01思想・人権・人間論– category –
-
狼少年のパラドクス ウチダ式教育再生論 <内田樹>
朝日新聞社 20080809 明治以来、日本の教育は管理しやすい「小粒の人間」をそろえ、「みんなとおなじ」という均質化することを目標にしてきた。それがみごとにうまくいき、うまくいきすぎたことが、最近の教育問題だという。 「小さい粒」は管理しやすい... -
信州に上医あり 若月俊一と佐久病院 <南木佳士>
岩波新書 20080618 徹底して農村にこだわり、地域にこだわり、農村医学という言葉をうみだした。農民の必要を満たすため、一斉健診を組織し、専門医療も手がけ、研究機関も設立し、佐久病院を長野県随一の総合病院にそだてた。 ふつうに良心的な「赤ひげ... -
久妙寺に生きて <永井民枝>
20080609 古くから伝わる行事や言い伝えは、ムラで生きていくための知恵にあふれている。たとえば、川を神聖なものと考えて、小便をしたり汚いものを流すのは昔はタブーだった。今はそういうタブーがなくなり、ゴミだらけになった。田植えがはじまって「お... -
竹内好 <鶴見俊輔>
筑摩書房 20080528 魯迅を日本に紹介したことで知られる中国文学者の半生を、鶴見独特の転向論の切り口でえがいている。同じ切り口でえがいた柳宗悦の評伝のほうがわかりやすいが、こちらもおもしろかった。 竹内はニヒルで口下手だった。消極的な理由か... -
アメノウズメ伝 <鶴見俊輔>
平凡社 20080504 天照大神が洞窟にこもっているのを、半裸でおどって神々の笑いをい、天の岩戸を開けさせた、という女神がアメノウズメだ。神話の女神についての論考かと思ったらさにあらず。歴史上各年代の現代にいたるまでの「アメノウズメ」をとりあげ... -
物は言いよう <斎藤美奈子>
平凡社 20080525 政治家の妄言、曽野綾子らのはちゃめちゃ意見はもちろん、良識派とされる大江健三郎まで、それらの発言の数々を「フェミコード」という切り口で、なにが問題なのかを切る。 「性別役割分業をみとめないのか」「フェミは全体主義だ」とい... -
柳宗悦<鶴見俊輔>
鶴見俊輔集続4 柳宗悦・竹内好 筑摩書房 20080511 生活でつかわれる食器などを「民芸」として再評価した、ありがたいけど敷居が高そうな人、という柳宗悦のイメージをくつがえされる。 名をなした晩年の柳宗悦の位置から過去をふりかえって(回想して... -
健全な肉体に狂気は宿る<内田樹、春日武彦>
角川oneテーマ21 20080419 「自分」がまずあって、それが世界を切り開く、という「自我」の立場にはたたない。 他者との関係、つながりのなかで「自分」をとらえる。まさに構造主義の考え方なのだろう。 「キャリア形成」とか「自己実現」というのは、「... -
戦時期日本の精神史1931-1945年 <鶴見俊輔>
岩波現代文庫 20080428 カナダの大学での講義録であり、著者の長年の研究成果をわかりやすくまとめている。 「転向」を悪い意味だけではなく、積極面もとらえる。獄中でたたかいつづけた人だけでなく、妥協をくりかえしながら生き抜いた柔軟さを積極的に... -
反哲学史 <木田元>
講談社学術文庫 1080329 プラトンのイデア論とかなんとか、説明されれば意味はわかるけど、なぜそんなまわりくどい思考をするのかわからなかった。当時の社会状況をふまえて、なぜそんな思想が出現するのかをわかりやすく説明してくれる。 「ソフィーの世... -
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方 <カンポン・トーンブンヌム 上田紀行監修>
佼成出版 20080224 前途有望な青年教師が事故で全身不随となる。絶望のなかで仏教をまなぶうちに「気づきの瞑想」の師にであう。 体と心を観察しなさい。思考を「観なさい」という。苦しいこと腹立たしいことがあったら、そういう思考そのものを観察しな... -
期待と回想 <鶴見俊輔>
朝日文庫 20080321 .□転向論 父は大正時代の自由主義者で、軍の横暴に批判的で、張作霖爆殺には反対していた。だが、満州事変のころから変節し国策を支持するようになる。捕虜を死刑にせよ、という。一高英法科の首席だった人が大政翼賛になってしまった... -
「あたりまえ」を疑う社会学 <好井裕明>
光文社新書 20080105 社会学といえば、かつては理論的枠組みとかなんとか敷居が高いイメージがあった。最近は逆に統計調査のような無味乾燥なものが主流をしめている。どちらも好きになれない。「定型」にきりとられた新聞やテレビの「ニュース」にたい... -
疲れすぎて眠れぬ夜のために <内田樹>
角川文庫 20071222 男らしさ、女らしさ、商人らしさ、農民らしさ……。そういった「らしさ」は多様性をもたらすことになり、人類が存続するための生存戦略上有効だったという。 礼儀正しくしたり、冠婚葬祭で礼装をまとうのは、いらぬ摩擦を生まぬためのひ... -
死生観を問いなおす <広井良典>
20071202 ちくま新書 時間は絶対的ではない。時間というのは宇宙のはじまりと同時に生まれたのであって、「宇宙のはじまる前」には時間というものがなく、宇宙が消え去れば時間というものはなくなる。 という科学的知見は、長らくヨーロッパ理性の中心を... -
