■街場の五輪論<内田樹、小田嶋隆、平川克美>朝日新聞出版
いったん招致が決まると、五輪に異論を唱えるのが難しくなっている。一時期の大阪では、橋下に対して、地元の学者が反対できなくなった。
戦前を見ても、好戦的な世論が醸成されることそのものよりも、世間の大勢に反対するタイプの世論が抑圧されていく構造にこそ問題があった。「内心ではおかしいと思ってるんだけど」という声が出しにくくなる。それと同じことが起きている。
そして、東京五輪という期限は、福島の除染などの汚染地対策をやめ、汚染地を切り捨てる口実になるのではないかと予想する。
それなりにおもしろかった。
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▽13 橋下批判を控える地元の学者「仕返しが怖い」。五輪招致にも同様の無言の同調圧力。世論の中で孤立して無用のバッシングを浴びたくないという恐怖心。
▽24 「お・も・て・な・し」の薄気味悪さ。
▽27「状況はコントロールされています」現実には汚染水がもれているのに、そこを「コントロールされているというなら、わかっていてもらしているんですね」と突っ込んで聞いた人がいない。
▽35 「東京だったらテロ対策をしなくていい…」と考えたはずなのに、招致派は、日本は平和憲法によって安全が確保されており、それが招致において決定的な要素になったという事実は絶対に口にしない。…招致が成功した最大の理由は、東京が安全な都市だから。
▽75 60年代の漫画だと、空き地に土管がある風景が描かれている。(〓たしかに土管は遊び場)
オリンピックのころを境に傷痍軍人がいなくなった。
あのときショックだったのは日本橋の上に首都高速が通ったこと。どう考えても異常でしょう?
▽89 「苦情メール」の宛先として、メディアに直接文句いっても効果がないから、「スポンサーに電話しよう」とか、へんに洗練されてきている。
▽103 反対する気持ちはわかるけど、口に出すと面倒なことになるよ」と、誰もが周りを見回してから発言するようになる。…問題は好戦的な世論が醸成されることそのものよりも、世間の大勢に反対するタイプの世論が抑圧されていく構造にあった。
▽111 東京五輪のときの子どもたちは「金メダル」に夢中。金メダルのチョコ、学校でも金メダルが与えられる。…昭和の子どもたちは、祭りの縁日で色つきのヒヨコをつかまされたのと同じタイプの記憶を、あの五輪のマークに関して、山ほど持っている。
▽124 「汚染地を捨てる」という政治決断をするためにも、オリンピック招致は追い風になった。…原発処理は、常にオリンピックの期日を基準にして動くと思うよ。…もう時間がない、しょうがないから押し入れにゴミを全部突っ込んで、それでお客さんをおもてなしする。福島に関してはそういう世論形成になっていくと思うね。
▽146「御国のため」というようなことを言う人間は、実際にはどんな共同体に対しても責任を果たさない。責任というのは、顔の見える親族や地域共同体に対してだけ果たしうるものだから。「御国のため」という反論しがたい大義名分を掲げてきて、あれこれと指図がましいことを言うやつらを絶対に信用するな。そういうメッセージが「昭和残侠伝」にこめられていた。
▽165 日本から出てくる「よきもの」というのは、お役人とか国家プロジェクトとはまったく関係ない「トキワ荘」の四畳半みたいな世界から出てくる。…国家プロジェクトなんていって、お役人とか政治家とか電通主導でやることは、絶対はずすんですよ。長野オリンピックの閉会式の恥ずかしさってらもう…「君たちのふるさとはどこお?」「地球!」って答えさせて「うさぎおーいし」って歌う。
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