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国境の南、太陽の西<村上春樹>

講談社文庫 20091231
村上の著作で最初に読んだのは「羊をめぐる……」だった。夢中になって時間をたつにも忘れた。「ねじまき鳥」もおもしろかったし、「ノルウェーの森」もよかった。そのあと、初期の作品を2作読んだら薄っぺらで物足りなく感じた。大江のような重厚さもないし、「羊」や「ねじまき」のようなわくわく感もなかった。
「国境の南」は「ノルウェー」と似ている。恋の描写の切なさも、随所に垣間見える死の影も。「死」がちらちら見えて、はじめから悲劇を予感させるせいなのかとにかく切ない物語だ。
12歳の「僕」が転校生の女の子島本さんと仲良くなり、家に遊びにいくようになる。手をふれる一瞬のドキドキ感や、心臓がとまるような感覚、手を離してしまったときの失望と、特別のなにかにふれたようで手洗いもしたくないと思う気持……。読んでいると、ずっと昔のそんな感覚を思い出して、胸がしめつけられる。
「僕」は大学をでて、30歳ぐらいで企業家の娘と結婚し、バーを2軒経営する幸せな人生を送るようになる。そんなとき、27年ぶりに島本さんが客として現れる。初恋の人に久しぶりに出会う胸の高鳴りや、切なさや、心の動揺も、まるで自分が体験しているかのように思えてしまう。
島本さんは高級な服を着ているが、働いたことはないという。今何をしているかは一切言わない。物語の最後まで言わない。
当然、ハッピーエンドではない。最後まで心臓を締め付けられるような切なさのなかで幕を閉じる。

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