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にっぽん春歌紀行<野坂昭如>
■ちくま文庫20220707 野坂昭如は、戦災で妹を亡くした経験を「火垂るの墓」に書き、小説家だけではなく歌手や参院議員もつとめた。 卑猥な歌詞だからこそ生活感情がこめられている。それを文部省やNHKが変更し禁ずることに怒る。 柳田国男らは生活に根... -
映画「ドンバス」202206
2014年、ウクライナでヤヌコヴィチ政権たおすマイダン革命(政変)が起こると、これに反対する急進派がドンバス地方のドネツク州とルガンスク州で州庁舎を占拠して「人民共和国」を名乗り、ウクライナからの分離を求めて住民投票を実施した。ウクライナ... -
スープとイデオロギー<ヤン・ヨンヒ監督>
■20220611 ヤン・ヨンヒ監督は私と同年代の在日朝鮮人の二世だ。その彼女がみずからの家族を何年もかけて撮ったドキュメンタリー。 父母は朝鮮総連の活動家で、家には金日成らの写真を飾り、監督の兄3人は「帰国事業」で北朝鮮にわたった。 ヨンヒ自身... -
教育と愛国 202205
戦後なくなった「道徳」という科目が正規の科目として復活した。「おはようございます!」とあいさつするとき、①あいさつの前に頭を下げる②あいさつしながら頭を下げる③あいさつをしてから頭を下げる どれが正解でしょう? こんな珍妙な「道徳」を大ま... -
須賀敦子全集2
■河出書房新社 須賀敦子は1953年に24歳でパリに留学したが、パリでの暮らしはつらいものだった。帰国して一時NHK国際局で働いたあと、29歳のときカトリック留学生としてイタリアに向かった。イタリアにどっぷりつかり、貧しい鉄道員の家で育った夫ペッピ... -
原発プロパガンダ<本間龍>
■岩波新書20220513 博報堂の営業担当だった筆者が、原発プロパガンダの変遷とそのねらい、効果をあきらかにしている。広告主に弱いメディアと、その弱点を広告代理店がたくみに利用してきたことがよくわかった。 3.11以前、「原発は日本のエネルギーの... -
食べものから学ぶ世界史 人も自然も壊さない経済とは?<平賀緑>
■岩波ジュニア新書 20220508 自然の動植物をとって食べていた時代から、食べものは次第に商品化して、ついには投機の対象になった。小麦やトウモロコシ、砂糖といった食べものの歴史をたどることで資本主義の変遷を浮き彫りにする。資本主義化が食を変... -
暮らしの中の文化人類学<波平恵美子>
■福武書店20220503 気鋭の文化人類学が「暮らしと文化人類学」のつながりについて1980年代に新聞に連載したもの。 ふだんは貧しい食事なのに冠婚葬祭にどんちゃん騒ぎをする。数年に一度の行事のために豪華な食器をそろえる……そうした「因習」をやめるこ... -
人類と建築の歴史<藤森照信>
■ちくまプリマー新書 20220420 旧石器時代から現代まで、建築のあり方がどう変化したかを俯瞰する。 旧石器時代は世界どこでも円形の家に住み、柱を立てて祈った。2歩目の青銅器時代の四大文明と、3歩目の四大宗教の時代で地域による差異が最大となり... -
21Lessons 21世紀の人類のための21の思考<ユヴァル・ノア・ハラリ>
■河出書房新社 20220402 産業革命後、工業国の経済や軍隊は、膨大な数の庶民を必要とした。その結果、20世紀はおおむね、階級や人種などの不平等は縮小してきた。 20世紀の後期は、民主国家が独裁国家を圧倒してきた。民主主義は、情報を処理して決定... -
古都の占領 生活史からみる京都1945-1952<西川祐子>
■平凡社20220415 ある時代を生きて空気感は感じていても、その時代について理解できることなどほんの一部に過ぎない。 筆者は少女時代を、米軍の支配下の京都で過ごした。自分自身の記憶にある当時の空気感の意味を、80人とのインタビューや府庁や市役... -
映画「ドライブ・マイ・カー」
舞台俳優で演出家の主人公は、脚本家の妻と暮らしていたが、妻は突然死してしまう。 妻は主人公の目を盗んで浮気していた。そのことを主人公は知りながら、関係が壊れるのをおそれて知らないふりをしていた。 妻の死から2年後、広島で演劇の演出をまか... -
民俗学入門<菊地暁>
■岩波新書20220403 宮本常一や柳田国男ら、民俗学者ちの本は読んできたが「民俗学」の定義は考えたことがなかった。 柳田は、過去を知ることがよりよい社会をつくる力になると考えたが、今の民俗学は古くさい習俗を記録しているイメージしかない。 だ... -
共同店ものがたり 沖縄で100年続くコミュニティビジネス <監修・宮城能彦(沖縄大学地域研究所)>
■季刊カラカラ別冊 1906年4月、奥集落で雑貨商を営んでいた糸満盛邦は、利益を人々に還元する方法を模索した結果、店を提供してむらの共同事業として経営することを思いついた。「奥共同店」発足。 山原船3隻を所有して経営をつづけ、1911年、薪・炭・... -
沖縄の神と食の文化<赤嶺政信>
■青春出版社(20030415) ▽73 巨大な墓 風葬・洗骨は1955年ごろまでつづいた。棺ごと墓室に入れて風化するのを待って洗骨する。そのスペースが必要だ。洗骨後は厨子がめに入れて安置するが、火葬よりも骨の量が圧倒的に多くなる。▽亀甲墓と破風墓がある... -
