reizaru– Author –
-
大重潤一郞監督のドキュメンタリー2作 基地や公害を民俗誌的な深みで描く
能勢 能勢ナイキ反対住民連絡会議 ナイキJは、アメリカの核ミサイルから核を抜いた国産ミサイルで、1970年に能勢町への配備計画があきらかになった。時代遅れの兵器だったが、いつでも核兵器に転換できる。すでに北海道や関東、九州に配備が決まってい... -
究極日本の聖地<鎌田東二>
■kadokawa20230607 927年の「延喜式」で重要とされた「延喜式内社」2861社は、古代の「聖地」一覧だ。それらをもとに「聖地」とはなにかを考察する。 最初に能登の真脇遺跡がとりあげられていてなつかしい。 真脇遺跡は三方を山に囲まれる母の胎内のよ... -
北の無名碑 加賀移民の足跡をたどる<池端大二>
■北国新聞社 20230528 北陸から相馬・中村藩(福島)への真宗移民について知りたくて入手した。 天明の飢饉で、奥羽では、農民が故郷を捨てる流亡が相次いだ。50年後の天保の飢饉でも多くの農民が餓死し、町への逃亡者が続出し、人口が3分の1に激減... -
ラ・ヨローナ〜彷徨う女<ハイロ・ブスタマンテ監督>
ラ・ヨローナ(泣く女)とは、夫に捨てられた女が、子どもを溺死させて自らも自殺し、ずぶ濡れの白い服をまとう亡霊となってあらわれる、という中南米では有名な伝説だ。ガルシア・マルケスの魔術的な世界にもつながるこの伝説をベースに、グアテマラの... -
異界・怪異は今もつづく……大阪歴史博物館の特別展
岩手県遠野市のカッパ淵は、最近まで河童の存在を信じられていたあかしだった。みなが信じているものは社会のアクターとして「存在」する。怪異現象が「現実」だった時代は実は今もつづいている−−。 そんなテーマをとりあげた大阪歴史博物館の「異界彷... -
21世紀の豊かさ 経済を変え、真の民主主義を創るために<中野佳裕・編訳>
■コモンズ 20230524国立民族学博物館の特別展「ラテンアメリカの民衆芸術」で、ラ米の民衆芸術は「多元世界への入口」と結論づけていた。「多元世界」の定義と背景を知りたくて、この本を入手した。 フランスやアルゼンチンの学者がつくった原本「21世紀... -
ひらめきをのがさない! 梅棹忠夫 世界のあるきかた<梅棹忠夫著、小長谷有紀・佐藤吉文編>
■勉誠出版20230501 私が学生時代、梅棹先生は雲の上の人で、2度か3度、講演会などで目にしただけだが、圧倒的な語りに魅了された。 梅棹は「あるきながら、かんがえる」という。彼が世界をどう見て、どのような調査をしていたのか。彼ののこした文章と... -
「真宗移民」の歴史から何を学ぶか 報徳仕法の原動力にもなった宗教移民の研究を眺望する<太田浩史>
福島第一原発事故の取材で訪れた南相馬市は、外の人も受け入れる気さくな人が多かった。昔から外からの人をうけいれてきたからだという。 江戸末期には間引きなどによる人口減少で荒廃していたムラを、北陸や新潟からの「真宗移民」が再生させた歴史が... -
「帝国」ロシアの地政学<小泉悠>
■東京堂出版20230423 ロシアにとって、世界大戦の記憶は、ナチズムという悪に対する勝利であり、全人類的な貢献を果たしたのだというアイデンティティーの源泉になっている。 ソ連崩壊によって民族の分布と国境線が一致しなくなり、地政学とアイデンテ... -
ウクライナ戦争の200日<小泉悠>
■文春新書20230420 小泉悠氏のウクライナについての対談。それぞれの対談で、印象にのこった部分を抜粋。 ▽東浩紀とは日本の防衛について ロシアの軍事思想は、守るためには相手の攻撃能力を先にたたくという「アクティブ・ディフェンス」の発想だから、... -
森のめぐみ 熊野の四季を生きる<宇江敏勝>
■20230405岩波新書 大塔山は、古座川町、熊野川町、本宮町、大塔村の4町村(平成の合併以前)にまたがり、ふもとは照葉樹林、頂上ちかくは東北の山のようなブナ林が広がる。熊野の自然の多様性を象徴するような山だ。 山仕事をしながら山民について多く... -
最後の人 詩人・高群逸枝<石牟礼道子>
■藤原書店202303 高群逸枝と石牟礼道子は出会ってはいない。でも石牟礼は高群を母か姉のように思い、逸枝とその夫の橋本憲三は石牟礼のことを後継者のようにかんじていた。 逸枝が亡くなった2年後の1966年、道子は逸枝と憲三の住まいだった東京・世田谷... -
新版 死を想う われらも終には仏なり<石牟礼道子、伊藤比呂美>
■平凡社新書 20230319 シャーマンのような石牟礼と、娘世代の詩人伊藤の「死」をめぐる対談。 いつも「死」の隣にいて、死のうとする人によりそい、自らも自殺未遂をくりかえした石牟礼だからこそ、伊藤の「死」についての直球の疑問に真正面からこた... -
評伝・石牟礼道子 渚に立つひと<米本浩二>
■新潮文庫20230317 はじめは新聞記者の文章だなぁと思って読みはじめた。ところがしだいに石牟礼道子や渡辺京二が乗り移ったように現実と幻の境をふみこえたり、もどったりする。 正気と狂気、この世とあの世、前近代と近代、陸と海のあいだの渚。 合... -
黒神<大重潤一郎監督>
「久髙オデッセイ」をつくった監督の処女作は一度見てみたかった。 舞台は桜島の集落。おばあさんがサツマイモの畝をたて、貧しい夫婦が山刀をふるって山をおおう雑木の藪をひたすら伐採する。若い妻が櫓をこぎ、夫が漁をする。 映像にひきこまれるの... -
