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メディアの地域貢献-「公共性」実現に向けて<早稲田大学メディア文化研究所編>

■メディアの地域貢献-「公共性」実現に向けて<早稲田大学メディア文化研究所編>一芸社 20160419

 一覧性に富む新聞は、記事を読んでいるうちに、全く予期せぬ出会いが生まれるというところが魅力だ。アマゾンと比較したときの書店の魅力もそこにある。
 でもその魅力を生かして新聞の再生を図るには地域とのつながりが必要なはずだ。そのヒントを求めてこの本を手に取った。研究者の論文はつまらないが、参考になることもあった。 
 NPOや住民との協働による報道は、シビック・ジャーナリズムとかパブリックジャーナリズムと呼ばれており、そのさきがけが河北新報だという。地域に暮らす読者が「集いの場」を共有できる地域メディアとして新聞を再創造する運動と位置づけている。河北新報や佐賀新聞のとりくみを学んで、ニュースサイトにSNSを導入する地方紙が増えた。
 毎日新聞埼玉版の「地域イノベーション面」では、市民記者と新聞社の交流が生まれ、市民記者が地域の核となって活動する例も出てきている。徳島新聞「移動編集局」は1カ月間複数の記者が一つの地域に密着し、シンポジウムやイベントも地域内で開き、住民とともに今後のまちのあり方も考えているという。

 ミニコミやフリーペーパーの歴史も興味深い。学生運動や市民運動の流れではじまり、「タウン紙」が生まれ、さらにサンケイリビングのような新聞社系ミニコミへ。90年前後からは「Hot Pepper」などが人気を呼んだ。次第に消費にからめとられていく様子がよくわかる。でもその次の段階は、消費社会のなかでバラバラにされてしまった人を結びつけるメディアが必要になるのではないか、と、想像できる。
 顔を見てあいさつができて、いざという時に駆けつけることができる、という関係性を取り戻すためにミニコミを復活させた新聞販売店の取り組みは興味深かった。

 新聞とインターネットの歴史も知っているようで知らなかった。
 新聞界で最初にサイトを開設したのは、朝日新聞出版局の「OPENDOORS」で1995年3月と言われている。パソコン通信を使って有料で情報発信をしていた。2000年代に入り、ブロードバンドが普及すると、ネットがニュースの充実をはかり、テレビに対抗して速報性の復権をめざすようになった。だがその後、「ネットが新たなジャーナリズムを創造するのか」という問いは退き、ニュースサイトは、本紙読者を獲得する手段としてウェブ・コミュニティの形成へ軸足を移していった。