もう少し知りたい人のための「ソフィーの世界」哲学ガイド <須田朗>
NHK出版 20071107 あなたはだれ? 世界はどこからきた? という質問から入る「ソフィーの世界」。世界は何からできているか、と問いつづけたエジプトの科学者からはじまり、ギリシャのソクラテスにいたってようやく「哲学」が誕生する。 ソフィ... -
中流の復興 <小田実>
NHK出版生活人新書 200710 行動と哲学的思索とをむすびつけて生き抜いた人であることが、この本を読んでもよくわかる。 デモをせよ。体で表現せよと説く。住民投票の議論がでてくると議員連中はよく「議会制民主主義を軽視するのか」と批判する。おいお... -
私家版ユダヤ文化論 <内田樹>
文春新書 200710 「ユダヤ人」の定義さえあやふやだ。ユダヤ人というのは結局「○○ではない」「○○ではない」という消去法によって定義するしかない。 西欧の始祖であり、キリスト教の起源である。でも、だからこそ、恨まれつづける、という。 サルトル... -
権力に迎合する学者たち <早川和男>
20070922 研究テーマは本質的であるか 時代の課題に応えているか 研究は主体的か 研究の方法は科学的・論理的であるか 時代をリードする先頭に立っているか 研究体制は十分か 研究者のよってたつべきこうした原則に、研究者の世界でもマスコミの世界同様... -
マックス・ウェーバーと近代 <姜尚中>
20070920 姜尚中だから買ったけど、やけに難しい。でもところどころなるほどと思うところもあった。 宗教が、呪術的な宗教から倫理的な宗教へと脱魔術化する。ユダヤ教はそうした役割をはたした。さらに、倫理的な宗教がプロテスタントにすすむと、脱組... -
現代思想のパフォーマンス <難波江和英 内田樹>
松柏社 200708 現代思想の概説書ではなく、現代思想をツールとして使いこなす技法を実演する……という「まえがき」にみせられた。 とりあげている思想家もソシュール、バルト、フーコー、ラカン、サイードといった、理解したいけど難解な人ばかり。内田... -
滝山コミューン1974 <原武史>
講談社 20070827 新宿駅を発着した客車の鈍行列車の独特の魅力、「この電車は冷房車です」というステッカー、休日にはデパート屋上の遊具が一番の楽しみで、遠足やサイクリングはなによりの冒険だった。全共闘が投石し、ストがあれば電車やバスがとまっ... -
ためらいの倫理学 <内田樹>
角川文庫 20070819 知性とは、自分の知っていることをどれくらい疑っているか、自分が見たものをどれくらい信じていないか、自分の善意にまぎれこんでいる欲望をどれくらい意識化できるかを基準に判断する力だという。 言われてみればそりゃそうだ、と... -
レヴィナスと愛の現象学 <内田樹>
せりか書房 20070606 レヴィナスの本はこれまでほとんど理解できなかった。「入門」という題の新書も理解できなかった。この本も難しい。でもさすが内田樹氏だけあって、ところどころわかるし、なんとなくこんなことを言ってるんだな、という輪郭は見え... -
悪あがきのすすめ <辛淑玉>
岩波新書 20070823 型どおりでない「悪あがき」の実例を紹介する。 四国の教科書問題をやってるおじさんたちの取り組みを「悪あがき」と評価する視点は新鮮だった。 なんといっても彼女のけんかのしかたは痛快だ。たとえば右翼から「朝鮮人は朝鮮に帰れ... -
丸山真男の時代 大学・知識人・ジャーナリズム <竹内洋>
中公新書 20070818 60年安保は戦後最大ともいえる運動だった。今では考えられないほど野党が強く、革命前夜的な雰囲気だった……と思っていたが、実際の支持率などをみると、わずか数カ月後には自民党が盤石の支持をとりもどしていた。今よりよっぽど自... -
丸山真男 日本近代における公と私 <間宮陽介>
ちくま学芸文庫 20070811 言葉づかいはけっこう難しいし、とくに前半の朱子学の部分は難解だったが、丸山が終生もとめつづけたものがなんとなく見えてきた。 単なる(状態としての)自由ではない。単なる(型式的な)民主主義でもない。自由と民主主義... -
終わりよければすべてよし <森嶋通夫>
朝日新聞 20070714 「単科ディシプリン」という言葉が何回もでてくる。専門家として1つの分野をきわめなければならない、という意味だ。彼にとってそれは数理経済学だった。その立場から、丸山真男や鶴見俊輔らを「ディレッタント」(好事家・素人)と... -
智にはたらけば角が立つ <森嶋通夫>
朝日新聞社 1070707 プリンシプルに従って行動する人とそうでない人がいる。積極的な悪人や有徳の士は前者に属し、その他多くの「普通は善人だが、気が弱いためにいざという時に道徳的に腰抜けになってしまう人」は後者に属する。筆者は後者を「消極的... -
血にコクリコの花咲けば <森嶋通夫>
朝日文庫 20070630 福祉社会学の研究会で「福祉社会を考えるならこれは必読書ですよ」勧められた。 名前はきいたことがあった。イギリスで活躍した経済学者であることは知っていた。 でもこんなにおもしろいとは。 戦時中、学徒動員で海軍にはいり、敗...