reizaru– Author –
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戦雲-いくさふむ<三上智恵監督>
ぼくは石垣島には5回、宮古島も1度旅行した。最後は2015年だった。迷彩服の米軍人が闊歩する沖縄本島とちがって、平和で明るい島だった。 ところが2016年ごろから、自衛隊の進出がはじまった。 石垣島の聖地である於茂登岳のふもとにミサイ... -
日本の農村 農村社会学に見る東西南北<細谷昂>
■ちくま新書202403 南北朝時代以来つづいてきたとされる「村」が今、消えようとしている。能登半島地震は「村の終わりのはじまり」ではないかと思える。 「村」はそもそもどうやって生まれ、存続してきたのか? そんな疑問をもって本書を手にした。学者... -
記者たち 多数になびく社会のなかで20240306
MBS斉加尚代さんが制作した番組。 沖縄の新聞記者の明さんは、東京に異動して防衛省担当になり、全国紙の記者は与党にばかり近づいているとかんじる。 毎日新聞の小山美砂記者は広島の被爆者を追ってきた。「小山さんの記事はあついけど、中立公平じゃ... -
学ぶことを学ぶ<里見実>
■太郎次郎社20231226 テーラーシステムとフォード・システムの特徴は、労働過程における「構想と実行の分離」にある。働く者の「構想する」権利を拒むことによって、巨大な生産力を実現してきた。それによって、生き甲斐と自己実現につながっていたはずの... -
巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ<竹内早希子>
■岩波ジュニア新書 20240112 湯浅の醤油蔵でも、那智勝浦の酢の蔵でも「この木桶が壊れたら、もう新調できない。堺の業者しか残っていない」と聞いていた。 ところが、福島県の郡山の酒蔵で巨大な木桶を新調していた。それが小豆島で習ったという。いつ... -
まちで生きる、まちが変わる つくば自立生活センターほにゃらの挑戦<柴田大輔>
■夕書房 20240221 たんなる「障害者福祉の本」ではない。自立生活に挑む障害者と、地域住民と、地域社会のダイナミックで感動的な成長物語だ。 かつて重度障害者は「就学免除」という名目で学校に通う権利を奪われていた。養護学校に行けるようになっ... -
コモンの「自治」論<斉藤幸平・松本卓也編>
■集英社 20240124 「人新世」の危機が深まれば、市場は効率的だという新自由主義の楽観的な考えは終わりを告げる。コロナ禍でのロックダウンのように、慢性的な緊急事態に対処するため、大きな政治権力が要請され「戦時経済」が生まれ、政治がトップダウ... -
眠れないほどおもしろい紫式部日記<板野博行>20240128
■王様文庫 中宮彰子につかえていた和泉式部が語り手として、同僚の紫式部や、彰子のライバルの中宮定子とその下の清少納言らついても解説するという組み立て。 中宮定子が清少納言らをあつめて最高の文化サロンをつくっていたが、道長のごりおしで彰子も... -
映画「風の島」<大重潤一郎監督>
■20240115 1983年に沖縄の陶芸家・大嶺實清氏が西表島の沖にある無人島・新城島(パナリ)でつくられていた土器「パナリ焼」を復活させた際の記録映画。 パナリ島はシーカヤックのツアーで訪ねたことがあったが、無人島に古い土器文化があったことなどは... -
翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~
■映画 240110 昨年試写会で見たけど、荒唐無稽すぎて感想を書けなかった。だからもう一度見た。 埼玉県民は「どちらの出身ですか?」と聞かれると「東京のほうです」と答える。滋賀県民は「京都の近く」と答える。共通する卑屈な県民性をもとに「埼玉解... -
人は死んだらどこへ行けばいいのか 現代の彼岸を歩く<佐藤弘夫>
■興山舎20231201 人類の歴史において、死後世界は当然とされてきた。その伝統が壊れつつる。「直葬」がはやり、お盆を先祖との対話の時と考える人は少数派だ。これはおそらく、南北朝以来つづいた日本のムラの衰退と軌を一にしているのではないか。 この... -
居住福祉の諸相<岡本祥浩・野口定久編著>
■東信堂20231212 故早川和男氏が提唱した「居住福祉」は、従来の福祉サービスや生活保護などの福祉と異なり、その前に「安心して暮らせる」ことが人間の幸せの基盤になると説いた。そんな「居住福祉」をになう「居住福祉資源」として、住むための家だけで... -
民俗知は可能か<赤坂憲雄>
■春秋社 20231119 民俗学には興味があるけど、それが今に生きる知恵としてどういう形で生かせるのか、と疑問に思ってきた。この題名を見たら、買うしかなかった。つい最近亡くなった石牟礼道子から、日本の民俗学の原点である柳田国男まで、さかのぼって... -
神とヒトがおなじ地平にいるヒンドゥーの魅力−−特別展「交感する神と人」ヒンドゥー神像の世界
ヒンドゥー教は「カースト」と直結して、厳格な身分制度をささえた宗教というイメージだ。 大学時代にインドをおとずれたときは、その「異界」ぶりに圧倒され、興奮と緊張の旅だった。でも短期間の滞在ではヒンドゥーの「差別」のイメージはぬぐえなか... -
ETV特集 個人的な大江健三郎
大江健三郎の小説は読んでいたつもりだったけど、なーんもわかってなかったなぁと思わせられた。若者の性と残忍さをえがいた初期作品から、原爆被害者や障がいをもつ息子を題材にした小説へ……という流れを、それぞれの作品に感動した人の証言をもとにえ... -
