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職業としてのジャーナリスト2-報道不信の構造

岩波書店 20050505

メディアの締め付けをはかる権力。
田中真紀子の長女の報道問題では、裁判官が出版差し止めの研究会がつくっていることが明らかになった。プライバシー概念は拡大し、アイドルの交際報道、「お宝写真」掲載でも賠償を命じる。放送内容に踏み込んだ行政指導が頻発し、国民保護法では、放送局は避難指示や警報などの放送を義務づけられる。
イラク派兵反対ビラを防衛庁官舎にまいて逮捕され75日間拘留、戦争反対の落書きでは1カ月半拘留。メディアだけでなく市民の表現の自由も狭められている。
報道不信や右翼的な世相を背景にじりじりと権力側は圧力を強めている。

イラク人質問題では、「自己責任」の大合唱が起きた。与党政治家は「山の遭難では救助費用を遭難者や家族に請求することがある」と発言し、「彼らのような市民や、危険を承知でイラクに派遣された兵士がいることを、誇りに思うべきだ。私たちは…彼らを安全に取り戻すためにできる、あらゆることをする義務がある」(パウエル国務長官)、「情熱を持って人道支援に献身する若者こそが誇り」(ルモンド)と海外から諭される始末だった。
それにしても不思議なのは、イラクで殺害されたとみられる元傭兵の斎藤さんへの反応だ。産経は「命を賭けているプロだ」とほめたたえ、「自己責任」論のかけらもない。一方、人質事件のときに署名運動をした市民団体側も今回は動かないし、「あの人は傭兵だからしかたない」という意見がちらほら漏れてくる。双方とも、ダブルスタンダードなのだ。
それにしても、こうした大情況を取材する記者の文章を読んでいると、むなしさに襲われることがある。地方の片隅で、ちまちました取材をしているうちに、いつのまにか隘路に迷い込み、大事なことが見えなくなってしまうのではないか、と。
だから、本多勝一の「戦場の村」を読んでジャーナリストになり、パレスチナを報道しつづけている土井敏邦氏の文章はちょっとうれしかった。
--イスラエルの女性新聞記者アミラ・ハス。占領地に10年以上も住み着いている。イスラエル人であることを隠そうとせず、住民たちのなかに飛び込み、取材していた。市井の人が固有名詞で登場し、その生活と心情が詳細に描写されている。「私はいわゆる有名人をまったく信用しません。だから情報を得るために有名人のところへ行ったりはしません。市井の人々の話を聞くことこそが重要であり、民衆こそが第一の取材源なのです」--
「民衆こそが第1の取材源」。その原点を忘れてはいけないのだろう。
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▽(田中真紀子の長女結婚報道で差し止め) 鬼沢裁判官が属する民事第9部の裁判官が中心となって、出版差し止めについての研究会が作られ、マニュアルを作っていた。組織的な動きによる司法判断と考えられる。プライバシー概念の拡大:中田英寿と宮沢りえのキス写真掲載で賠償、投稿の「お宝写真」掲載、アイドルの交際報道、2チャンネルのプライバシー書き込みで掲示板の管理人に賠償……。
▽放送への介入。放送内容に踏み込んだ行政指導。国民保護法で、NHKと民放が警報や避難指示、緊急通報などの放送を義務づけられる。
イラク派兵反対ビラを防衛庁官舎にまいて逮捕され75日間も拘留。「戦争反対」落書きで、1カ月半拘留され有罪判決。…メディアだけでなく、市民の表現の自由も狭められている。
□山田厚史
▽郵貯と簡易保険の残高300兆円。これが政府系金融機関や特殊法人に流れ込み、ムダに遣われ、日本経済のお荷物になっている。その構造をただすため資金の入り口である郵政事業をどう改革するか、に、焦点はあった。
首相になる前の小泉には、郵政改革=官業全体の非効率是正という観点があったと思う。財務省の第2の予算といわれる財政投融資に手を付け、公社公団、特殊法人に牝を入れることになる。使い勝手がいい特別会計や天下り先を失いたくない官僚組織を敵に回すことになる。ところが首相になって…郵政公社の民営化に問題を矮小化し、改革派対抵抗勢力という図式をつくりだした。……劇場型政治に引きずられるメディア。
□国正武重
▽鈴木首相 レーガンとの会談で「平和憲法をもつ、日本の特殊な立場」を率直に表明。「…戦争を放棄し、軍事大国とならない、との誓いを体現した平和憲法は今後とも維持されなければならない。福祉関係費を削って防衛費を増やせば国民の反発は必至であり、83年の衆院選で自民党は負けるかもしれない。日米安保体制を可能にしてきた自民党政権が敗退することになりかねない」(良質でリアリズムを重視する保守と、力のある革新があって出てきた発言)。平和憲法下での「国是」を前面に掲げて米国に注文をつけた結果、「つぶされた」のでは。その後に首相になった中曽根は「私が首相に就任した当時、日米関係は最悪の状態でした」と回顧している。
□亀井淳 週刊新潮次長を経てフリーに
▽田中角栄訪中時、中国の存在そのものを認めない論調をくり返した。金大中拉致事件では軍事政権に荷担して処刑論に賛成することまでした。そうした偏向企画が読者による一定の支持を得た。その心理構造はおそらく戦前から変わらない。周辺に差別して当然という国を持つこと。それが国内で差別され、搾取されている日本人への慰めになるとう仕組みを維持したいのだ。韓国や中国が近代化した今、北朝鮮だけが差別商法で売る週刊誌にとっては格好の対象なのだ。
国内では、革新・平和運動たたき。労働組合は目の敵。女性の権利運動は揶揄の対象。環境運動もやられた。冷戦が収まると平和運動への攻撃はやや下火になったが、9.11テロが起きると俄然活気が戻った。イラク人質事件では、3人の人格イメージをおとしめ、こんなヤツらを救助しようというのかというキャンペーンを張る。「自作自演」「自己責任」といった言葉をくり返すことで、拘束の背景にある自衛隊のイラク派遣という重大な政府責任をぼかす。
▽週刊誌の今後
岩瀬達哉の年金問題ルポ、溝口敦の「食肉の帝王」…週刊誌の取材力と気鋭のライターとの組み合わせは、すぐれたノンフィクションを生み出す条件。
□石坂仁(共同通信)
▽イラク 取材ルールの協議で「取材者自身および現地隊員の生命及び安全の確保ならびに現地部隊の円滑な任務遂行に関する情報については、防衛庁または現地部隊による公表または同意を得てから報道する。それまでの間は発信および報道は行われない」という条件まで受け入れてしまった。「検閲」以外の何ものでもない。…米軍の従軍ルールを下敷きにしてつくった暫定ルールをベースにした。
戦地取材経験が豊富なカメラマン「ルールは破られるためにあるのであって、…何も報道しないより、少しでも報道した方が読者、視聴者のためになる。さっさと署名して取材にむかうべきだ」

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