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身体論のすすめ<京都大学人文科学研究所共同研究班「身体の近代」菊地暁編>
■京大人気講義シリーズ 20211231 江戸時代までの日本人は、同じ側の手と足を同時に前後させる「なんば」という歩き方だった。明治の徴兵制と教育によって今の歩き方になり、「体育座り」も生まれた……。 そういった、所作の変化によって文化が変化する、... -
生命の医と生命の農を求めて<梁瀬義亮>
■地湧社 20211215 梁瀬は、日本で最初に農薬の害を告発した医師だ。彼について書かれた本はいくつか読んだが、本人が書いたこの本がもっともインパクトがあった。 浄土真宗の寺に生まれ、16歳のとき病気になり漢方医にいくと「白砂糖のたべすぎ」と指... -
君ひとの子の師であれば 復刻版<国分一太郎>
■新評社20211208 戦前から戦後にかけての生活綴り方運動の指導者の思想と生き方を知りたくて購入した。生き方や哲学と、それを伝えるための具体的な「教え方」が記されている。私にとっての尊敬できる恩師は「そういう人」だった。 「死ね、死ね」と教え... -
老いる意味 うつ、勇気、夢<森村誠一>
■中公新書ラクレ20211119 森村誠一の本は昔から読んでいた。ベストセラー作家が、老人性うつ病と認知症に苦しみ、克服した。新聞の書評に紹介されていた。 生きる意味が見えなくなり、なにをやっても心が晴れない状態に認知症が加わったとき、いったい... -
水俣曼荼羅 権力とたたかいつづけるドンキホーテたちの群像劇 202112
ジョニー・デップ主演の「MINAMATA」は、「水俣病は終わっていない」という情報は世界に発信したが、何がどう終わっていないかは伝えなかった。原一男監督は20年の歳月をかけて「終わってない」現実をひとりひとりの生き様を通して描き切った。その重み... -
生命の農 梁瀬義亮と複合汚染の時代<林真司>
■みずのわ出版 20211127 梁瀬は、いちはやく農薬の健康被害を告発し、自ら有機農業も実践した。有吉佐和子の「複合汚染」(1974〜75)では「昭和の華岡青洲」と評され、患者からは「現代の赤髭」「仏様のような先生」と慕われた。 戦争中、軍医として... -
愛農救国の書<小谷純一>全国愛農会
全国愛農会をつくった小谷純一氏(2004年10月1日死去)による愛農運動の原典の改訂増補版。1978年に出版された。 17歳の時から「人間はどう生きるべきか」「どのようにしたら自分の村を改善し理想の農村を建設することができるか」を探究し、「日本の農... -
青い目の近江商人 メレル・ヴォーリズ<岩原侑>
■文芸社20211031 筆者(1934〜2018)は、近江兄弟社を社長として倒産の危機から救った立役者。 ヴォーリズの建築は有名だけど、彼が近江兄弟社の創始者とは知らなかった。 近江兄弟社の名も、近江さんという兄弟がつくった会社だと思っていたが、「人... -
とうわ よもやまばなし<紺野雅子>
■20211018 1日中かかった結婚式。貧しい家には負担だった。風呂は3,4日に一度しか水をかえないから垢で真っ黒だった。膳も洗うのは3,4日に一度。 うんちは肥料になるから自分の家でするようにする。馬糞を拾って歩いた。 嫁は暗いうちから働き、昼間... -
「男はつらいよ50 おかえり寅さん」
昨年封切り。amazonプライムで見た。 みつおが大人になって、6年前に妻を亡くして中学生の娘と2人で住んでいる。その設定だけでもたまらんな。 今は小説家。高校時代の恋人のいずみ(後藤久美子)がヨーロッパから一時帰国して出会うという物語。女性... -
MINAMATA 20210929
ユージン・スミスと水俣を描いた映画。楽しみにしていた。「ライフ」で活躍する巨匠だが、沖縄戦の取材の際のけがで、食事もろくにできず、アルコールに頼っていた。 そんなユージンが水俣と出会い、患者らとふれあうなかで生きがいを回復させていく。... -
ミス・マルクス(映画)
■20210923 マルクスの娘エリノアが主人公。 兄弟姉妹のなかでもっともマルクスに似て、戦闘的な革命家だった。 マルクスは天才だが、生活は親友のエンゲルスに頼り切りで、学問のことしか考えない堅物だった。一方で家政婦との間にも子どもをつくり、エ... -
くじらびと<石川梵>(映画)
■202109 インドネシアの漁村の、マッコウクジラを銛で獲る漁師ラマファたちが主人公。 クジラが年間10頭獲れれば1500人の村人がくらせる。船の舳先からクジラに向かって跳んで銛を突き刺すラマファは危険だが子どもにとってあこがれの職業だ。 そんな... -
ゴールデンカムイ20210912
(アニメと漫画) amazonプライムでアニメの第1部と第2部計25話を一気に見て、第3部はFODの無料お試しで10話を見た。その後の漫画も展開も見たい思ったら、ちょうど漫画を無料公開しているから一気に読んでしまった。 アイヌ関係の博物館や資料館で推奨... -
江差花街風土記 北前船文化の残像<松村隆>
■文芸社20210908 北前船の終着駅だった北海道・江差がどれだけ繁栄していたのか知りたくて入手した。 松前藩の中心である福山(松前)や箱館(函館)と比べても、入船数が圧倒的に多く、回船問屋の数も圧倒していた。 大きな回船問屋は、現在の江差町... -