ドキュメンタリー「ただいま、つなかん」
■20230307 気仙沼市の唐桑半島にある鮪立(しびたち)という漁村はマグロ漁で繁栄し、「唐桑御殿」とよばれる豪勢な屋敷がたちならんだ。そんな豊かな漁村は2011年3月11日の東日本大震災の津波で壊滅する。 主人公の菅野一代さんの唐桑御殿も「全壊」... -
協同の系譜 一楽照雄<佐賀郁朗>2303
■日本農業新聞 農協の中枢にいて政治とも密接なつながりもっていた一楽照雄がなぜ、保守よりも革新に近い、ある意味で農協と敵対する有機農業研究会をたちあげたのか、以前から不思議だった。 この連載は、戦前から「協同組合主義」を体現し、協同組合... -
巡礼の家<天童荒太>
■20230225 舞台は道後温泉の宿「さぎのや」。 水害で兄以外の家族を亡くした15歳の雛歩は、お世話になっていたおじの家の認知症のおじいさんを「殺して」家を飛び出し、山でたおれているところを「さぎのや」のおかみに救われる。 さぎのやは、帰る場所... -
変異する資本主義<中野剛志>
■ダイヤモンド社20230222 市場にまかせず国内産業の充実をはかるべきというのは納得できるが、強大な権威主義国家である中国に対抗するため軍事力を増強するべきだという論には首をひねった。 いまの日本の政治はこの本の流れにのろうとしているのでは... -
動的平衡3 チャンスは準備された心にのみ降り立つ<福岡伸一>
■小学館新書2023021 生命は、たえずみずからをこわし、常につくりかえることでエントロピー増大の法則に抗う動的システムであるとする「動的平衡」を提唱した著者が、生物学や医学、芸術についてまで論じている。その幅の広さにおどろく。でも芸術論より... -
ピカソとその時代<国立国際美術館>
ドイツのベルリン国立ベルクグリューン美術館のコレクションをあつめた「ピカソとその時代」を見に行った。ほとんどの展示品が撮影可というのがすごい。 子どものころピカソの絵は「へたくそ」の代名詞だった。「うわー、なにこれ、ピカソの絵みたい!... -
死は存在しない 最先端量子科学が示す新たな仮説<田坂広志>
■光文社新書230213 最先端の量子論では、過去も現在も未来もゆれうごいていて絶対的な「今」もない。「物」も実在せず「出来事」だけがあるという。「時間は存在しない」(カルロ・ロヴェッリ)にそう書かれていた。だとしたら「死」すらも存在しないので... -
ナチスのキッチン「食べること」の環境史<藤原辰史>
■共和国20230212 日本の公団団地やマンションのダイニングキッチンや「システムキッチン」は、20世紀前半のドイツの合理的キッチンがモデルという。そのキッチンはアウトバーンと同様、ナチスがつくったものだったというストーリーかと思ったらむしろ逆だ... -
消えゆく“ニッポン”の記録~民俗学者・神崎宣武~
■ETV 230212 宮本常一の弟子だった民俗学者の神崎宣武さんは、郷里の岡山・美星町の宇佐八幡神社で神主をしながら東京を拠点に全国の民俗を調査している。東京の花柳界やテキヤなども調査し、これまでに60冊以上の本を書いてきた。 神崎さんという民... -
時間は存在しない<カルロ・ロヴェッリ、富永星訳>
■NHK出版 時間や空間の大きさは絶対的であるというニュートン力学は、アインシュタインの相対性理論によってくつがえされた、ということは知っていた。では時間とはなにか? 生と死とはなんなのか? 「死後の世界」をどう解き明かすのか? この本... -
イニシェリン島の精霊(映画)
舞台はアイルランドののどかな離島。 人がよいけどさえない主人公はある日、音楽家の親友に「おまえみたいに退屈なやつとは金輪際つきあいたくない」と絶交される。 パブで毎日顔をあわせるが、いっさい会話を拒まれる。無理に話しかけると、「今後お... -
映画「糸」(2020年)
中島みゆきの「糸」が好きだから、それをタイトルにとった映画をアマゾンで見た。 平成元年生まれの漣と葵は13歳で出会って恋をするが、葵は母の恋人の暴力をうけていた。漣は葵と駆け落ちをこころみるが、警察に保護されて引き離されてしまう。 8年後... -
三木清 人生論ノート 孤独は知性である<岸見一郎>
■NHK出版230114「人生論ノート」は高校から大学にかけて何度か読んだが、理解しきれなかった。 三木清の出身地、龍野を訪れたのを機に、今度は解説書をよんでみることにした。 三木は結婚翌年の1930年に共産党に資金提供したとして逮捕されて法政大教授... -
昭和・東京・食べある記<森まゆみ>
■朝日新書 230105 東京のまんなかでそだった筆者だから書けた本。子どものころつれていってもらった店がいくつも登場する。 神田の藪そばは有名だけど、浅草の藪、池之端の藪、アメ横の上野の藪もあるとは知らなかった。 浅草の食通通りにある「ぱいち... -
月よわたしを唄わせて かくれ発達障害と共に37年を駈けぬけた「うたうたいのえ」の生と死<あする恵子>
■インパクト出版会20230113 ガラスのような感性をもち、37歳であの世にいってしまった「うたうたい」のえさんの足跡を、おなじ感性をもった18歳年上の母がたどったストーリー。 ガラスのような感性が全編にはりつめていて、緊張を解けないのだけど、なぜ...