-
疾風の人 ある草奔伝 <松下竜一>
■疾風の人 ある草奔伝 <松下竜一> 朝日新聞社 20100410 大分・中津の福沢諭吉の家のすぐ近所に、福沢の洋学に反発して福沢暗殺をはかった尊皇攘夷派の福沢の又従弟がいた。増田宗太郎。 薩長による新政権は、尊皇攘夷から一転、文明開化をは... -
米原万里を語る <井上ユリ、小森陽一、井上ひさし、吉岡忍、金平茂紀>
■米原万里を語る <井上ユリ、小森陽一、井上ひさし、吉岡忍、金平茂紀> かもがわ出版 20100412 妹の井上ユリは井上ひさしの奥さんで、小森陽一はチェコのソビエト学校以来の弟分で、吉岡忍は兄貴分で、金平茂紀は弟分。義理も他人も含めた兄弟... -
無所属の時間で生きる<城山三郎>
■無所属の時間で生きる<城山三郎>新潮文庫 20100411 そろそろ無所属の時間を考えなければいけない。定年になる前に「無所属」になりたい。できたら1,2年うちに。そう思いながら現実的に考えると不安も大きい。所属がないことに不安を覚えるよ... -
オリガ・モリソヴナの反語法 <米原万里>
■オリガ・モリソヴナの反語法 <米原万里>集英社文庫 201003 1960年代、チェコの首都プラハにあった、外国人の子弟が通うソヴィエト学校が舞台だ。ダンス教師オリガ・モリソヴナは、大げさな褒め言葉で生徒を罵倒する。50歳代というふれこ... -
青年は荒野をめざす <五木寛之>
■青年は荒野をめざす <五木寛之> 文春文庫 20100407 主人公のジュンはジャズのトランペット奏者を目指す20歳。技術はあるのに「なにかが足りない」と言われる。人生経験が少ないからではないかと考えて、バイカル号に乗って旅立つ。 船上で... -
魂の点火者 奥出雲の加藤歓一郎先生 <福原宣明>
■魂の点火者 奥出雲の加藤歓一郎先生 <福原宣明> 加藤歓一郎は島根県東部の山村出身だ。当時の出雲は、全国でも小作料が高く、貧富の差がきわめて激しい地方だった。加藤も家庭環境には恵まれずに育ち、松江市の師範学校に進学する。札付きの悪だ... -
魔女の1ダース-正義と常識に冷や水を浴びせる13章 <米原万里>
■魔女の1ダース-正義と常識に冷や水を浴びせる13章 <米原万里> 愛を説くキリスト教が魔女裁判などで10万人を殺戮した。ナチスにとっての「ユダヤ人」、大日本帝国にとっての「非国民」、ソ連の「トロツキスト」、中国の「反革命分子」、... -
嘘つきアーニャの真っ赤な真実<米原万里>
嘘つきアーニャの真っ赤な真実<米原万里> 角川文庫 20100302 1960年ごろのチェコのソビエト学校に通っていたときに出会った3人の女の子とのエピソードと、30余年をへて再会する話を描く。 ギリシャ人のリッツァは共産主義者の父ととも... -
土と人間への手紙 <稲葉峯雄>
■土と人間への手紙 <稲葉峯雄> 家の光協会 201001 冒頭の「おっかあよ今もんたぞ」という詩は、想い出のなかにある「おっかあ」の姿を細やかに、愛情と哀しさを込めて描く。この本に載っている農協生活指導員への100通の手紙は、愛媛の... -
農村の幸せ、都会の幸せ <徳野貞雄>
■農村の幸せ、都会の幸せ <徳野貞雄> NHK出版 20100213 おもしろい。筆者は熊本大の教授で「道の駅」の名付け親でもある。過疎と高齢化に悩む農村だが、実は潜在的な力があり、住民みずからが地域の歴史や文化を再評価し、都会に出た息子た... -
スプートニクの恋人<村上春樹>
スプートニクの恋人<村上春樹>講談社文庫 20100215 主人公のすみれは小説家志望の22歳の女性だ。「僕」はすみれを愛し、性欲を抱いているが、すみれは「僕」(小学校教師)を性の対象としては見ない。すみれは17歳年上の女性ミュウを愛し、性... -
日本辺境論<内田樹>
日本辺境論<内田樹>新潮新書 20100107 江戸時代までは中国を中心とした世界の「辺境」だった。明治以降は欧米中心の世界の「辺境」である。そうした辺境人としての地位が、日本人を一定の枠にはめているとみる。 辺境人は、中心に対して... -
出雲神話の誕生 <鳥越憲三郎>
講談社学術文庫 2010/01/20 大和の中央集権の物語をつくるために古事記の3分の1を出雲神話が占めることになったが、古墳の規模の小ささを見ても、吉備にもはるかに及ばぬ弱小国にすぎなかった--という立場に立っている。後に荒神谷遺跡が発見され... -
オーウェル評論集2 水晶の精神<ジョージ・オーウェル、川端康雄訳>
■オーウェル評論集2 水晶の精神<ジョージ・オーウェル、川端康雄訳> 平凡社ライブラリー 200912 どの論考も新鮮で、古さを感じさせない。現代の日本にあてはまる個所がいくつもある。テーマを5つほどにしぼって感想を記したい。 □言葉 あらゆる... -
国境の南、太陽の西<村上春樹>
講談社文庫 20091231 村上の著作で最初に読んだのは「羊をめぐる……」だった。夢中になって時間をたつにも忘れた。「ねじまき鳥」もおもしろかったし、「ノルウェーの森」もよかった。そのあと、初期の作品を2作読んだら薄っぺらで物足りなく感じた。大江... -
武士道 <新渡戸稲造、矢内原忠雄訳>
