reizaru– Author –
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共生の時代 使い捨て時代を超えて<槌田劭>
■樹心社 20210506 福島第一原発事故以後、「安全」をめぐって生産者と消費者の間に亀裂が生まれた。「安全安心」だけでは何かが足りなかった。有機農業やエコロジー運動の先駆者が「有機農業」になにを求めていたのか知りたくて1980年代の本を手に取った... -
それでも人生にイエスと言う<V・E・フランクル>
■それでも人生にイエスと言う<V・E・フランクル>春秋社20210505 フランクルの「夜と霧」はナチスの強制収容所の話というだけで、重苦しくて手に取るのを躊躇した。だが自分が落ち込んでいるときに「夜と霧」を読むと、フランクルは「希望」を描いたのだ... -
緑の牢獄 沖縄西表炭坑に眠る台湾の記憶<黄インイク>
■五月書房新社 20210517 西表島の辺境のムラは2度訪ねた。目の前に浮かぶ内離島に炭坑があったと聞いていた。その炭坑の台湾人労働者の歴史をたどったドキュメンタリーの監督が書いた本だ。 西表島の石炭採掘は1960年代までつづいた。 今は無人島にな... -
よみがえれ大和橘 絶滅の危機から再生へ
■あをによし文庫20210512 みかんの原種とされる橘(タチバナ)の歴史や現状を知りたくて入手した。大ざっぱな知識を得るには役立つが、橘と今のみかんとのつながりについても説明してほしかった。 橘は、沖縄のシークヮーサーとともに日本の固有種で、紀... -
鎮守の森<宮脇昭>
■新潮文庫 20210515 その土地の潜在自然植生の森であれば、阪神大震災や酒田の大火でも焼けず、セイタカアワダチソウのような外来種の侵入を許さず、アメリカシロヒトリなどの害虫にもやられない。 山のてっぺんや急斜面、尾根筋、水源地、海に突き出し... -
イザベラ・バードの「日本奥地紀行」を読む<宮本常一>
■平凡社ライブラリー 20210430 「奥地紀行」は、当時の日本人にとって当たり前だったことが、外国人の目を通して記録されており、現代の我々の欠点や習俗がそのころに根をおろし、今も無意識に支配していることを示していると宮本は言う。 バードがさり... -
緑の牢獄(台湾映画)20210428
西表島の白浜と、目の前に浮かぶ島にある炭坑跡、船浮という集落にある私設資料館は訪ねたことがある。それで映画も見ようと思った。 主人公の90歳前後のおばあは台湾人。養父母とともに10歳で西表島にやってきた。 西表島のなかでも端っこの、亜熱帯... -
古寺巡礼<和辻哲郎>
■岩波文庫20210413 学生時代に読んだときは何がおもしろいかわからなかった。和辻が日本の美を発見し、「風土」の哲学の基盤になった本だと何かで読んで30年ぶりに再読した。 読みはじめは退屈だったが、彼の感動と大げさな表現を通じて、だんだん引き... -
フランクル「夜と霧」への旅<河原理子>
■朝日文庫20210405 ナチスの強制収容所を生き抜いたフランクルの人生と、犯罪や事故で家族を失った人や末期がんを患った人……ら、フランクルに救いを感じた人々の生き様を新聞記者がたどる。 強制収容所のガス室で母を殺され、妻は解放直後に病死した。解... -
映画「けったいな町医者」
■20210410 尼崎市で2500人を看取ったという長尾さんという町医者のドキュメンタリー。 大病院では最後の最期まで治療をしようとする。最後の一線を越えると「もうできることはありません」と追い出される。 命の残りが限られたときにつらい治療を強いて... -
生きろ 島田叡 戦中最後の沖縄県知事20210406
戦中最後の沖縄県知事・島田叡の生きざまを、周囲にいた人の証言によってたどるドキュメンタリー。 東大を出て内務省に入ったが、一度も中央に戻らず地方を巡った。口癖は「アホになれ」。上に対してものを言い、部下に好かれる役人だったらしい。 沖... -
新復興論<小松理虔>
■ゲンロン叢書20210320 いわきという地域での震災後の実践活動から哲学を深めた筆者の力量に舌を巻いた。 いわき市の小名浜に住む筆者は、東電や国はもちろん、福島県産品を危険物扱いする反原発派の言論に怒りを覚えてきた。 原発事故によって福島は左... -
平賀源内「非常の人」の生涯<新戸雅章>
■平凡社新書20210317 香川県の志度で平賀源内の旧宅を訪ねた。レオナルド・ダ・ビンチのようなマルチタレントな天才というイメージしかなかったが、最後は獄死していると知り、その生涯を知りたくなった。 源内はもとは本草学者(博物学者)だが、故障し... -
打ちのめされるようなすごい本<米原真理>
■文藝春秋20210316 米原真理のエッセーは抜群におもしろかった。その彼女が「打ちのめされるような」本って、どんな作品なのだろうと思って読んだら、その書評の面白さに打ちのめされた。その切れ味は齋藤美奈子の書評を彷彿とさせる。 僕が書く書評はど... -
人類哲学序説<梅原猛>
■岩波新書20210307 牧畜と小麦農業文明の生み出したヨーロッパの世界観では、森は文明の敵であり、森を破壊することで文明がはじまるとされた。昔のギリシャの建物は木造だったが、パルテノン神殿が建てられたときにはすでに森はほとんど消えていた。 ... -
