■20210615
ハンセン病は結核などに比べて伝染力はきわめて弱く、隔離の必要などないことは戦前からわかっていた。なのに、国家の政策として強制的に隔離された。皇室の権威がそれに箔をつけた。
戦後の新憲法下でも隔離は強制力を強め、断種の手術も広がった。プロミンという新薬は療養所でしか処方しないことで、入所を促す道具として使われた。
国の政策が患者や家族を追いつめ、差別を激化させたことがよく分かる。
主人公の小笠原医師は京都帝大の医者で、戦前から孤立しながら「感染力は極めて弱いから隔離は必要ない」と主張し、自分の患者は療養所に送ろうとしなかった。
ハンセン病の国賠訴訟では、小笠原医師の後継の京大の研究者が専門家でただ一人、原告側に立った。小笠原医師の弟子の元厚生官僚も裁判で証言した。どちらも「ひとりぼっち」だった。
「一人」の立場で良心を貫く3人がいたからハンセン病訴訟の勝訴があった。
すばらしい映画だけど、ちょっと気になったのは、光田健輔医師ら強制隔離を推進した人々が悪人として描かれていることだ。
患者の立場から見ると「悪人」だけど、たとえば神谷美恵子は光田医師のことを「慈父のよう」と表現していた。慈父のような人がなぜあんなひどい政策を促すのか。その経緯と理由が描かれていたらもっと深みが出たと思う。悪人による悪行よりも、善人による悪行の方がよほどおそろしいのだから。
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