岩波文庫 20091217 戦争中、この本が軍人たちの心の支えになったと聞いた。右翼的な本だと思って読んでいなかったが、よくよく見たら著者はキリスト者として有名な新渡戸稲造だ。新渡戸は平和主義であるクエーカー教徒だ。右翼思想とは正反対に位置す... -
闘うレヴィ=ストロース<渡辺公三>
平凡社新書 20091230 レヴィ=ストロースは2009年に100歳で死んだ。 構造主義というのは、歴史やら進歩やらを否定し、時代によってさまざまな変化があったとしてもその社会を規定する「構造」は変わらない、という、いわば宿命論に近いと思っ... -
農協の大罪 「農政トライアングル」が招く日本の食糧不安 <山下一仁>
宝島新書 20091201 戦前、農水官僚は小作人を応援し、議員らは地主とつながっていた。 戦後、小作人を基盤にした農民組合を無力化し農村を保守地盤にするために農地改革が実施され、全員が「地主」になり、保守の金城湯池となった。 農地改革によっ... -
オーウェル評論集1 象を撃つ <ジョージ・オーウェル>
平凡社ライブラリー 20091129 絞首刑のあと、死体の近くで酒を飲み笑いころげる。ロバの死骸が路傍で犬に食われるのを見て腹をたてるのに、薪を背負って運ぶ老婆の存在は意識しない。白人である筆者を尊敬する黒人兵を見て「あといつまでこの人たちを欺... -
若き友人たちへ 筑紫哲也ラスト・メッセージ
<筑紫哲也> 集英社新書 20091127 朝日ジャーナルのころ、すっかりナンパ雑誌になったと思った。ニュース23がはじまったときも、久米宏に比べてパンチがないなあと思った。でもしばらくすると、23のほうがおもしろくなってきた。派手さはないけ... -
福沢諭吉伝説 <佐高信>
角川学芸出版 20091125 民の立場から官に立ち向かう 「平熱の思想家」という位置づけがさすが、と思う。封建制度を人一倍憎み、熱狂的な時代に一人冷静で、〓〓より金儲けのほうがよっぽどよい、と説く。一見「拝金」主義にみえるが、そうではなく、おか... -
健全な肉体に狂気は宿る 生きづらさの正体<内田樹 春日武彦>
角川 20091120 人間は困難な状況に直面したとき、自分の世界を狭めるもの--という指摘はドキリとさせられた。しんどくなって人間関係を狭めてしまうのは病んでいる証拠なのだ。 健全な人は、自分の世界が広がっていく人であるという。でも、しん... -
世界がわかる宗教社会学入門〈橋爪大三郎〉
ちくま文庫 20091116 世界はつくられたのだから、始まりと終わりがある。それをつくった知性は世界の外側にある。その偉大な知性を神と呼ぶというのが一神教。この世界には始まりも終わりもない。世界も人間も変化しているようで変化していない。究極の... -
道路をどうするか <五十嵐敬喜 小川明雄>
岩波新書 1091101 ▽15 1952年の新道路法は、田中角栄議員らが提出した。これによって道路建設の補助金制度を設けた。これが新たな中央集権の出発点。補助金ほしさに上京をくり返す年中行事はここからはじまった。 ▽20 1953年提出の道路整備費の財... -
日本 根拠地からの問い<カンサンジュン、中島岳志>
毎日新聞社 1091031 神風連の乱や西南戦争は、不平士族の反乱と言われるが、「国家」による支配に対するパトリの反乱という側面があるという。この反乱で失敗したことで、武力闘争の道は閉ざされ、自由民権運動が生まれる。 さらに一見、左翼的運動に... -
なぜ日本は行き詰まったか <森嶋通夫>
日本では儒教が、忠君愛国を正当化し国内統一を果たす役割を果たした。武士階級を大学卒業生という知識階級に発展的に解消させたことが、封建主義を資本主義に転換させることにつながった。政治家も官僚も国営企業の首脳も国会議員も学者も……武士出身で... -
コミュニティを問いなおす--つながり・都市・日本社会の未来 <広井良典>
ちくま新書 1091017 (1)人類史的な次元 (2)ポスト資本主義の次元 (3)日本社会固有の次元 という3つの次元から「コミュニティ」を論じる。 ものごとを細かな要素に切り分けて個別に分析する「近代科学」は地動説をはじめとして「常識... -
離島発 生き残るための10の戦略 <山内道雄>
NHK出版 生活人新書 1091004 三位一体の改革で交付金が減らされ、基金が取り崩され、いつ破綻してもおかしくない状況に追い込まれた市町村に、「平成の合併」がおそった。合併しても改善は望めない、かといってこのままでは破綻してしまう。じり... -
不逞老人 <鶴見俊輔 黒川創>
河出書房新社 20090922 ゴーフル好きのかわいいおじいちゃん。みずからを「不良少年」と称し、父への反発と母へのコンプレクスをおもしろおかしく語る。「父だから母だから、兄弟だからという理由で話が伝わるわけではない。むしろ、父母兄弟だからこ... -
逆臣・青木幹雄<松田賢弥>
講談社 20090923 恩人の竹下が亡くなるとその事務所をのっとり、秘書全員を首にして、忠実な秘書だけをふるいわけようとした。小渕が倒れ、言葉も交わせない状態なのに、首相臨時代理の任の指示を受けたと偽って森を首相にかついだ。郵政民営化...