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物は言いよう <斎藤美奈子>

平凡社 20080525

政治家の妄言、曽野綾子らのはちゃめちゃ意見はもちろん、良識派とされる大江健三郎まで、それらの発言の数々を「フェミコード」という切り口で、なにが問題なのかを切る。
「性別役割分業をみとめないのか」「フェミは全体主義だ」という保守論壇のよくある意見にたいしては、ジェンダーフリーとジェンダーレスを混同していると指摘し、「12色いりの絵の具(個性)を赤系統と青系統という(男と女)の2種類に無理矢理分類しようとする力が働いている。ジェンダーフリー教育は男女の差異をなくせといっているのではなく、赤と青の2色に分類する前に個人差を尊重しろと要求しているだけ」と、子供にも理解できるようなわかりやすさで解説する。
一方、返す刀で型どおりの「フェミ学者」のあり方も批判する。
ジェンダー論はこの10年で飛躍的に進歩したが、フェミニズムは業界や党派と化して市民感覚を置き去りにしてきた。また、「ジェンダーバイアス」とかなんとか、カタカナ専門用語が多すぎる。「ジェンダーフリー教育」をいったん白紙にもどして、「男女平等教育」をきちんとやれ、という主張は説得力がある。
------覚え書き-------
▽26 太田誠一 集団レイプする人はまだ元気があるからいい。正常に近い
▽39 石原「ババァ」発言
▽63 新しい歴史教科書 晶子自身は歌人として活動を続けながら、大家族の主婦として、妻や母としてのつとめを果たし続けた。
「晶子は戦争そのものに反対したというより、弟が製菓業をいとなむ自分の実家の跡取りであることから、その身を案じていたのだった。それだけ晶子は家の存続を重く心に留めていた女性であった」 晶子は家族制度を尊重する者だった。婦人運動を支持したが本心はちがっていた、ということらしい。
与謝野晶子は、平塚らいてうさえも蹴散らす過激な女権論者であって「女は全員働け」「夫の財力をあてにする女は結婚も出産もするな」とまでブチ上げたコワモテおばさまなのに……
▽106 女性の言葉遣いが厳しく叱責されるのに、男性の言葉遣いに言及されることが少ないのはなぜか。威圧的せりふは、たいてい強者から弱者に向けられる。上司から部下、監督から選手、父から子、夫から妻。
▽111 露出過多の服装を「下着のようだ」「娼婦のようだ」と評するのは自由だが、昔の日本人はホンモノの下着姿(シュミーズ、ステテコ)で外を歩いていたんだぜ。
▽155 アメノウズメの踊りの描写を教科書で。「新しい歴史教科書」にセクハラ嫌疑。……私がロリコンのセクハラ教師だったら、迷わずに女生徒に朗読させる。男子中学生なら同級生の顔を盗み見る。教科書が一般の書籍と異なるのは、生徒の自由意志では拒否できないこと。教室という場で「みんなで読む本」であること。
▽161 曽野綾子 ノックセクハラ事件。キャーと叫ばなかった女が悪いという結論に達する。「もしそれ(叫んで助けを呼ぶ)をせず、後から裁判を起こしたりするのは、女性の甘えである。裁判というものが、どれほどの時間と金を食うものか、……ということの認識くらいはないと困るのだ」
すごい理屈。
▽177 女性問題で辞職に追いやられるキャスターや検事長。彼らは肩書きに収まる代替可能な人材だった。「個人」で商売をしている人は、愛人騒動くらいでは簡単につぶれない。クリントンも菅直人も。山崎拓も。
▽307 ジェンダーフリー教育 「女らしさ「男らしさ」を全面的に否定する教育。ひな祭りや鯉のぼりを否定的にとらえる……と非難。この手の論調は、「正論」「諸君」などで、03年ごろからめきめき増加してきた。
▽313 フェミ・ナチ陰謀説 「このイデオロギーの偏向集団が今や日本の中枢部を占拠している。……国民の多くが気がつかないうちに、日本がフェミ・ファシズムに占領されているのである」
こんな珍妙な説がまとまってでてきた責任はフェミニズム側にもある。
ジェンダー論はこの10年で飛躍的に進歩したが、フェミニズムは業界や党派と化して市民感覚を置き去りにしてきた。もともとシンパシーを抱いていた人たちもフェミニズムから離れていく。

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