空海<高村薫>
■新潮社 20210201 綿密な取材と想像力で、空海が生きていた時代の風景と空海の人間くささを再現する。 たとえば奥の院のあたりは川の流れる湿地だったが、開創200年後に伽藍焼失に備えて材木を供給するためヒノキが植林された。 空海は「思い込んだら... -
生きる哲学<若松英輔>
■文春新書 20210129 奥さんを亡くした若松は「悲しみは悲惨な経験ではなく、人生の秘密を教えてくれる出来事のように感じられる」と記す。その彼にとって「生きる哲学」とはなにか? 「悲しみ」を軸に、古今東西の哲人を通して浮かび上がらせる。 「... -
死者を弔うと言うこと 世界の各地に葬送のかたちを訪ねる<サラ・マレー>
■草思社文庫 20210117 イギリスの女性ジャーナリストが、父の死をきっかけに世界の「弔い」の場を巡り歩く。 父は無神論者で「人間なんかしょせん有機物だ」と言っていたが、死ぬ直前、親友が眠る場所に骨をまいてほしい、と伝えた。「単なる有機物」で... -
<西洋美術史を学ぶ>ということ
■<高階秀爾、千足伸行、石鍋真澄、喜多崎親>20210128 成城学園100周年、文芸学部創設60周年記念のシンポジウムの報告書。友人に勧められて手に取った。ちょっとした知識を得るだけで、素人でも美術がおもしろくなる。 たとえば15世紀には、人の顔は横... -
苦海・浄土・日本 石牟礼道子 もだえ神の精神<田中優子>
■集英社新書 20201118 石牟礼道子の「苦界浄土」は水俣病がテーマなのにある種の豊かさがあふれていた。自然とのつながり。アニミズム的な世界。文学の想像力……学生時代に読んだとき、その理由はわかるようでわからなかった。 この本は、江戸文化の研... -
奇跡の四国遍路<黛まどか>
■中公新書ラクレ 20200925 筆者は過去に、サンティアゴ巡礼や熊野古道などを歩いた。仕事と家事、看病による過労で体調を崩して、現実から逃れるように2017年に遍路に出た。 阪神大震災で妻と娘を亡くした男性は「悲しみは癒えることはない…夜がつらい... -
「在日バイタルチェック」20210211
在日コリアンのおばあさんの歩みを描く、きむきがんさんのひとり芝居。 在日コリアン高齢者のためのデイサービスに通う90歳の女性が人生を振り返る。 済州島で海女をしていた女性が日本にやって来て、強制連行されてきた夫と出会い、戦後、民族教育の... -
本とみかんと子育てと<柳原一徳>
■みずのわ出版 20210203 瀬戸内の周防大島でみかん農家を営みながらひとりで出版社を営む友人の久々の著書。 671ページという辞書のような厚みに圧倒されて、なかなか手に取れなかったが、ここ数日で一気に目を通した。 2017年から3年間の日記を中心に... -
無頼<井筒和幸監督>
■20210126 1950年代、満州帰りの酒浸りの父をもつ少年は、父の死とともに天涯孤独になり、やくざの道に入る。同じような境遇の若者たちを従えて、日本一のやくざをめざす。 飲食店からみかじめ料を徴収し、金を出そうとしない銀行に糞尿をぶちまけ、上部... -
「陶王子 2万年の旅」 柴田昌平監督
「陶王子」という磁器人形のキャラクターが、粘土をこねて器を作った2万年前から現在にいたる歴史をたどるドキュメンタリー。 土器を使わない民族は焼けた石の上で肉を焼き、樹皮などで包んで保管している。2万年前、そんな焚き火のなかに捏ねた粘土を放... -
ナショナルギャラリー英国の至宝<フレデリック・ワイズマン>
アマゾンプライムで見た。 13世紀から20世紀にいたる西洋美術史の主な作品を集めたロンドン「ナショナルギャラリー」の魅力をドキュメンタリーの巨匠が紹介する。 たとえばルーベンスの絵は、絵のなかに描かれた光と、設置された部屋に差し込む光を計... -
悲しみとともに どう生きるか<入江杏編著>
■集英社新書20210105「世田谷事件」で妹一家4人を殺された入江杏さんはグリーフケアを学び、「悲しみ」について思いをはせる会「ミシュカの森」を主催する。その会での柳田邦男や若松英輔らの講演や、彼らとの対談をまとめた本。 悲しみから目をそむけよ... -
喪の途上にて 大事故遺族の悲哀の研究<野田正彰>
■岩波書店20201229 1985年の日航ジャンボ機墜落、82年の日航羽田沖墜落、88年の第一富士丸沈没、88年の上海列車事故。それぞれの遺族と筆者は向き合ってきた。 病気で亡くなるのもつらいけど、前触れもなく突然大切な人が消え、さらに遺体さえも肉片と... -
スパイの妻(映画)20201227
■スパイの妻 20201227 蒼井優が主演だから見てみた。 貿易会社を営む主人公の夫とその弟は満州を旅して、細菌兵器開発のために人体実験をしていることを知ってしまう。それを告発しようとした看護婦をかくまって帰国した。 神戸の憲兵隊の分隊長は主人... -
教養としてのロンドン・ナショナル・ギャラリー<木村泰司>
■宝島社新書20201223 ナショナル・ギャラリー展を大阪で見て、西洋美術史を理解したくなった。印象派とかバロックといった言葉は聞いたことがあるが、それがどんな意味を持つのか、初歩の初歩を理解するための格好の入門書。 ナショナルギャラリーは、西...