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▽52 宮城の地域SNS「ふらっと」。地域に密着している分だけ、現実に人が出会い、アクションに結びつく可能性が高い。…従来のマスメディア的センスでは、とてもこなせない。担当者自身がツールを使いこなすことにおもしろさを感じなければ何も始まらない。(まずは会社のツイッターをのっとれ、と、たいちゃんが言っていたな〓)
▽65 ミニコミの発生は1960年代。80年代になると学生運動や市民運動の退潮にともない、ミニコミが姿を消し、「タウン紙」時代へ。さらに新聞社系ミニコミ。
 2000年代になると、フリーペーパーの台頭。ミニコミとは似て異なる。フリーは、広告収入で制作費を賄う。民放のテレビ局と同じ事業モデル。
 ミニコミの発行経費が削られ、「地域へのサービス」「地域情報の補完」という役割よりも、収益事業としての役割を期待されるようになっていく。
▽75 近所づきあいがなくなり、「マス」と「パーソナル」の間に位置する「ミニ」が必要とされるようになってきた。顔を見てあいさつができて、いざというときに駆けつけることができる、という関係性を取り戻すためにミニコミを復活させたいと考えた。販売店による復活。
▽83 フリーペーパー 第1期は、1940年創刊の「芦屋倶楽部」がもっとも古く、59年には「団地新聞」などが登場。
 第2期は1971年に「リビング新聞」「東京新聞ショッパー」創刊。
 第3期は1990年前後以降。「Hot Pepper」や…
▽89 市報の内容を一新してPR誌につくりかえる。その例が、サンケイリビング新聞社と横浜市による官民初の協働編集媒体「ハマジン」。2002年に当選した中田宏。
▽97 今なお勢いが衰えない「リビング熊本」。たびたび話題になる気鋭のフリーペーパー「美少女図鑑」。いずれも「地域」の「女性」がターゲット。…地域のメディアとしての可能性。
▽沖縄メディア
▽112 デジタル放送への移行が大きな負担を生じさせている。
▽117 VOA出力1000キロワットで、琉球放送ラジオなどの5キロワットに比べると、相当強力な電波。スイッチを切ったはずのテレビが火を吹いたり、牛がショック死したり、コンセントにつながなくても電灯がともるという被害。
…米軍は新聞発行を認めず、記者らは焼け残った沖縄の文化遺産を集めて「首里博物館」を建設した。沖縄におけるメディアの社会貢献のはじまり。首里博物館長や館幹部らは「沖縄タイムズ」の1946年の創刊メンバー。
▽126 ケーブルテレビ 日本で最初にはじまったのは1954年の伊香保町とされている。(〓先進的な人がいた?)
▽149 コミュニティ放送局 20秒スポット広告は、県域放送では10万円程度だが、コミュニティ放送なら3000円程度。
 …株主の意向より、地元や市役所の意向に弱い。地元の企業でもあり、地元の政治にも左右される。多くのコミュニティ放送は、市役所の広報の下請け企業のようになっている。そのジレンマ。
▽ICTで自治を活性化
158 労働組合や町内会などの中間団体が弱まり、人々は孤立化・原子化しやすい傾向にある。各コミュニティを補完する機能としてICTがひとつの鍵となるだろう。〓(ツイッターの活用〓)
165 地方自治体による地域SNSは、八代市の「ごろっとやっちろ」がさきがけといわれている。
 …SNSは「6次の隔たり」仮説が理論が下地になっているといわれる。「150人の法則」平均150人がリアルな顔の見える社会関係を営むことのできる最大の個人数という説。
 …地域SNSのサイト平均の参加者数は1000人程度。800人以下が全体の6割。
▽新聞の危機とインターネット
174 新聞のニュースサイトでは、ユーザーを自社サイトの外へ誘うことはされなかった。さらに、双方向機能がきわめて不十分だった。 
 …諸外国の新聞によく見られるような、記事末尾に記者のメールアドレスをつけて意見交換を図るような流れにはならなかった。
 …双方向で建設的な議論を引き起こすために活用されているのは、朝日新聞の「アスパラクラブ」のような読者会員制クラブ。匿名による無責任な発言を効果的に排除し…という試み。しかし、こうした囲い込み戦略は投稿者が限られ…
 182 2008年に朝日・日経・読売の3紙によるポータルニュースサイト「あらたにす」がスタート。インターネットの技術的可能性に目を向けず、3紙比較によって本紙を補完する、紙の新聞のショーウインドウにすぎない。
 ニュースサイトとは呼べない「あらたにす」誕生の意味は、朝日と読売が、本紙販売という従来のビジネスモデルを堅持する市政を改めて示したことにある。両者は、紙面の15段制から12段制への改革で規格の共通化をすすめ、販売網の協力を試み…
 毎日とサンケイは、すでにネットへの傾斜を強めている。毎日は全国紙の先陣を切って「JamJam」を開設してきたが、2007年の「毎日jp」開設で、より柔軟なネット展開を行い、他社コンテンツによる情報提供の比率も高まっている。産経新聞は、よりエンターテイメント色の強い「イザ!」で独自性を「高めている。
 183 佐賀新聞「ひびの」や河北新報「ふらっと」などを先頭に、ニュースサイトのSNSを導入する地方紙が増えた。地方紙がそろってニュースサイトの質を高められた背景には共同通信によるプラットフォーム「Flash24」整備がある。共同通信が主導して06年にスタートした「47NEWS」
 185 つながるジャーナリズム 「シビック・ジャーナリズム」運動を研究した河北新報の寺島英弥記者が提唱。地域に暮らす読者がともにわかり合える言葉で「集いの場」を共有できる地域メディアとして、新聞を再創造する運動の構想。〓

