■20230628
95歳の歌人、馬場あき子の1年と、これまでの歩みを紹介するドキュメンタリー。
40年以上、朝日歌壇の選者をつづけているから、一度だけお目にかかったことがあった。
短歌は、同じ朝日歌壇の選者の永田和宏さんの作品にはまり、そこから馬場さんの歌にも目を通すようになった。映画のタイトルになった歌は「老い」へとすすむ時間はやさの、桜と人間との落差を表現していて衝撃をうけた記憶がある。
さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり
2週間に1度、2000句のなかから10句をえらぶ。まずは下の句を見て判断し、その後、上の句をみるという。
よい句とは「今」をうたっているもので、そこに自分のこれまでの経験や知識、哲学などがかかわるもの、という。
上の句と下の句のあいだには、落差、あるいは飛翔が必要なのだと、馬場の歌をよむとよくわかる。
若いころは夫の影響で教員組合の婦人部長をつとめ、安保闘争やベトナム反戦運動にもかかわった。短歌や能という伝統芸術のすぐ近くに政治がある時代だった。
政治から古典、昆虫の生態まで、幅広い題材をあつかう感性は彼女の生き方の幅広さを反映しているのだろう。
父母を亡くし、夫を93歳で亡くし、「私をおいてすべていなくなってしまった。虚無感につつまれるんです」。
それでも歌をつくりつづける。
彼女のエネルギーにふれると、私も朝日歌壇に応募してみようかなあと思ってしまう。口だけだけど。
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