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チベット映画「オールド・ドッグ」

■20210704
 BGMもなく、一見、単調な日々をだらだら撮っているだけのように見える。でも見終わると、細部にまでこだわっていることに気づかされる。
 チベット犬と呼ばれるマスチフ犬はチベットの牧畜民に番犬や猟犬として飼われてきた。経済成長とともに2000年以降、中国の富裕層の間でマスチフ犬ブームが起きた。
 主人公の老人は十数年飼ってきた老犬を「ゆずってくれ」と言われるたびに「犬は民族の誇りだ」と拒んできた。
 息子がブローカーに3000元で売ってしまうと、すぐに取り戻した。犬泥棒に盗まれかけ、ブローカーがしつこくまとわりつき、「山の神」に託そうと犬を山に解き放ったらブローカーが捕獲してしまう。取り戻しに行った息子はブローカーもめて逮捕される。
 牧畜の友であった老犬はもう野山を自由に走ることもできない。神仏の領域だった山でさえもブローカーの手の内に落ちてしまった。すべてが市場経済にひれ伏してしまった。
 残る選択肢はひとつしかなかった。……
 息子夫婦には子どもができず、テレビはショッピングの放送をがなり立て、荒涼とした町は建設重機の音が響く。そんな細かな描写の積み重ねが、自然への畏怖や神仏への祈り、犬や羊との共感とともにあった伝統が、漢民族とともに襲ってきた市場経済によって崩壊しつつあることを表現している。

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