01思想・人権・人間論– category –
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土と人間への手紙 <稲葉峯雄>
■土と人間への手紙 <稲葉峯雄> 家の光協会 201001 冒頭の「おっかあよ今もんたぞ」という詩は、想い出のなかにある「おっかあ」の姿を細やかに、愛情と哀しさを込めて描く。この本に載っている農協生活指導員への100通の手紙は、愛媛の... -
日本辺境論<内田樹>
日本辺境論<内田樹>新潮新書 20100107 江戸時代までは中国を中心とした世界の「辺境」だった。明治以降は欧米中心の世界の「辺境」である。そうした辺境人としての地位が、日本人を一定の枠にはめているとみる。 辺境人は、中心に対して... -
オーウェル評論集2 水晶の精神<ジョージ・オーウェル、川端康雄訳>
■オーウェル評論集2 水晶の精神<ジョージ・オーウェル、川端康雄訳> 平凡社ライブラリー 200912 どの論考も新鮮で、古さを感じさせない。現代の日本にあてはまる個所がいくつもある。テーマを5つほどにしぼって感想を記したい。 □言葉 あらゆる... -
武士道 <新渡戸稲造、矢内原忠雄訳>
岩波文庫 20091217 戦争中、この本が軍人たちの心の支えになったと聞いた。右翼的な本だと思って読んでいなかったが、よくよく見たら著者はキリスト者として有名な新渡戸稲造だ。新渡戸は平和主義であるクエーカー教徒だ。右翼思想とは正反対に位置す... -
闘うレヴィ=ストロース<渡辺公三>
平凡社新書 20091230 レヴィ=ストロースは2009年に100歳で死んだ。 構造主義というのは、歴史やら進歩やらを否定し、時代によってさまざまな変化があったとしてもその社会を規定する「構造」は変わらない、という、いわば宿命論に近いと思っ... -
オーウェル評論集1 象を撃つ <ジョージ・オーウェル>
平凡社ライブラリー 20091129 絞首刑のあと、死体の近くで酒を飲み笑いころげる。ロバの死骸が路傍で犬に食われるのを見て腹をたてるのに、薪を背負って運ぶ老婆の存在は意識しない。白人である筆者を尊敬する黒人兵を見て「あといつまでこの人たちを欺... -
福沢諭吉伝説 <佐高信>
角川学芸出版 20091125 民の立場から官に立ち向かう 「平熱の思想家」という位置づけがさすが、と思う。封建制度を人一倍憎み、熱狂的な時代に一人冷静で、〓〓より金儲けのほうがよっぽどよい、と説く。一見「拝金」主義にみえるが、そうではなく、おか... -
健全な肉体に狂気は宿る 生きづらさの正体<内田樹 春日武彦>
角川 20091120 人間は困難な状況に直面したとき、自分の世界を狭めるもの--という指摘はドキリとさせられた。しんどくなって人間関係を狭めてしまうのは病んでいる証拠なのだ。 健全な人は、自分の世界が広がっていく人であるという。でも、しん... -
世界がわかる宗教社会学入門〈橋爪大三郎〉
ちくま文庫 20091116 世界はつくられたのだから、始まりと終わりがある。それをつくった知性は世界の外側にある。その偉大な知性を神と呼ぶというのが一神教。この世界には始まりも終わりもない。世界も人間も変化しているようで変化していない。究極の... -
日本 根拠地からの問い<カンサンジュン、中島岳志>
毎日新聞社 1091031 神風連の乱や西南戦争は、不平士族の反乱と言われるが、「国家」による支配に対するパトリの反乱という側面があるという。この反乱で失敗したことで、武力闘争の道は閉ざされ、自由民権運動が生まれる。 さらに一見、左翼的運動に... -
コミュニティを問いなおす--つながり・都市・日本社会の未来 <広井良典>
ちくま新書 1091017 (1)人類史的な次元 (2)ポスト資本主義の次元 (3)日本社会固有の次元 という3つの次元から「コミュニティ」を論じる。 ものごとを細かな要素に切り分けて個別に分析する「近代科学」は地動説をはじめとして「常識... -
不逞老人 <鶴見俊輔 黒川創>
河出書房新社 20090922 ゴーフル好きのかわいいおじいちゃん。みずからを「不良少年」と称し、父への反発と母へのコンプレクスをおもしろおかしく語る。「父だから母だから、兄弟だからという理由で話が伝わるわけではない。むしろ、父母兄弟だからこ... -
マックス・ウェーバー入門<山之内靖>
岩波新書 20090911 学生時代にウェーバーを読んだときは、経済がすべてを決めるというマルクスとちがって、人間の動機とか心が社会の動きに及ぼす作用を大事にしてる人なんだな、くらいしか理解できていなかった。 「価値の自由」という言葉は客観... -
国家の罠 <佐藤優>
新潮文庫 20090807 細かな描写。すさまじい記憶力。敵であってもその能力や態度を素直に認め、認めはするけど握手はしない、というギリギリの線引きをする判断力。 自分が獄中にいるとしたら、ぜったい無理だろう。 国策捜査によって、逮捕される。検察の... -
村上春樹にご用心 <内田樹>
アルテス 20090729 筆者独特の「他者」論を駆使して村上文学の秘密を解き明かしていく。 なぜ村上文学は世界的になったか。 「父」(=私たちの無能のありようを規定する原理)が登場しないからという。すべての社会集団は、神や予言者や資本主義体制……と... -
