04民俗・食– category –
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緑の牢獄 沖縄西表炭坑に眠る台湾の記憶<黄インイク>
■五月書房新社 20210517 西表島の辺境のムラは2度訪ねた。目の前に浮かぶ内離島に炭坑があったと聞いていた。その炭坑の台湾人労働者の歴史をたどったドキュメンタリーの監督が書いた本だ。 西表島の石炭採掘は1960年代までつづいた。 今は無人島にな... -
よみがえれ大和橘 絶滅の危機から再生へ
■あをによし文庫20210512 みかんの原種とされる橘(タチバナ)の歴史や現状を知りたくて入手した。大ざっぱな知識を得るには役立つが、橘と今のみかんとのつながりについても説明してほしかった。 橘は、沖縄のシークヮーサーとともに日本の固有種で、紀... -
鎮守の森<宮脇昭>
■新潮文庫 20210515 その土地の潜在自然植生の森であれば、阪神大震災や酒田の大火でも焼けず、セイタカアワダチソウのような外来種の侵入を許さず、アメリカシロヒトリなどの害虫にもやられない。 山のてっぺんや急斜面、尾根筋、水源地、海に突き出し... -
イザベラ・バードの「日本奥地紀行」を読む<宮本常一>
■平凡社ライブラリー 20210430 「奥地紀行」は、当時の日本人にとって当たり前だったことが、外国人の目を通して記録されており、現代の我々の欠点や習俗がそのころに根をおろし、今も無意識に支配していることを示していると宮本は言う。 バードがさり... -
古寺巡礼<和辻哲郎>
■岩波文庫20210413 学生時代に読んだときは何がおもしろいかわからなかった。和辻が日本の美を発見し、「風土」の哲学の基盤になった本だと何かで読んで30年ぶりに再読した。 読みはじめは退屈だったが、彼の感動と大げさな表現を通じて、だんだん引き... -
新復興論<小松理虔>
■ゲンロン叢書20210320 いわきという地域での震災後の実践活動から哲学を深めた筆者の力量に舌を巻いた。 いわき市の小名浜に住む筆者は、東電や国はもちろん、福島県産品を危険物扱いする反原発派の言論に怒りを覚えてきた。 原発事故によって福島は左... -
平賀源内「非常の人」の生涯<新戸雅章>
■平凡社新書20210317 香川県の志度で平賀源内の旧宅を訪ねた。レオナルド・ダ・ビンチのようなマルチタレントな天才というイメージしかなかったが、最後は獄死していると知り、その生涯を知りたくなった。 源内はもとは本草学者(博物学者)だが、故障し... -
空海<高村薫>
■新潮社 20210201 綿密な取材と想像力で、空海が生きていた時代の風景と空海の人間くささを再現する。 たとえば奥の院のあたりは川の流れる湿地だったが、開創200年後に伽藍焼失に備えて材木を供給するためヒノキが植林された。 空海は「思い込んだら... -
死者を弔うと言うこと 世界の各地に葬送のかたちを訪ねる<サラ・マレー>
■草思社文庫 20210117 イギリスの女性ジャーナリストが、父の死をきっかけに世界の「弔い」の場を巡り歩く。 父は無神論者で「人間なんかしょせん有機物だ」と言っていたが、死ぬ直前、親友が眠る場所に骨をまいてほしい、と伝えた。「単なる有機物」で... -
苦海・浄土・日本 石牟礼道子 もだえ神の精神<田中優子>
■集英社新書 20201118 石牟礼道子の「苦界浄土」は水俣病がテーマなのにある種の豊かさがあふれていた。自然とのつながり。アニミズム的な世界。文学の想像力……学生時代に読んだとき、その理由はわかるようでわからなかった。 この本は、江戸文化の研... -
奇跡の四国遍路<黛まどか>
■中公新書ラクレ 20200925 筆者は過去に、サンティアゴ巡礼や熊野古道などを歩いた。仕事と家事、看病による過労で体調を崩して、現実から逃れるように2017年に遍路に出た。 阪神大震災で妻と娘を亡くした男性は「悲しみは癒えることはない…夜がつらい... -
本とみかんと子育てと<柳原一徳>
■みずのわ出版 20210203 瀬戸内の周防大島でみかん農家を営みながらひとりで出版社を営む友人の久々の著書。 671ページという辞書のような厚みに圧倒されて、なかなか手に取れなかったが、ここ数日で一気に目を通した。 2017年から3年間の日記を中心に... -
山の宗教 修験道案内<五来重>
■山の宗教 修験道案内<五来重>角川ソフィア文庫 20201019 麓の民が山々を自分たちの先祖の霊の行く山「神奈備」として拝んでいた。死者の霊は山へ行き、霊をまつる宗教者として狩人がいた。それが修験道の山の開創者になった。 大峰・熊野の山伏が... -
仏教と民俗 仏教民俗学入門<五来重>
■仏教と民俗 仏教民俗学入門<五来重>角川ソフィア文庫 20201006 お盆やお彼岸、葬式や年忌、位牌といった習俗は仏教だと思われているが、実は本来の仏教ではなく、仏教伝来以前の日本古来の在来宗教の名残だという。 日本の在来宗教は先祖の霊に対す... -
路上の映像論 うた・近代・辺境<西世賢寿>
■路上の映像論 うた・近代・辺境<西世賢寿>現代書館 筆者はNHKの元ディレクター。近現代の時代のなかで滅びつつある、精神文化のなかに地下水脈のように流れてぉた口承文芸や語り物芸能の世界を「語り物としてのドキュメンタリー」という形にしてきた... -