神と自然の景観論 信仰環境を読む<野本寛一>
■講談社学術文庫20210803 島や岬、洞窟、岩などの自然の地形と信仰のかかわりを論じる。以下に紹介するようにその具体例はいちいち興味深い。でももう少し「意味」の体系を教えてほしかった。 三宅島は「御焼島」であり、伊豆東海岸の白浜は、御焼島... -
恋と日本文学と本居宣長<丸谷才一>20210815
中国の文学は恋愛は描かれず猥談も嫌がる。結婚制度を乱さない妓女への執着を歌うことが許された程度だ。詩歌の主流は友情の歌だった。 なのに日本文学では源氏物語や万葉集のころから恋愛が取りあげられてきた。歌の主流は相聞歌だ。柿本人麻呂も紀貫... -
須賀敦子全集 第1巻<河出文庫>20210903
■「ミラノ霧の風景」「コルシア書店の仲間たち」ほか 須賀は20代終わりから40代の初めの13年をイタリアで過ごした。カトリック左派の人々が運営するコルシア書店と出会ってミラノに住み、書店の中心メンバーだったペッピーノと結婚する。 登場人物はカト... -
眠れないほどおもしろい平家物語<板野博行>
■三笠書房王様文庫 20210819 平家物語の見どころを抜粋して、とくに人物に焦点を当て、原作にはないエピソードもふんだんに加えて登場人物の魅力を浮き彫りにしている。 平家=悪、源氏=善、という一般の印象を覆し、むしろ平家の人々の人間らしさとお... -
映画「パンケーキを毒味する」
■2021年8月8日 菅義偉は、雪深い東北から法政大学に進学して、秘書からのたたき上げで総理の座までのぼりつめた。人事で支配する陰険な男という印象だが、義理堅く、気配りをする一面もあるらしい。表裏がある政治家が多いなかで、管の言葉は信用できる... -
生命系の未来社会論 気候変動とパンデミックの時代 抗市場免疫の「菜園家族」が近代を根底から覆す<小貫雅男、伊藤恵子>
■御茶の水書房20210720 新型コロナウイルスによって、貧困に陥る母子家庭が増える一方、Go To トラベルで高級ホテルに予約が集中する。格差と分断が常態化した。 気候変動も、2030年までに温室効果ガス排出量を45%、50年までに実質排出ゼロにしなけれ... -
無と意識の人類史 私たちはどこへ向かうのか<広井良典>
■東洋経済新報社20210721 資本主義を超える新しい思想を考えたとき、それは新しいアニミズムとなる。「生」とは、時間も空間もない無(永遠)の世界から一瞬だけ与えられた火花のような瞬間であり、それが終わるとまた無(永遠)の世界にもどるという。最... -
智恵子抄の光と影<上杉省和>
大修館書店 20210730 気が狂ってしまった妻、智恵子に最後まで寄り添った高村光太郎。愛を貫いた日々を振り返った「智恵子抄」は涙なしには読めない。 でも戦後、いくつかの疑問が呈された。自由を求める「新しい女」が家庭に縛られることで精神を病ん... -
人新世の「資本論」<齋藤幸平>
■集英社新書20210717 人新世とは、人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味らしい。 気候変動は待ったなしのところに来ている。エコ産業によって環境と経済成長を両立できると考えるグリーンニューディールなどの気候ケインズ主... -
霧の彼方 須賀敦子<若松英輔>
■集英社202106 1929年生まれの須賀敦子はイタリアに長く暮らし、「カトリック左派」の立場で現実社会とのかかわりのなかで信仰を深めた。 夫のペッピーノとともに参加したコルシア書店は、キリスト教の殻に安住せず「人間のことばを話す場」をつくり、特... -
映画「巡礼の約束」
■20210705 チベット映画4本目。 自らの病気が治らないと知った女ウォマは、病状を夫のロルジェには告げずラサへの巡礼に出る。前夫との間に息子がいて実家にあずけている。 巡礼の途中、医者から病状を聞いたロルジェが追いかけてくる。息子のノルウも... -
チベット映画「オールド・ドッグ」
■20210704 BGMもなく、一見、単調な日々をだらだら撮っているだけのように見える。でも見終わると、細部にまでこだわっていることに気づかされる。 チベット犬と呼ばれるマスチフ犬はチベットの牧畜民に番犬や猟犬として飼われてきた。経済成長とともに2... -
映画「ラモとガベ」
■20210630 ラモとガベが婚姻届を出そうとしたところ、ガベが以前に結婚していて離婚が成立していないことになっていた。婚約者の親せきが勝手に届けを出してしまっていたらしい。 元婚約者をさがして離婚届に署名してもらおうとしたら、彼女は尼僧になっ... -
映画「ラサへの歩き方 祈りの2400キロ」
■20210629 四川省に近いチベット東部の村で、ラサへの巡礼を夢見ていた老人が死んだ。その弟が「巡礼に行かせてあげたかった。俺も死ぬ前にラサを参りたい」と言う。村人10人あまりで1200キロ離れたラサとさらに1200キロ西の聖山カイラスに出かけることに... -
身体の零度 何が近代を成立させたか<三浦雅士>
■講談社選書メチエ20210620 衣服の目的は寒さを防ぐためではないという。動きやすさを求めるなら裸が一番だからだ。そもそもの目的は入れ墨と同様「飾る」ことだった。 18世紀のロココの時代までは衣装の目的は装飾にあった。 軍服も当初は装飾目的だっ...