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希望のつくり方<玄田有史>

■岩波新書20201217
 死ばかり見つめていて希望って言葉を忘れていた。もともと意味もわからず使っていた言葉だ。もしかしたら「底」から見えてくる希望があるのかなあと思って手に取った。
 仏教は苦しみをやわらげようと、希望など持たなくてもよいと説く。キリスト教は、生きることが困難だからこそ、希望と密接に結びついた信仰と愛を説くことで、人々に生きる糧を与えようとする。人間が困難のなかで生きざるを得ないという認識は仏教とキリスト教で共通している。困難な社会を生き抜くために、どうしても求めてしまうものが希望なのだ。

 希望は「気持ち」「何か」「実現」「行動」の四本柱で成り立ち、希望が見つからないとき、どれが欠けているのか探せばよいという。
 Hope is a Wish for Something to Come True by Action
 状況の変化を待つだけでなく、行動をともなう希望こそ、社会とつながった希望になる。さらに個人の希望に「だれと一緒にやるかwith others」という要素を加えることによって「社会の希望」になる。その例として、釜石と水俣のまちづくりを紹介している。

 いつも会うわけではないけれど、ゆるやかな信頼でつながった仲間「ウィーク・タイズ」をもっている人は、実現見通しのある希望を持てることが多い。同窓会などに面倒くさがらずに参加することを勧める。

 もうひとつ重要なのが「物語」だ。
 「見えていないようで見えている」「見えているようで見えていない」。どっちつかずの想像力をかき立てる状況を安易に切り捨てないことが、希望という物語を自分の手でつむぐ知恵だという。
 死と希望の関係も、クリアカットな理解を求めるのではなく、問いを問いのまま育む必要があるのかもしれない。「大きな壁にぶつかったら、壁の前でちゃんとうろうろする」ことが大切だという。
  挫折など、自分なりの物語があるとき、その物語を手がかりに未来をどう生きるかのヒントを得ることができる。自分なりの物語をもたない人は、未来を想像するきっかけすらつかめない。
 すべての経験は生きる糧になるのだ。

▽20 仏教のお経には「希望」という言葉は出てこない。己自身や欲望を捨てることの大切さを説く。希望も、もつことより捨てることの方が大事。希望など持たずに生活できるならば、それに越したことはない、というのが仏教の理想。
▽21 キリスト教は希望を持つことの大切さが述べられる。
▽25 仏教は苦しみやつらさをやわらげようとして、希望など持たなくてもいいんだよ、説く。キリスト教は、生きること自体が困難の連続であることを認めているから、苦しみから逃れるべく、希望と密接に結びついた信仰と愛を説くことで、あらゆる人々に生きる糧を与えようとしている。
▽29 水俣=希望という言葉とつながりをもつ言葉。実現困難だからこそ、未来に挑む原動力賭して、人は希望をあえて意識的にもとうとするもの。
 水俣の困難に挑んできた希望は、時を経て地域の再生の光へとつながっていく。「もやい直し」 市民主体の「行政参加」によるまちづくり。「語り部」「地元学」…今や日本を代表する環境先進地域。
▽41 Hope is a Wish for Something to Come True by Action 状況が変わるのを待つだけでなく、みずから帰るべく行動をともなう希望こそ、社会といっそうつながった希望。
▽84 実現見通しのある希望を持っている人の特徴として、職場を離れた友人・知人が多い。「ウィーク・タイズWeak Ties」。
▽100 人は自分の希望を真剣に語ろうとするときに、なぜか物語という言葉に向かいあわずにはいられない。「企業誘致に大事なのはメリットだけではない。その会社が釜石に来たときに、一体どんなことがはじまるだろうという物語が、企業と地元のあいだでピタッと重なったとき、誘致はうまくいくんです」。
▽112 過去の挫折経験を語れる人ほど、未来のなかの希望を語ることができるようだ。
▽115「僕は講義でも講演でも、今日はアレと、コレと、コレを、つまりは3つくらいしゃべろうかなと思っていくだけです」
▽121 かつて希望の星だった釜石波、ピーク時9万人の人口が2010年には4万人弱。ところが2000年代から新しい希望が芽生え、製造業出荷額は過去のピークをしのぐ勢い。「物づくり」という原点を大切に守りながら、新たな製品化にチャレンジしています。
▽148 「見えていないようで見えている」「見えているようで見えていない」。想像力をかき立てる、どっちつかずの両義的な状況。それが、豊かさや人間関係と異なる、もう一つの希望の源泉なのです。
▽153 わからないもの、どっちつかずのものを、理解不能として安易に切り捨てたりしない。自分が理解できることだけに、こだわりすぎたりしない。それが希望という物語を、自分の手でつむいでいくための知恵なのです。
▽158 私の故郷は松江市。
▽161 勉強っていうのは、わからないということになれる練習をしているんだ。…「わからない」ということで簡単にあきらめないこと、逃げ出さないこと。「わからない」から不安だとか、つまらないと思わない。むしろ「わからない」からおもしろいと思えるかどうかです。
▽178 …希望の共有をはじめるのも、まずは5人ぐらいの関係からはじめるのがよいのかもしれません。…希望の再生に挑むには…お互いが納得いくまで対話を重ねることの大切さ。
▽183 釜石の場合、試行錯誤の末にたどり着いたのが、「ものづくり」という地域の原点であるローカル・アイデンティティ。
希望とは変化に必要なもの。それに対して、ローカル・アイデンティティはむしろ守り維持しようとするもの。不思議なのは、自分たちの守るべきものがはっきりしてはじめて、新しいことにも挑戦する気持ちや行動が生まれることです。
▽200 「大きなか部にぶつかったときに、大切なことはただひとつ。ちゃんとうろうろしていれば、だいたい大丈夫」
▽207 結局、希望には遊びが一番大事だと思うんです。

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