四国遍路の世界<愛媛大学四国遍路・世界巡礼研究センター編>
■ちくま新書20231025 遍路道は世界遺産登録をめざしている。私が愛媛にいた2002年ごろからその動きはあったが、「ずっと先の話」と思われてきた。だが最近、外国人の遍路が急増し、世界の注目があつまってきたという。うれしいようなかなしいような……。 ... -
日本人の魂の原郷 沖縄久高島<比嘉康雄>
■集英社新書202310 久高島は、隆起珊瑚礁の小島で最高標高は17.1メートルしかない。畑地には石灰岩が露出し、農耕に適していない。水は、雨水をサンゴ石灰岩が吸収し、岩のあいだからしみでる水をためた井泉(西海岸沿いに9カ所、ほかに2カ所)をつかっ... -
映画「福田村事件」<森達也監督>
1923(大正12)年の関東大震災直後の9月6日、千葉県福田村で、在郷軍人会にあおられた村民たちが、香川の被差別部落からきた薬の行商人9人を殺害した事件をもとに、森達也監督がつくりだした活劇。 朝鮮での教員時代に朝鮮人虐殺現場にかかわって傷つい... -
火の国の女の日記(上下)<高群逸枝>
■講談社文庫20230924 高群逸枝の自叙伝。途中で亡くなったため、48歳から亡くなる70歳までは夫の橋本憲三が逸枝の日記などをもとにまとめている。「最後の人」の橋本は妻につくした聖人のようだが、この本でははじめ清らかな逸枝を翻弄するエゴイストとし... -
田中正造 21世紀への思想人<小松裕(ひろし)>
■筑摩書房20230816 水俣病の原田正純さん、震災被災地の農業をささえた新潟大の野中教授ら、現場からの発想と行動を徹底した人とおなじにおいがする筆者だ。そして、田中正造こそがその原点であると位置づけているようだ。 正造は伊藤博文とおなじ1841... -
光りの島<大重潤一郞監督>
劇映画とドキュメンタリー中間の映画だ。登場人物は上条恒彦だけ。 監督が10歳のときに亡くなった母が「死んだらなーんもならん」と言い残した。その言葉をそのままうけとめてしまってよいのか。どう解釈してよいのか。今のぼくでも迷う。 西表島の... -
通史・足尾鉱毒事件1877〜1984<東海林吉郎・菅井益郎>
■世織書房20230801 田中正造記念館のスタッフに「足尾銅山鉱毒の全体像を知るのにおすすめ」といわれて購入した。1984年出版だが東日本大震災後の2014年に復刊した。 足尾銅山の開発は1610年ごろはじまり、銅の5分の4は幕府御用、残りはオランダに輸出さ... -
水底の歌 柿本人麿論 上下<梅原猛>
■新潮文庫 20230727 松尾芭蕉とならぶ日本最大の詩人である柿本人麿は長らく、島根県益田市の高津川河口の鴨島で死んだとされてきた。だが、そんな辺鄙な島で国府の役人が死ぬわけがない、と、斎藤茂吉は、海辺ではなく江の川上流の湯抱で人麿は死んだと... -
原郷ニライカナイへ~比嘉康雄の魂(2001年)<大重潤一郎監督>
余命を告げられていた写真家の比嘉康雄さんが、大重監督にたのんで「遺言」として撮ってもらった作品。この映画をきっかけに大重監督は久高島にすみつき、「久髙オデッセイ」三部作につながった。 映画は比嘉さんが亡くなる半月前に久高島をおとずれる... -
山に生きる 福島・阿武隈 シイタケと原木と芽吹きと<鈴木久美子・本橋成一>
■彩流社202307 東京新聞の女性記者が、阿武隈山地の里山の人々と、稀有な写真家の導きで成長する物語だ。 舞台は福島県の阿武隈山地にある旧都路村(2005年から田村市)。 都路は、全国でも有数のシイタケ原木の産地だった。「シイタケを栽培するため... -
「君たちはどう生きるか<宮崎駿>
■映画20230718 吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」は小学校のときから何度も読んだ。 主人公のコペルくんとおじさんが語り合い、人とつながりながら自律した人間として生きる道をさぐるという小説を、アニメで描けるのだろうか? そう思って観賞した... -
出雲と大和 古代国家の原像をたずねて<村井康彦>
■岩波新書20230711 古典や神社の文書などの引用が多くて、読みやすいとはいえないけれど、中身は刺激的だった。 奈良盆地の、三輪山の大神神社や葛城の高鴨神社といった神社の祭神が出雲系で、丹波や富山、吉備、「国譲り」以前の伊勢にまで出雲系の信仰... -
二上山<田中日佐夫>
■学生社20230629 二上山と、中将姫伝説のある當麻寺、大津皇子について知りたくて購入した。1967年が初版だが、1999年に再版し、解説をくわえている。 二上山の西側、大阪府太子町の「山田」一帯には、敏達天皇、孝徳天皇、小野妹子、推古天皇、用明... -
神々の体系<上山春平>中公新書
■中公新書20230625 1972年の古い本。二上山や三輪山が信仰の拠点として生きていた飛鳥から奈良時代、当時の人々はなにを信じて生きていたのか知りたくなった。「神々の体系」というタイトルがぴったりに思えて入手した。 信仰の中身を描いたものではなく... -
幾春かけて老いゆかん 歌人 馬場あき子の日々<田代裕監督>
■20230628 95歳の歌人、馬場あき子の1年と、これまでの歩みを紹介するドキュメンタリー。 40年以上、朝日歌壇の選者をつづけているから、一度だけお目にかかったことがあった。 短歌は、同じ朝日歌壇の選者の永田和宏さんの作品にはまり、そこから馬...