沖縄の食の本3冊(図書館で)
■九州・沖縄 食文化の十字路<豊田謙二>築地書館 2009/3/20 奄美は1953年に本土に復帰した。その際の特別措置として、糖蜜を使う蒸留酒の伝統が考慮され、「黒糖焼酎」が酒税法上「しょうちゅう」と認められた。砂糖黍のキビ汁では「ラム酒」になる... -
沖縄が日本を倒す日<渡瀬夏彦>
■かもがわ出版20220331 沖縄県の翁長元知事は沖縄の自民党の中核にいたが、辺野古基地への反対を掲げて「オール沖縄」の旗頭になって知事に就任した。彼が亡くなると、国会議員だった玉城デニー氏が跡を継いだ。 筆者は、取材者というよりも、デニー氏の... -
映画「アルキメデスの大戦」
■20220123 ヤングマガジンで今も連載している。 100年にひとりの数学の天才、元帝大生の櫂直が主人公。天才的な頭脳を生かして、巨艦建造を阻み、ミサイルやガスタービンといった先進技術を実用化し、ヒトラーやアメリカのルーズベルト大統領ともわた... -
後世への最大遺物・デンマルク国の話
■後世への最大遺物 20220122 我々は後世に何を遺せるのか。 金も大事だ。金がないなら事業を遺す。その力がないならば思想を遺す。思想は、文学を著述をすることや学生を教えることによって伝えることができる。 内村は 「源氏物語」を「われわれを女... -
内村鑑三 悲しみの使途<若松英輔>
■岩波新書20220117 無教会主義とほかのプロテスタントとはなにが異なるのか。妻と娘を亡くした内村鑑三はそれをどう自分の人生と信仰のなかに位置づけているのか。全国愛農会の創始者・小谷純一が有機農業を広めたことと彼が信じた無教会主義は関係がある... -
眠れないほどおもしろい吾妻鏡<板野博行>
■王様文庫20220116 源頼朝は武家政権を築いた偉人のイメージがあるが、義経だけでなく、静御前との間に生まれた赤ん坊を生き埋めにして、もう一人の異母弟・範頼も殺している。猜疑心のかたまりのような残酷な権力者だった。 2代将軍頼家や3代実朝が殺... -
みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記<星野博美>
■文春文庫20220112 筆者自身のミッション系の学校での経験、祖父が漁師をしていた外房・御宿で1609年に南蛮船が難破した事実、留学した香港と澳門の経験、キリシタンへの興味からはじめたリュート……。 筆者自身の経験と、キリシタンの歴史が少しずつから... -
身体論のすすめ<京都大学人文科学研究所共同研究班「身体の近代」菊地暁編>
■京大人気講義シリーズ 20211231 江戸時代までの日本人は、同じ側の手と足を同時に前後させる「なんば」という歩き方だった。明治の徴兵制と教育によって今の歩き方になり、「体育座り」も生まれた……。 そういった、所作の変化によって文化が変化する、... -
生命の医と生命の農を求めて<梁瀬義亮>
■地湧社 20211215 梁瀬は、日本で最初に農薬の害を告発した医師だ。彼について書かれた本はいくつか読んだが、本人が書いたこの本がもっともインパクトがあった。 浄土真宗の寺に生まれ、16歳のとき病気になり漢方医にいくと「白砂糖のたべすぎ」と指... -
君ひとの子の師であれば 復刻版<国分一太郎>
■新評社20211208 戦前から戦後にかけての生活綴り方運動の指導者の思想と生き方を知りたくて購入した。生き方や哲学と、それを伝えるための具体的な「教え方」が記されている。私にとっての尊敬できる恩師は「そういう人」だった。 「死ね、死ね」と教え... -
老いる意味 うつ、勇気、夢<森村誠一>
■中公新書ラクレ20211119 森村誠一の本は昔から読んでいた。ベストセラー作家が、老人性うつ病と認知症に苦しみ、克服した。新聞の書評に紹介されていた。 生きる意味が見えなくなり、なにをやっても心が晴れない状態に認知症が加わったとき、いったい... -
水俣曼荼羅 権力とたたかいつづけるドンキホーテたちの群像劇 202112
ジョニー・デップ主演の「MINAMATA」は、「水俣病は終わっていない」という情報は世界に発信したが、何がどう終わっていないかは伝えなかった。原一男監督は20年の歳月をかけて「終わってない」現実をひとりひとりの生き様を通して描き切った。その重み... -
生命の農 梁瀬義亮と複合汚染の時代<林真司>
■みずのわ出版 20211127 梁瀬は、いちはやく農薬の健康被害を告発し、自ら有機農業も実践した。有吉佐和子の「複合汚染」(1974〜75)では「昭和の華岡青洲」と評され、患者からは「現代の赤髭」「仏様のような先生」と慕われた。 戦争中、軍医として... -
愛農救国の書<小谷純一>全国愛農会
全国愛農会をつくった小谷純一氏(2004年10月1日死去)による愛農運動の原典の改訂増補版。1978年に出版された。 17歳の時から「人間はどう生きるべきか」「どのようにしたら自分の村を改善し理想の農村を建設することができるか」を探究し、「日本の農... -
青い目の近江商人 メレル・ヴォーリズ<岩原侑>
■文芸社20211031 筆者(1934〜2018)は、近江兄弟社を社長として倒産の危機から救った立役者。 ヴォーリズの建築は有名だけど、彼が近江兄弟社の創始者とは知らなかった。 近江兄弟社の名も、近江さんという兄弟がつくった会社だと思っていたが、「人...