■あをによし文庫20210512
みかんの原種とされる橘(タチバナ)の歴史や現状を知りたくて入手した。大ざっぱな知識を得るには役立つが、橘と今のみかんとのつながりについても説明してほしかった。
橘は、沖縄のシークヮーサーとともに日本の固有種で、紀伊半島と四国、九州、山口県に自生地がある。環境省の準絶滅危惧種(環境省レッドリスト)に指定されている。
万葉集には橘の香りを詠んだ歌が68首あり、橘をブレスレットや首飾りなどにして身につけるなど、古代の貴族にはその香りが好まれた。
味は苦みがあり、現代人には向かないが、葉や花や枝も香りや薬効があり、すべてを利用できるという。この本の舞台である奈良のほか、大阪府羽曳野市や三重県鳥羽市、沼津市戸田地区でも植樹している。橘を使った食品開発も進んでいる。
田道間守(タヂマモリ)という渡来人の子孫が、垂仁天皇の命令で常世の国におもむき、10年かけて非時香果(ときじくのかくのこのみ)をさがしあて持ち帰ったと伝えられ、彼のもってきた橘を植えたとされる場所は、和歌山の橘本神社や奈良県桜井市の穴師坐兵主神社境内の橘樹神社、明日香村の橘神社など、あちこちにあるという。
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▽奈良でもっとも古い創業1585年という大和郡山市の和菓子屋26代目菊岡洋之。大和郡山市の商工会の城健治、大阪でデザイン会社を経営する橘勝彦。
▽吉武利文氏の「橘」(法政大学出版局)
▽17 垂仁天皇陵(宝来山古墳)。御陵の堀に浮かぶ中島は田道間守の墓だというが、江戸時代中頃の絵図には描かれていない。
▽19 橘は、沖縄で自生していたというシークヮーサーとともに固有種。DNA分析で証明されるという。……万葉集には約68首に橘が読まれている。
▽22 ダヂマモリはお菓子の神様「果祖」として崇められている。豊岡市の中島神社〓や和歌山県海南市の橘本神社にはタヂマモリが祭神として祀られている。
……タヂマモリが常世の国から持ち帰ったという非時香果は、文字どおりに解釈すると「いつまでも香りつづける果実」くらいになろうか。
▽26 タヂマモリを祭神としてまつる神社。桜井市の纏向遺跡の東端、穴師地区に穴師坐兵主神社の境内に橘樹神社賀ある。
……兵主神社がある穴師の里は昔から柑橘類が栽培された。奈良県内で今も柑橘の栽培がつづけられている唯一ともいえる地域。大和橘がはじめて植えられたという伝承も。
近江国の野洲市にも兵主大社という神社がある。
▽28 和歌山一日本各地に徐福伝承が残っている。徐福が紀州の山地で不老不死の仙薬を見つけたのが天台烏薬(てんだんうやく)という。
……ノビレチンは認知症の予防や治療に効能があるという。橘こそはノビレチンの含有量が非常に多い。沖縄に自生するシークワーサーも同様の成分を多く含むという。
▽29 戦前の教育では、田道間守は天皇に忠誠を尽くした人物として登場する。皇国史観に沿った教育のなかに組みこまれていた。当時の文部省は「帰化人の子孫をして、まったく真の日本人になりきって皇国に尽くした偉人」として紹介した。
▽38 沼津市戸田、伊勢湾の答志島。大和橘の自生地。
▽66 橘は、準絶滅危惧種(環境省レッドリスト)に指定されている。
▽73 大和橘を奉納する事業。2014年にはじまり18年現在で、奉納寺社は30数寺社。植樹数100本を超えている。
▽79 戦争前から戦後にかけては、和辻哲郎「古寺巡礼」や亀井勝一郎「大和古寺風物誌」の著書を手に巡るのが静かなブーム。第2期はディスカバージャパンと修学旅行による観光ブーム。昨今の御朱印集めの古寺巡りは第3期か。
▽92 橘の植樹活動は、羽曳野市、三重県鳥羽市でも。橘を素材にした食品などの商品化も進んでいる。沼津市戸田地区でも橘栽培。
▽95 古事記、万葉集、源氏物語、伊勢物語にも登場。万葉集では68首の歌が詠まれている。
▽101 大和橘は甘さに溺れた現代人の舌には確かに苦い。しかし、苦みの効用こそ、現代に必要なのです。
……大和橘の媚びない味と香りは飽食が行き過ぎるほど、りんとさせるものがあり、やがて世界のシェフたちもほってはおかないことでしょう。(オオニシ恭子)
▽115 日本の柑橘類の原種は大和橘とシークヮーサーだけ。大和橘は菓子のもととされる。
▽116 田道間守は持ち帰った橘を飛鳥に植えた。そこには橘寺が建てられた。聖徳太子が生まれた馬小屋の跡で、橘寺では田道間守と聖徳太子をならべて祀っている。
……万葉人は大和橘の上品な香りが好きで、68首もの歌を詠んでいる。非時香菓(ときじくのかくのこのみ)といわれ、永遠に香りつづける大和橘をブレスレットや首飾りなどにして身につけた。
……ひな祭りのひな壇に向かって左にある木。京都御所紫宸殿にある右近の橘、左近の桜を模したもの。500円硬貨の図柄も橘。
……奈良県河合町の廣瀬大社に橘が植えられている。
奈良でいちばん古い菓子店 本家菊屋(大和郡山市) 26代目 菊岡洋之 大和橘を使った高級菓子を企画販売。
▽136 奈良県産業振興総合センター 奈良県は、漢方のメッカ推進プロジェクトを平成24年に立ち上げ、生薬原料の栽培から商品化をめざし、……。プロジェクトの主要植物はヤマトトウキ。もうひとつの漢方関連の素材がヤマトタチバナ。
……日本の柑橘類のなかでも、沖縄のシークワーサーと橘だけが日本原産種であることが遺伝子分析により判明している。……しかし経済栽培がないこと、生産性がきわめて低いことなどから、機能性成分の研究はあまりなされていなかった。
▽155 柑橘の原種で準絶滅危惧種(環境省レッドリスト2017)。古事記・日本書紀に記述がある。非時香菓として菓子の先祖とされる。万葉集・古今集・古今和歌集にはその花の香りが多くの歌に詠まれている。レモン・ユズなどとはちがった、日本らしく奥ゆかしい香り。葉・枝・花・果実・種のすべてが利用可能。
▽和歌山県・三重県・山口県・四国地方・九州地方に自生。奈良県には自生地は知られていないが、廣瀬大社の言い伝えにあるように、2000年以上前から自生していた可能性もある。現在計500本を植樹。果実の収穫は2017年度は600キロほど。
……葉や花も果実とは異なる成分をもち、香りや薬効がある。葉は年間を通して収穫可能。
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