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国家の罠 <佐藤優>

新潮文庫 20090807

細かな描写。すさまじい記憶力。敵であってもその能力や態度を素直に認め、認めはするけど握手はしない、というギリギリの線引きをする判断力。
自分が獄中にいるとしたら、ぜったい無理だろう。
国策捜査によって、逮捕される。検察の描く筋書きをわずかな情報からあらわにして、どうせ有罪になるとしても、未来のための記録になるように、筋書きをつくり、検察と渡り合う。
「国益」を大切にする愛国者としての一面。国益を守るためなら、自らがおとしめられてよいと考える。哲学や思想を丹念にたどるインテリとしての一面。キリスト教の信者としての一面。相手によって場面によって、多面的な自分を使い分ける。そういう多面性は必要だなあと思っていたら、沖縄では6つの魂があると言われている、という話が紹介してあった。なるほど。

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▽21 僕たちロシア人は原理原則を譲らない外国人を尊敬するんだ。自分の頭で徹底的に考えて、ロシア人の心に訴えることばを見つけるんだ。
▽34 イリイン氏を偲びながら「人間はまず内側から崩れる。決して自暴自棄になってはいけない。常に冷静さを失わないことだ。最も重要なのは自分との闘いだ」と言い聞かせた。
▽54 東郷氏は、文学・哲学に明るく、プラトンをよく読みこんでいたので、ロシアの知識人と仕事を離れたところでも楽しく付き合うことができる。 (実学でない学問の大切さ)
▽103
▽124 政治家は長時間待たせた客のことを決して忘れたわけではない。待ち時間が増えることは、その政治家に対して貯金をしていると考えるようにした。いくら待たされても不平を言わない外交官には、いつしかアポを取らずに会えるようになり……
▽139 ピースウインズ大西
▽141
▽144 北方領土問題にあくまでもこだわったことでロシア人政治エリートは鈴木氏、東郷氏、私を信頼した。ロシア人は、原理原則を大切にする相手とだけ真剣な取り引きをする。
▽146 ロシア人はなかなか約束をしない。しかし一旦約束すれば守る。また「友だち」ということばは何よりも重い。ユダヤ人もそうだ。
▽152 田中真紀子が外相をつとめた9カ月の間に、冷戦後存在した外務省内の3つの潮流は「親米主義」に整理された。「地政学論」が葬られ、「ロシアスクール」は幹部から排除された。田中女史の失脚で「アジア主義」が後退した。「チャイナスクール」の影響力も限定的になった。
▽162 ロシアからイスラエルへの「新移民」は、ロシアに住んでいたときはユダヤ人としてのアイデンティティーを強くもち、イスラエルに移住したが、イスラエルではロシア人としてのアイデンティティーを確認するという複合的アイデンティティ-をもっている。
▽166
▽178 陸軍中野学校を卒業した末次一郎氏
▽208 北方領土 ロシアの不法占拠を助長するような、恒常的インフラ整備はダメだが、プレハブのように簡単に解体できるものならば「箱物」でも供与してもよいことに。
▽241 情報専門家の間では「秘密情報の98%は公開情報の中に埋もれている」と言われるが、それをつかむ手がかりは、新聞を精読し、切り抜き、整理することからはじまる。情報はDBに入力しても意味がなく、記憶に定着させなくてはならない。この基本を怠っていくら情報を聞き込んでも、上滑りして、実務の役には立たない。
▽276 西村尚芳検事の仕事は私を「殺す」こと。ただ、殺し方については検事とも取り引き可能だ。供述を一切やめれば担当検事は交代になる。それが利益になるか否か見きわめなければならない。情報屋の基礎体力とは、まずは記憶力だ。私の場合、記憶は映像方式で、なにかきっかけになる映像が出てくると、そこの登場人物が話し出す。
▽287 拘置所職員は検察官や法務本省の役人を好いていない。……弱い立場にいるといは虚勢がいちばん有害だ。
▽289 特捜流取り調べの常識では、「官僚、商社員、大企業社員のようないわゆるエリートは徹底的に怒鳴りあげ、プライドを傷つけると自供をとりやすい。自動販売機にする」という。私に関しては、自動販売機にならず黙秘戦術をとる危険性があると見て、軟弱路線に切り替えたのではないか、ということだった。
▽300 (検事)「……情報や分析という特殊な仕事をしているので、自分のことも突き放して見ることができるんだよ。何でこんな変な人を僕は調べなくてはならないんだ」……大きな目的が達成できるならばプライドもかなぐり捨てる。この囚われの身で、私が追求する大きな目的は何なのか。もう一度よく考えよう。
▽333 ……戦前、大杉栄は「一犯罪、一語学」といって獄中で各国語を次々マスターした。……
▽338 「そもそも大学教授といった連中は、警察や検察にはとっても弱いんだよ。特に昔、学生運動で捕まったことのある連中にその傾向が強い」(kisaragiとの違い〓)
▽353 独房生活1週間、拘禁症候群がでて、涙もろくなり、取り調べで泣く。
▽359 ……「検察官も人間ですからね。被疑者から『あなた以外の取り調べには応じない』などと言われると嬉しくなっちゃうんですよ」
▽370 「国策捜査の対象になる人たちは、世間一般の基準からするとどこかで無理している。だから揺さぶれば必ず何かでてくる。……山本譲司の件なんていい例だと思うよ。……」
▽379 北方領土問題で妥協的姿勢を示したとして、鈴木氏や私が糾弾された背景には、ナショナリズムの昂揚がある。国際協調的愛国主義から排外主義的ナショナリズムへの外交路線の転換が背景にある。
▽384 「特捜は冤罪はやらないよ。ハードルを下げて、引っかけるんだ。……国策捜査の犠牲になった人に対する礼儀もある。罪をできるだけ軽くして、形だけ責任をとってもらう。うまく執行猶予をつけなくてはならない。国策捜査で捕まる人たちはたいへんな能力があるので、それを社会で生かしてもらわらなければならない。だからいたずらに実刑判決を追求するのはよくない国策捜査なんだ」
▽448 「外交のことでも国策捜査のことでもどんどん書いて問題提起していけばいいじゃないか」……(検事)
▽488 東郷氏。
▽504 独房生活で繰り返し読んだのは、「聖書」「太平記」「精神現象学」(ヘーゲル)。「精神現象学」からは、当事者にとって深刻に見える問題が、学術的訓練を積んだ者にとっては滑稽に見えることもあるという、ユーモアの精神を学んだ。(〓自分を感情から引きはがす)
▽520 後醍醐天皇をはじめとする南朝の人々の業績が正当に評価されていないため、それが怨念となり、天災地変を起こしているという結論になり、南禅寺の僧侶を中心とする有識者グループによって編纂されたのが「太平記」である。異常なほど細部にこだわり、南朝側の人々の業績も詳細に記されている。真実を詳細に記述し、歴史に残すことが鎮魂であると「太平記」の著者は考えた。(〓〓大岡昇平)

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