対論異色昭和史 <鶴見俊輔、上坂冬子>
PHP新書 1090723 鶴見俊輔が、右派の上坂と接点を持っているとは意外だった。 戦争の評価ひとつとっても正反対。上坂は中国との戦争を日本だけが悪いという意見はおかしい、といい、アメリカに押しつけられた憲法なんて改正するべきだ、と述べて... -
自壊する帝国 <佐藤優>
新潮文庫 20090721 同志社の神学部をでて、博士課程に進もうと思ったが、あご足つきで海外に行けると聞いて外務省の専門調査員になってモスクワに留学する。普通のういういしい若者でしかない。 モスクワ大でサーシャというおそろしく頭の切れる男... -
差別と日本人 <野中広務 辛淑玉>
角川oneテーマ21 20090713 切ない。差別の底からたたかいつづけ、寝業師として、想いを通す。それでも親類からはうとまれ、娘や婿に「野中」を名乗らせない。孫はDAIGOにはならない。「寂しいですよ」と言い合うところ。ぐっとくる。 やさしさ。共感... -
大不況には本を読む <橋本治>
中公新書ラクレ 20090712 「本はそこになにが書かれていないかを知るために読む」。なるほど、と思う。 書いてあることをなぞるだけでは、「過去」をなぞることにしかならない。書かれていないこと、行間を読みとることで、新しいナニカの発見に導... -
文学地図 大江と村上と20年 <加藤典洋>
朝日新聞出版 20090320 村上春樹が「ノルウェイの森」を書き、大江が村上の非政治性・社会に対する受動的姿勢を批判してから「大江か村上か」という構図が世間で明確になった。 筆者はしかし、大江と村上の類似性に焦点を当てる。 筆者によると... -
菊と刀 <ルース・ベネディクト>
現代教養文庫 20090109 米国人の人類学者が、敵である日本人の人生観を日本人の立場に立って見ようとしているから、外部からの興味本位の観察とちがって説得力がある。著者が来日したことがなかったとはとても思えない。構造主義的な観察眼の強みだろ... -
哲学は人生の役に立つのか <木田元>
PHP新書 20081205 海軍兵学校で終戦をむかえ、闇屋をして暮らしたあと農林学校でまなぶ。なんのために生きているのか悩みつづけ、ドストエフスキーをへてハイデガーを読みたくて21歳で大学に入学した。 哲学者=「青白きインテリ」というイメージ... -
貧困の克服–アジア発展の鍵は何か <アルマティア・セン>
集英社新書 20081201 経済が発展すると、教育が発展し識字率もあがるという従来唱えられてきた順番ではなく、高い識字率こそが経済発展の基盤になるという。江戸時代から識字率がきわめて高かった日本などの例をあげ、アジアの経済発展の基盤だとみる... -
ルイ・ボナパルトのブリュメール18日 <カール・マルクス>
平凡社ライブラリー 20081125 フランス革命からナポレオンへ移り、その後、王政が復活する。その王制を倒す革命によって共和制が返り咲き、普通選挙制が施行される。ところが、議会内の王制派やブルジョア会派は労働者階級を排除し、反発したプロレ... -
他者と死者 <内田樹>
海鳥社 20081030 「師=死者=他者」というのが、この本の骨格のような気がする。「他者」とは、「私」には絶対的に理解できない境地にある絶対的な存在であり、ラカンの言う「象徴界」(その反対が「想像界」)もほぼ同様の意味である。難解なレヴィ... -
反哲学入門 <木田元>
新潮社 20081104 古来、人間は現実の世界・自然にどっぷり浸かっていた。自然とはそこから生まれいずるもの、「なる」ものであるとされた。 ソクラテス・プラトンにはじまる哲学は「存在するもの全体がなんであるか」と問い、自然から切り離された... -
臨床の知とは何か <中村雄二郎>
岩波新書 20081017 近代科学は、「客観主義」の名のもとに「専門」という蛸壺にはまり、「現実」そのものを見なくなってしまった。全体をバクっととらえる目(生命そのものの全体を見る目)を失い、観察者である私たちも観察対象に影響を与えていると... -
姜尚中の青春読書ノート <姜尚中>
朝日新書 20080920 気鋭の政治学者であり、専門の論文は難解なことを書いているのに、自らを語るときはみずみずしく若々しい悩みに満ちている。東大という象牙の塔のなかで、なぜこんな感性をもちつづけることができるだろう。その答えの一部は「在日... -
街場の中国論 <内田樹>
ミシマ社 200809 中国数千年の歴史をつらぬく「パターン」(=変化する仕方)として、まず、「易姓革命論」をあげる。王朝の天命が尽きれば王位を譲らなければならない。譲位を拒否した場合は、その王を伐つことは天理にかなった行為とされる。だから... -
こんな日本でよかったね 構造主義的日本論 <内田樹>
木星叢書 20080830 私たちの感受性も観察眼も属している文化によって規定さており、客観的な視点や歴史観などありえないことを説いた「構造主義」、あらゆる制度の起源に「身体的感覚」をもとめる思考と、「存在しないのだけれど、存在する」というねじれ...