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日本海海戦とメディア <木村勲>
講談社選書メチエ 20060520 日露戦争といえば、日本海海戦の鮮やかな勝利が頭に浮かぶ。 意表をつく「敵前大回頭」「丁字作戦(T字ともUターン作戦とも聞いたことがあるが)」によってバルチック艦隊を撃破し、戦争の帰趨を決めたーー ほとんどの日本人... -
完本美空ひばり <竹中労>
ちくま文庫 20060514 演歌や懐メロは子どものころ聴かされた。だが興味はない。聞きたいとも思わない。 でもよく考えると、古賀メロディーや美空ひばりはなぜあれほど人々の心をとらえたのか。若者から老人まで夢中になったのか。 戦後直後、「日本人はフ... -
憲法力 <大塚英志>
角川 20060507 民俗学者の柳田国男からときおこす。 柳田は第1回普通選挙の結果を見て、旧来の地縁血縁によって投票していることに憤り、「明治大正史世相編」の最後に「われわれは公民として病みかつ貧しいのであった」と記した。 村的な共同体や利権... -
テレビの罠 <香山リカ>
ちくま新書 20060502 2005年秋の総選挙で自民党圧勝したことにショックを受けたのは、野党陣営だけではなかった。自民党に入れた人たちも「勝ちすぎ」と戸惑い、保守派の論客が「ファシズム」危惧する。 なぜそんな事態が起きたのか。だれがそんな... -
過去は死なない メディア・記憶・歴史 <テッサ・モーリス・スズキ>
岩波書店 歴史が100%客観的であるという考え方を著者はまず否定し、歴史には解釈的な側面と同時に情緒的な側面があることを認める。だが「つくる会」的な歴史相対主義に陥るのではなく、過去について真摯であろうとしなければならないと主張する。 過... -
ベトナム戦争の「戦後」 <中野亜里編>
メコン 20060417 「解放戦争」でもなく「侵略者」でもない。とかく善悪で論じられがちなベトナムを、歴史や軍隊や文芸、周辺諸国からの視点といったさまざまな角度から分析し、等身大のベトナム社会を描きだしている。 ベトナム革命勢力は、民族自決権を... -
9条どうでしょう <内田樹ほか>
毎日新聞社 20060408 「9条」というと、護憲と改憲という二分法的な論じ方ばかりだが、こんな論じ方もあるのかあ、と新鮮だった。とくにオダジマンの論は目から鱗だった。 たとえば「愛する者や家族が目の前で殺されているのを座視するのか」という... -
黒田清 記者魂は死なず <有須和也>
河出書房新社 20060406 本田靖春「我、拗ね者として生涯を閉ず」と似た読後感をもった。 ほぼ同じ時代に読売新聞に籍をおき、東京で本田がほされて辞めたとき、まだ黒田は大阪社会部長として大活躍していた。「大阪で黒田と働きたい」と本田に言わしめた... -
借家と持ち家の文学史 <西川祐子>
三省堂 20050124 「江戸川乱歩シリーズ」と吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」を読んだとき、まったくジャンルの異なる作品なのに、どこか似ているなあと思った。太宰治と島崎藤村、あるいは志賀直哉の描く「家」にも同じにおいがした。この本を読ん... -
暗黒日記3 <清沢洌>
ちくま学芸文庫 20050609 昭和20年正月からの記録。冒頭の元旦の日記はなんだか今の時代を言い当てているようだ。 自分の上から爆弾が降ってきてはじめて初めて「戦争」であることを知り、しかしそれでもなお、戦争に懲りないだろうという。その理由... -
暗黒日記2 <清沢洌>
ちくま学芸文庫 20050525 昭和19年の日記。前年はまだ、外地でやっている戦争は「よそごと」という雰囲気で、東京は比較的のんびりしていたが、昭和19年に入ると、戦時体制がいよいよ身近に迫ってくる。 酒場やカフェーは閉鎖される。食糧が不足し... -
職業としてのジャーナリスト2-報道不信の構造
岩波書店 20050505 メディアの締め付けをはかる権力。 田中真紀子の長女の報道問題では、裁判官が出版差し止めの研究会がつくっていることが明らかになった。プライバシー概念は拡大し、アイドルの交際報道、「お宝写真」掲載でも賠償を命じる。放送内容... -
奇跡を起こした村の話 <吉岡忍>
ちくまプリマー新書 20050529 「戦争になだれ込み破滅していった昭和史を少し丁寧に読み解けば、その前段に地方行政の手詰まり、怠慢、無能力があったことがわかるだろう」 冒頭、こんな言葉が出てきて、そうだったんだ、と目の前が開けるような気がして... -
住まなきゃわからない沖縄 <仲村清司>
新潮文庫 200501 本州から沖縄に引っ越した人がつづった、かるーい沖縄文化論。 さらりと読み流すのにはおもしろい。編集者という仕事をやめて沖縄に渡り、いかに最初は食べていくのがタイヘンだったか、といった部分には個人的に興味をもった。へーぇ... -
職業としてのジャーナリスト1-ジャーナリズムの条件
岩波書店 200504 例えば事件の現場や災害現場に行く。気が重い。とくに、被害者や被災者の話を聞くというのは。でも聞かないといけない。 集中豪雨の取材のとき、亡くなった人の祖父らに話を聞いた。オレの話しているところに他社の記者が寄ってくる。お... -
