文芸春秋 20050329
秘書官の飯島勲、田中真紀子、姉の小泉信子の3人に焦点をあて、関係者のすべてを当たる綿密な取材で出自と経歴を暴いたうえで、小泉の力の秘密と、血族以外を決して信じないその孤独さを浮き彫りにする。
小泉は、中学高校時代、まったく目立たない生徒だったという。十代から父の純也の政治活動を支えた姉の信子の指導によって、政治家として階段をのぼっていく。
小泉姉妹が一人残らず取材を拒否するなか、純一郎の祖父の又次郎にまでさかのぼって調べる。又次郎の正妻には子ができず、純一郎の母を生んだのは、石川ハツという女性だった。その後、ハツはほかの男と結婚し、3人の子を生んだ。その末娘に会う。
小泉の母、芳江は、美男子の純也にのぼせあがって結婚。純也は政治家になったが、小泉家のなかでは孤独だったという。
純一郎の姉の道子は、竹本公輔という慶応大出身の男と結婚するが、6年で離婚する。人事興信録を調べ、行方を尋ね歩き、竹本の義理の姉に会ったが、「まだ生きてるんですか。小泉さんのお姉さんと結婚していたんですか?」という反応だった。竹本については、小泉家のごく近い親族でさえ知らなかった。竹本と道子の娘は、純也の籍に入れられ、純一郎の「妹」になった。小泉家のなかでは、竹本の存在はタブー中のタブーになっていた。
竹本が離婚後しばらくして怪しげな男が出入りする安アパートに転がりこんだところまでは確認したが、その後の消息は誰に聞いてもわからなかった。
純一郎自身は、エスエス製薬創業者の娘の大学生だった宮本佳代子と福田赳夫の仲人で結婚した。が、信子の君臨する小泉家の雰囲気と合わず離婚したらしい。佳代子に引き取られた三男の佳長が「父親と2人きりで会いたい」と事務所に電話で訴えたが、信子は「血はつながっているけど、親子関係はない」と冷たく言い放ったという。
すべて血族で固め、他人は絶対に入り込めない小泉陣営では、秘書官の飯島にしても、「奥の院」は絶対に覗き込めず、強力な「門番」という立場にすぎないという。
その飯島は、貧乏な家で育ち、障害者の兄弟をもって苦労した。不幸なおいたちを経て、独特のすごみをもつ異形の秘書官となった。周到なマスコミ対策によって、小泉を支えた。
田中真紀子は、小泉が総裁選で勝つ原動力になった。彼女を切ったことで、世論は一気に離反した。実家の元お手伝いさんや元秘書、同級生らに話を聞くことで、彼女の独特のヒステリックなキャラクターが作られていく過程を再現する。
父の角栄亡きあと、ファミリー企業のトップも、角栄を支えた早坂茂三らの側近も、「越山会の女王」と呼ばれた佐藤昭子も切る。親族をも粛正し、自分の息子さえも切り捨てる。「新聞の切り抜きをやってない!」といってファミリー企業の社長を怒鳴りちらし、社長が夫の直紀氏と一緒に飲んでいて夫の帰宅が遅れたことで、その社長を突然解任してしまう。角栄の介護をした凱皇という元力士とのエピソードなど、知られざる角栄の横顔をも紹介している。
「小泉さんという人は、基本的に人の話を聞かない人です。あんまり人の意見を聞いて知識をもったり、専門家の意見を聞いてしまうと迷いが出て、メッセージ性が弱くなる。それでは政治家としての意味がないんだ、というのが彼の考え方」 という政治家の発言はなるほど、と思った。
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