■打たれ強く生きる <城山三郎> 新潮文庫 20100416
城山が描く政財界の人物は、左遷されたり、不遇をかこったりした人が多い。エリート一直線でまっすぐに出世しました、という人は出てこない。不遇な時期にどうやってすごすかによってその後の人生は変わる。腐っているばかりではなく、その境遇を生かすよう努力する必要性……。当たり前のことなのだけど、多くの「英雄」の生き様を描いてきた城山だけに説得力がある。
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▽22 丸田さんは第一に、「会社の仕事以外に勉強をするように」。基礎的な勉強からはじめて、勉強がおもしろくなるまでやめてはいけない。第2に、文学や芸術に触れよ。うるおいを持たなければ、長い人生はつらいものになる。
▽42 渋沢栄一 何度かの逆境を克服したのは、人一倍の知的好奇心のせいだった。命からがら一橋家に逃げこんだとき、雇われてもいないのに、一橋家とは何か、毎日どんな生活なのか、台所はどうなっているかなど、知りうる限りを勉強した。彼が慶喜の目にとまったのは、逃げ込んできた百姓にすぎないにもかかわらず、実によく一橋家のことを知り、どうあるべきか意見を持っていたからだ。
▽63 新しい英雄ともいうべきシンボリック・マネジャーにはどんな人がふさわしいか。第一に、人間通であること。人間に興味をもち、じっくり観察できるひと。そのためには感受性をみがき、他人の言うことをよく聞くひとでもなければならない。
▽85 勝海舟は見知らぬ街に来ると、2日や3日は、ただただ町中を歩き回るのが常であった。
▽114 マスコミの脚光を浴び、急成長し、急破綻していった数多くの人たち……。
ぼちぼちが大事。ワルラスが好んだ言葉。「静かに行く者は健やかに行く。健やかに行く者は遠くまで行く」
▽138 わたしの友人の幾人かも、次々に不遇と思われるポストに移された。彼らはその時期をそれぞれ恰好の充電期間としたようで、一回りも二回りも大きく安定したものを感じさせる姿になって戻ってきた。……降格や配転は、一休みという意味ではむしろ救いではないのか。
▽181 伊藤肇
▽222 「いま日本中の者が乗り遅れまいと先を争ってバスに乗っとる。無理して乗るほどのこともあるまい。おれたちは歩こう。君もだんだん目が悪くなっているようだが、万一のことがあっても、決して乗り遅れまいと焦ってはならんぞ」 32歳で失明した男。健康人をまねて、むやみにあがき嘆くのではなく、頭を切り替え、いまの身にできる最良の生き方を考えることである。……だれもがバスに乗る世なら、むしろ歩いた方がいい。「おれたちは歩こう」といっしょに歩いてくれる親友がいるなら、さらにすばらしい。
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