四国八十八ヶ所感情巡礼<車谷長吉>
■四国八十八ヶ所感情巡礼<車谷長吉>文藝春秋 20200831 はちゃめちゃな人生を歩んだ無頼の作家という印象の車谷が、2010年に奥さんと遍路をしていたとは知らなかった。 日記スタイルの文章は彼らしい。徳島は日本一ごみが多い、東京の女優と結婚した後... -
空海の思想について<梅原猛>
■空海の思想について<梅原猛>講談社学術文庫20200828 空海の宗教は明治以降、呪術的で前近代的なものとされてインテリ層に疎んじられた。親鸞や日連、道元がファンを獲得したのと対照的だった。歴史教科書でも、大師の宗教は貴族仏教・加持祈祷とされ... -
だいたい四国八十八ヶ所<宮田珠己>
■集英社文庫20200821 途中でカヌーの川下りやシュノーケリングをしたり、しまなみ海道を自転車で走ったり……かなり軽いおアウトドア系遍路本だと思って手に取った。 読経はするけど線香やロウソクは省略する、というのは私と同じ。杖も白衣も身につけな... -
歩く江戸の旅人たち<谷釜尋徳>
◾️晃洋書房20200705 お遍路の記録をまとめる上で参考にできないかと思って手にとった。 江戸時代、お蔭参りがはやったとき、庶民の6人に1人が伊勢を参った。当時の旅は伊勢神宮を参るだけではない。西国33ヵ所をまわったり、四国の金比... -
死の民俗学 日本人の死生観と葬送儀礼<山折哲雄>
■岩波現代文庫20200627Ⅰ 死と民俗 遺骨崇拝の源流 インドは火葬するが骨は川に流す。アメリカ人は遺体をきれいに整えて本土に送るなど、肉体的側面を重視する。エジプトのミイラ文化につながる。それに対して日本は、遺骨を尊重する。 だが万葉集を見... -
西国巡礼の寺<五来重>
角川ソフィア文庫 20200619 五来の四国遍路についての本を読んで、西国巡礼も読んでみることにした。「宗教文化」は変化するが信仰の原点は日本でも欧州でも同じであり、信仰のもっとも素朴なかたちとして巡礼が起きる。「世界中どこでも、歩くこと、め... -
四国遍路 八十八ヶ所巡礼の歴史と文化<森正人>
■中公新書 20200426 筆者は1975年生まれの若手の研究者。五来や頼富ほどの深みはないが、最近の動きをとらえ、「伝統」が実は最近つくられたことなどを指摘していて興味深い。 たとえば白装束は戦後のバスツアーで普及した。山門で一例して納札を入れて... -
四国遍路とはなにか<頼富本宏>
■角川選書20200423 古代から現代に至る遍路の変遷がよくわかる。大師堂と本堂を参拝するという作法は実は第二次大戦後にできたというのには驚いた。 修行者だけが歩いた辺地修行の道は四国だけでなく、伊豆大島や能登半島にもあった。海洋信仰が起源だ... -
四国遍路の寺 下<五来重>角川ソフィア文庫 20200413(抜粋)
▽戦国から安土桃山にかけては遍路どころではないが、江戸時代になって盛んに。江戸末になるとふたたび衰えて、明治初めぐらいには88の半分ぐらいは無住だった。▽熊野の信仰は海を通して全国に広がった。熊野信仰が非常に強いのは東北地方や隠岐の島。鎌倉... -
四国遍路の寺 上<五来重>角川ソフィア文庫 20200421
納経所が霊場なのではない。八十八カ所をぐるりとまわる修行だけでなく、それぞれの札所はもとは独立した修行の場だった。その痕跡が残っているのが行場だった奥の院であり、そこををめぐらないと本来の遍路の意味はわからない、という。 お遍路をして... -
日常という名の鏡 ドキュメンタリー映画の界隈<佐藤真>
■日常という名の鏡 ドキュメンタリー映画の界隈<佐藤真>凱風社20191218 新潟水俣病の舞台となった阿賀野川をテーマにした「阿賀に生きる」の監督の本。久しぶりに新潟水俣病を勉強するため読み返した。 佐藤監督は水俣の映画の自主上映運動で新潟・... -
時間についての十二章<内山節>農文協
人々は時間をどうとらえてきたか、ではなく、時間はどのようなものとして存在しているか、を論じる。時間は絶対的な物ではない、と。 子どもの時間はけっして等速ではなかった、という。なるほど。台風後の川の土手で時間を持て余して延々と時間がたた... -
もうレシピ本はいらない<稲垣えみ子>
■マガジンハウス 20190818 昔は美食の限りを尽くしていた元新聞記者が、50歳で会社をやめて1年後に書いた本。冷蔵庫も電子レンジもない。コンロは一口だけ、という集合住宅で、干した野菜と糠漬けを駆使して1食200円で暮らしている。作り置きもせず1... -
寺院消滅 失われる「地方」と「宗教」<鵜飼秀徳>
■日経BP社 20190728 多くの自治体が消滅するという調査結果が出て、話題を呼んだが、寺院はそれよりも早く危機を迎え、全国7万7000の寺院のうち無住寺院は約2万カ寺を数える。 その現状と、寺院再生の取り組みの現場を僧侶の資格を持つ記者が訪ね歩い... -
よみたい万葉集 <村田右富実監修、助手・阪上望、絵文・まつしたゆうり 文・松岡文、森花絵>
西日本出版社 20190622 「万葉集の入門書としては最高」と専門家に勧められた。 難しい解説よりもまず音読して雰囲気を味わい、短歌の作者の「私」に寄り添う。水彩の挿絵も万葉人の心象風景の理解を助けてくれる。短歌はいつも一人称の「私」が詠む...