幻冬舎文庫 20050130
かつて田原は保守系文化人と位置づけられていた。保守系リベラルだからこその説得力ある論を展開する。一方の小林よしのりの主張は、「日韓併合はしかたない」「大東亜戦争も仕方ない」「アジアの独立に寄与した」「今の視点から過去を悪いと断罪しても意味がない」……と「つくる会」的な歴史観だ。
左派系の文化人とはちがって田原は、日清日露の時代は「侵略戦争」という意識はなかったとし、日本が破滅への道を歩む出発点は日韓併合だという。そこから植民地主義が始まり、その後の道は不可避的に進んでいったという。
小林は、日韓併合は条約なのだから仕方ない、という立場だ。満州は近代的な政府が統治しているわけではない「荒野」だったから占領しても侵略ではないという。大東亜戦争もそれしか選択肢はなかったのであり、そこで戦った兵士たちは「公」のために働いた人だから(単なる被害者ではなく)「英雄」として尊重しなければいけない、という。
小林のハチャメチャな論理を田原がひとつひとつ論破していく過程がおもしろい。というか、田原の鋭さを見ると、ハチャメチャ論に対して即座に明快な反論が思いつかない自分の論理の弱さを実感させられる。
▽小林:戦地で死んだ人は英雄。空襲の死者は被害者。
田原:戦地で死んだ兵士たちも被害者。そこに追い込まれた。
小林:「自分がやらねばならぬ」という公的な言葉を兵士は大事にした。全部私的な言葉でいいなら、わしなんかオウムに狙われながらゴー宣なんてやらない。
▽侵略という発想は、ほとんど第二次大戦が終わるまでないんじゃないか。侵略がいいとか悪いという問題ではなく、やっぱり世界は力じゃなきゃだめなんだという気持ちが、明治の権力者にあったんだと思う。だから、日清戦争には福沢諭吉も大賛成する。(田原)
▽田原:大東亜戦争があったために日本はずいぶん貧しかった。戦争のために科学技術は欧米からずいぶん遅れてしまった。電波技術なんて決定的に遅れた。資源がないからよかった。土地も狭く工場もないから、臨海工業地帯をつくった。船で運ぶからコストが世界一安い。
▽小林:満州は中国じゃない。馬賊や匪賊が闊歩していた荒野。そこに満州国ができたほうが、秩序が安定した。国家じゃない、土地なんだから(出て行って侵略してもよい)。
▽小林:東南アジアの人は日本に感謝してますよ。
田原:角栄がフィリピンやインドネシアやタイに行ったとき、なぜ至るところで反日デモが起こったんですか。
小林:そこにだって共産党のやつがいるんですよ。
田原:インドネシア独立に協力したのは、日本が負けたからですよ。負けてなかったら独立させようなんて思わない。
▽小林:創氏改名って、あれ、基本的に無理やりやったものじゃないでしょう。
田原:朝鮮併合にしたって、朝鮮の時の政府は、武力で脅されて、仕方なく賛成した。恫喝の連続で、やらざるを得なかった。
▽田原:日本が核兵器を作らない、持たないということはよかった。それが日本の「信用」だと思う。日本の信用は、憲法を改正しないことと、核兵器を持たないことの2つしかない。
▽(第3世界を)搾取してしまっていること自体を罪悪感としてとらえるんではなくて、それは乗り越えられないんだと思ってしまう。
▽大蔵省。アメリカモデルを真似するばかりだった。自分でビジョンを考える体質がないまま、何もできず、バブルが起きバブルがはじけた。その後も大蔵省が打つ手は次々失敗している。プラザ合意からアメリカの戦略はかわった。ゆとりを失い、自分が世界最強というものを武器に世界をまとめていこうと考え始めた。武器の一つは情報。もう一つは金融。博打に近いアメリカ流の金融を世界に押しつけ始めた。ヨーロッパはこれに対抗するためにユーロを作った。
▽アメリカが、憲法を改正して軍隊を作れといってきたとき、吉田首相は「いま憲法改正なんていったら、日本は赤旗がなびいて反アメリカになっちゃうぞ」って脅すんですよ。アメリカがしょうがないなというんで軽装軍備で始めた。
▽小林:日本は、中国と一緒に見られないように「脱亜入欧」といってみたりして、中国の支配や影響からどれだけ逃れるかというのをやってきた。 田原:歴史的には順序が違う。日本の近代化は、中国にいかに深く入っていくかという歴史だった。
▽日韓併合 小林:国の代表が調印した以上、後で脅迫されたとかだまされたとか怒って破棄できるんなら、条約なんて成立しませんよ。
▽田原:過去の出来事に、いまの観点から善し悪しをいってもしょうがないなら、アウシュビッツだって原爆だってベトナム戦争だって、全部やむを得なかったで話は終わっちゃう。それはゆがんだ強者の歴史観ですよ。
大東亜戦争までくると、もう回避するのはとても難しかった。もとをたどっていくと、明治の末期、朝鮮併合のところで日本は帝国主義という選択をした。この選択が、そこから先の道を決めていったのではないかと思う。
▽田原:大正時代、世論に迎合していたらあんな戦争は起こらなかったよ。徴兵なんて大反対だよ。徴兵のためにストライキが何度も起きている。
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