▽190 北山村のマーケティング 日本で最初に「楽天市場」に出店した自治体。
 1871年、奈良県に属するところを村民の意見で和歌山に編入された。主産業だった林業で、川下の新宮と強く結びついていたから。〓
 じゃばら=他地方では栽培されていない「幻の果実」
 194 2000年12月、2年以内に「ジャバラ」を軌道に乗せられなかった場合は、じゃばら産業から完全撤退することを決定。01年に楽天市場出店。「花粉症に効果がある」という話に着目して、ネット上で春先にサンプル商品プレゼントキャンペーンを実施。見込み客のメールなどの顧客情報を持つことがネットマーケティングの成功の鍵。
 196「村ぶろ」登録制のブログ。ユーザーはバーチャル村民として登録され、一定のブログスペースを自由につかえる。このメディアもじゃばら販売に結びつく。
 08年、じゃばら果汁が花粉症に効果があることが実証された。09年には独自のECサイト。そのインフラも独自開発。それらを保持するサーバーは他の自治体に有償でASPサービスとして提供されている。
▽202 ガバナンス論(知っているようで知らない言葉)
 行政学の分野において、行政単独では政策目的が達成できなくなってきているため、さまざまな主体との相互依存・連携を図ることにより、政策をより効果的に実施していこうとする「ガバナンス論」が活発に議論されている。
 もともと、国際社会で、主権国家単独では有効な対応をとりえない制約があるなか、国際機関、NGOなどのアクターとの相互依存・連携によって対応を図る「グローバル・ガバナンス論」として発展してきたが、今では、国内や地域レベルにおいても、行政機関以外の多様なアクターを想定した枠組みにおいて分析がなされていている。(そういうもんなんだ〓)
…ガバメントは、「政府が上の立場から行う法的拘束力のある統治システム」であるのに対し、ガバナンスは「組織や社会に関与するメンバーが主体的に関与を行う、意志決定・合意形成のシステム」ととらえられる。
…ガバナンス論の最大の特徴は、多様な主体の自発的意思に基づいた「協働」による課題解決実現をめざしていることにある。
▽「協働広報」犬山市の「広報いぬやま」はNPOに編集委託。横浜市の「ハマジン」はサンケイリビングと協力して発行。(〓たんなる民間委託、とは言わないのか? これがガバナンス?)
▽自治体の広報戦略
▽222 シティ・アイデンティティ
 キャッチフレーズは、単純な多数決で決め手はいけない。印象に残るフレーズは主張性がこめられているから、反対の意見も多いことになる。合議制では、反対意見の出ない総花的なものに収束してしまう。キャッチフレーズ選定の視点。
・他市町村との差別化を図れるか フレーズのなかに、当市ならではの特色を入れる
・当市がその内容を約束しうるものか 「家族みんなで楽しめる施設がある」「パワースポットがある」といったファクトがあってはじめて上のフレーズが生きる。
…宮崎マンゴーを東国原知事がPRし知名度が一気に上がった。
▽232 多文化社会化
 外国人が集住するのは生野区(23%)、新宿区(10%)など大都市が多かった。最近は地方都市へ。群馬県大泉町(16%)、美濃加茂市、磐田市、鈴鹿市も5~10%を超える。
▽256 毎日新聞埼玉版に「地域イノベーション面」。市民記者と新聞社との交流、市民記者が地域の核となって活動するなどの効果も。
▽259 徳島新聞「移動編集局」1カ月間複数の記者が一つの地域に密着し、集中的に紙面化する。シンポジウムやイベントも地域内で開く。住民とともに、今後のまちのあり方も考える。

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