■青年は荒野をめざす <五木寛之> 文春文庫 20100407
主人公のジュンはジャズのトランペット奏者を目指す20歳。技術はあるのに「なにかが足りない」と言われる。人生経験が少ないからではないかと考えて、バイカル号に乗って旅立つ。
船上で同年代の麻紀や、有名なジャズのサックス奏者と出会う。モスクワへのアエロフロート機のスチュワーデスに声をかけ、モスクワでセックスをして、フィンランドからスウェーデンへ。さまざまな女と出会い、フリーセックスのパーティに驚き、当時ジャズミュージシャンがたむろっていたというコペンハーゲンを経て、パリではジャズバーで働く。
まさに70年代にはやったヒッピーの物語だ。ドラマチックな出会いが多すぎるとは思うが、でもたしかに似たような経験はした。日々の安定を捨てて旅立つとき不安、最初の1歩の緊張、言いしれぬ孤独感。真っ暗闇のなかをはしる船の甲板では、自然の大きさと人間のちっぽけさを実感して怖くなる。
……そんなヒッピー旅行者の気持ちをしっかり描いている。たぶん筆者自身も似たような旅をしていたのだろう。
旅行記としては小田実の「なんでも見てやろう」や沢木の「深夜特急」のほうがおもしろいが、独特のほろ苦さが懐かしい。待てよ。「懐かしい」という読み方はすでに青春を過ぎてしまった人間の感想なのかもしれない。悲しいことだが。
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