その後は市場のマグロの汚染検査も海洋調査も一切中止された。
▽307 ICRPの実効線量は、内部被曝の実態を表していない。医師や研究者からは完全に無視されている。数値だけが一人歩きし、外部被曝と同列に扱い足し算し、それでもって個人被曝線量を規制したり、機運値を設定しての食品規制をしている。
…内部被曝は外部被曝とは別枠に考えて特殊に扱うべきで、放射性物質の種類と摂取経路を明らかにして、記録に残すべきであろう。
…記録の蓄積によって、健康を守るために必要な知識は得られる。
▽放射線の単位変更の謎。
 変更のデメリットは数多いが、メリットは不明。
▽319 被曝線量葉、身につけている線量計の数値から導き出される。作業現場では「空間線量」を目安にすることはあっても、被曝線量とはきちんと区別されている。ところが、線量計をもたない住民の被曝においては「空間線量」がそのまま被曝線量にされてしまっている。
▽320 同じ空間線量率20ミリシーベルト/時間の下にいるとしても、小さな子どもは大人の数倍以上の被曝を受けることになる。「空間線量率」と地上1メートルの測定点(大人のへその高さ)における身体の体表から1センチの深さの1時間あたりの被曝線量。
……被曝の影響を防ぐためには、もっとも影響を受ける生殖腺などの重要臓器の被曝線量を基準にしなければならないだろう。
▽322 シーベルトという単位。放射線の吸収線量(グレイ)にたいして、都合のよいように係数をかけて補正したもので、被曝の程度を表す単位として使われる。等価線量、実効線量、実用線量というICRPが定義する3種類の概念にたいして使われる。
 …種類の異なる放射線の吸収線量を足したり平均値を出したりできるように、放射線の種類ごとに係数をつくって吸収線量を補正したのが、等価線量。
…放射線の種類によってその影響の質がちがう。質の違いを係数という数値で補正できるわけがない。X線や中性子線、エネルギーの異なる放射線は、それぞれ性質の異なる別の放射線なのである。被曝線量は、あくまでも放射線の種類ごとに出さなければならない。
 …実効線量。組織加重係数を使って、部分被曝や不均等な被曝を、比較のため全身被曝に換算しようというもの。ICRPの政治判断のもとに、間に合わせの基準によって形だけの損失予測をするためのもので、医学や放射線の科学的概念ではない。
▽334 放射線の線量とは、照射線量も吸収線量も部位を特定しなければならないものだった。実効線量といういいかげんな概念の出現を契機に、部位を特定しないことがまかり通るようになってしまった。
…被曝は、放射線の種類、被爆者個人の状況や被曝部位など個別に検討するべきものである。シーベルトという単位を使って、すべてをひとまとめにするのは、統計処理の利便性のためであり、統計学は常に都合のよいように悪用される。
▽347 劣化ウラン弾の使用で飛散するウラン238の粒子による内部被曝の被害は、イラク・コソボなどの住民の間では自明のことになっているが、米国は劣化ウラン弾との因果関係を認めていない。
…チェルノブイリ事故後、ヨーロッパでは白血病が数倍にも増えているとされるが、被曝との関係は曖昧にされたまま。
▽348 チェルノブイリ…生涯にわたっての低線量被曝が年間20ミリシーベルト程度ではがんの増加はなさそうだ、ということだけは言える。
▽356 フクシマの状況。国連科学委員会は、放射線による明らかな健康への影響が出るとは考えにくいと結論づけた。データがないにもかかわらず、甲状腺被曝線量は最大で82ミリシーベルトと推計できるのは、きわめて不自然。
 2013年、WHOが報告書。なのに報道されない。リスク上昇を推定。国連科学委員会に比べればはるかに公平な報告書。
 国連人権委員会 報告書は毎日新聞だけ報道。…年間20ミリシーベルトの避難規準を、人権に基づき1ミリシーベルト以下に抑えるべきだと指摘。被曝線量が年間1ミリシーベルトを上まわる可能性がある地域では、住民の健康調査をするよう政府に求めている。
▽370 ストレスが原因で心の病やがんが発症するのは、ストレスが病気にたいする抵抗力を疎外するから。…むやみに心配する人はストレスを抱えやすい(やっぱりストレスが大きかった…)
▽372 ストレスによる健康影響が大きいのはその通りだが、そのストレスの最大の原因となっているのは、チェルノブイリにおいてもフクシマにおいても、事故対応の不透明さであり、納得のできる説明がないことである。

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