我、拗ね者として生涯を閉ず <本田靖春>
講談社 20050412 93年に透析を始め、5年後に肝臓ガンが発見され、右目失明、結腸ガン手術、右足切断、左足切断……「寿命がつきる時期と連載の終結時を両天秤にかけながら」昨年末の死の直前までかけてつづった文章をまとめた。けっきょく最終回までた... -
暗黒日記Ⅰ <清沢冽>
筑摩書房 20050408 「危険だ」と忠告されながら、現代史を書くための材料としてつけた昭和17年から18年の日記。細かな日々の事件やできごとの記述とともに、大量の新聞記事のスクラップを一緒に添付している。 「戦争」を記した本は通常、後の時代か... -
戦場が培った非戦 <渡邊修孝>
社会評論社 20050402 筆者はイラクで人質になり、「自己責任」のバッシングの嵐にさらされた。だが、テレビの画面からは頑としてゆずらない意思の強さが伝わってきた。同じようなめにあったら、私ならばめげて形だけでも謝ってしまうだろう。彼はなぜこれ... -
小泉純一郎-血脈の王朝 <佐野眞一>
文芸春秋 20050329 秘書官の飯島勲、田中真紀子、姉の小泉信子の3人に焦点をあて、関係者のすべてを当たる綿密な取材で出自と経歴を暴いたうえで、小泉の力の秘密と、血族以外を決して信じないその孤独さを浮き彫りにする。 小泉は、中学高校時代、まっ... -
民俗の知恵--愛媛八幡浜民族誌 <大本敬久>
創風社出版 20050307 博物館学芸員が、自らの出身地の愛媛県八幡浜市周辺の民俗文化について地元紙に掲載した記事をまとめた。 自分が育った土地に伝わるなにげない習慣・文化が、民俗学の世界では、全国的な事例として取り上げられていた。「外の目」... -
となり町戦争 <三崎亜記>
集英社 200503 市の広報に「町づくりの一環でとなり町との戦争をします」という主旨の記事がのる。詳細なプランは、コンサルタント会社が作成したという。 戦争が始まるというその日、となり町に通勤している主人公は緊張しながら車を走らすが、これとい... -
或る『小倉日記』伝 <松本清張>
新潮文庫 20050302 週刊金曜日で、佐高信が司馬と比較して清張のすばらしさを説いていた。それを見て、もう一度読んでみようと思った。 下に、短編の登場人物をずらりと並べてみた。一言で言うと暗い。屈折している。繊細で鋭敏な心と、コンプレックスと... -
国家に隷従せず <斎藤貴男>
筑摩書房 20050218 監視カメラが町に増えている。「安全のためには仕方ない」と言われると、反論しにくい。マスコミでも反対論は書きにくい。だが、町中にカメラが設置され、顔認識システムが導入され、総背番号制が隔離したら、まさにオーウェルの描いた... -
娘巡礼記 <高群逸枝>
岩波文庫 20050210 苔の生えたような説教くさい紀行文を想像していたが、読み始めると、引き込まれた。 異性関係での悩みを抱えた熊本に住む24歳の女教師が、ある日、四国巡礼を思い立ち、親元を離れ半年に及ぶ遍路に旅立つ。白衣を着て歩くと、好奇の目... -
若者の法則 <香山リカ>
岩波新書 20050214 敬語を使わない。入試にまで親が見送りをする。オリンピックでも日常生活でも「楽しみたい」とばかり口にする。やけに大げさに自分の体験を語ろうとする。身近な人にはやさしいのに、(少年犯罪の被疑者ら)「外」に対してはやけに厳し... -
逆命利君 <佐高信>
岩波現代文庫 20050112 異色商社マン鈴木朗夫を描く。 若いころから上司を肩書きではなく「○○さん」と呼ぶ。ずけずけと物を言う。社長の伊藤に「あなたの服装はひどい。上から下までコーディネートしますからまかせてください」などと直言する。 エリート... -
戦争論争戦 <田原総一朗・小林よしのり>
幻冬舎文庫 20050130 かつて田原は保守系文化人と位置づけられていた。保守系リベラルだからこその説得力ある論を展開する。一方の小林よしのりの主張は、「日韓併合はしかたない」「大東亜戦争も仕方ない」「アジアの独立に寄与した」「今の視点から過去... -
日本の戦争<田原総一朗>
小学館文庫 20050124 久野収だったか、鶴見俊輔だったかが、こんなことを書いていた。 明治のはじめ、天皇教をつくりあげた明治政府のリーダーたちにとっては、表向き(顕教)は天皇を神としたが、裏(密教)では合理的な政策をすすめるための「道具」ぐ... -
エヴェラルドを捜して<ジェニファー・K・ハーベリ>
新潮文庫 199907 1988年、グアテマラの古都アンティグアに僕はいて、ドニャ・ルイサという喫茶店に通っていた。「戦争をみたい」といいながら、毎日ケーキを食べ、ビールを飲み、ノミがいたとはいえ、白いシーツの上に寝ていた。 92年に行ったときは、... -
グアテマラ虐殺の記憶–歴史的記憶の回復プロジェクト編
岩波書店 2001/1 1988年、はじめてグアテマラに行ったとき、マヤの人々は暗い、という印象を持った。 91年、前年に軍を住民達が追い出した町を訪ねたらみな明るく、あけすけに外国人に語りかけてくれた。3年前にもすぐ近くの村に行ったことはあった...