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内部被曝 矢ヶ崎克馬 守田敏也

■内部被曝 矢ヶ崎克馬 守田敏也 岩波ブックレット 20120501
 核兵器のためにウランを濃縮するとつくりすぎてしまう。かといって工場を停止すると再稼働に時間がかかる。つくりすぎる濃縮ウランを消費するために原子力発電は生まれた。原発核兵器と密接につながっていたのだ。
 アメリカの核戦略のもとで、広島・長崎では内部被爆による被害がなかったことにされた。その流れのなかで、国際放射線防護委員会(ICRP)の被爆評価は内部被爆を無視することになった。ICRPの基準では、放射線のエネルギーだけで計るから、内部被爆による局所への高密度な分子切断を評価できないのだ。
 ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)は、内部被曝は外部被曝の平均600倍危険だとし、1945年から89年までに放射線により命を失った人の数を6500万人と推計する。ちなみにICRPの基準で試算すると犠牲者の数は117万人になる。
 広島・長崎の原爆の5年後には小児がんの死亡率が3倍になり、米ソの大規模な核実験の5年後ごとに数値が上がり1968年には戦前の7倍になった。この数値は大気中核実験が禁止されて5年ほどたって下降に転じている。チェルノブイリ事故後でも子どもの甲状腺の病気が5年後に急上昇していた。そしてICRPやWHOは「放射線起因だとは認められない」としてきた。福島の5年後も同じことが起き、被害を受けても「あなたは被爆などしていない」と切り捨てられる可能性が高いという。
 だから今からでも、子どもの疎開を含む被爆回避措置を全力をあげて実施することが必要であり、自主避難が「権利」と位置づけ、経費は政府に払わせることが大事なのだという。

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▽4 鳥島射爆場で劣化ウラン弾を実弾射撃訓練。放射性原子の数で比較すると、広島原爆の25倍、長崎原爆の190倍。……03年、原爆症認定を求める集団訴訟。内部被曝について語ってほしいと熊本訴訟団の板井優弁護団長から依頼される。
▽6 国際放射線防護委員会ICRPの被曝評価の考え方を体系的に批判したのは日本では私がはじめてでは。
アメリカの核戦略の下、犠牲者隠しのために内部被曝のもとになる放射性のほこりが被爆地になかったことにしてしまった。それで多重ガンなどで苦しんでいる人が「あなたは被曝していません」と言われてきた。
▽7 原発周辺から避難命令がでたとき、大熊町の病院から避難するなかで犠牲者が45人もでた。いざというときに、こういう人たちをどうするか、備えが政府や自治体にはなかった。原発事故への備えがないばかりに、無理な移動を強いられて亡くなった方たちも「安全神話」の犠牲者。
▽8 放射線は体に感じないと言われていますが、(福島で)実は口の中に金属を含んだようないやな感じを味わいました。スリーマイル事故のときも、住民が同じような体験をしたことが報告されていた。
▽9 田圃でいえば共生圏は鋤き返す範囲の20センチぐらいまであるので、上を5センチとっても下に15センチのこってまだなんとかなる。あの時点で対処をすれば多くの農地が再生可能で残された。ところが、政治が手をこまねき、農家が耕作を始めてしまって、土を撹拌してしまった。放射性物質をすきこんでしまった。
▽12 郡山市の吉川一男さんのアドバイス。「農民がどのように主張するのか、どのように放射能汚染と立ち向かうかを見極めることが大切で、知識がある者が、上から目線でこうしないとダメだと言っても、それがただちに力になるとは限らない」「生活している人たちが、生活を通じて、こうしなけりゃならんと感じ、知識あるものの話に耳を傾けない限り、地域は動かない」
最後に必ず付け加える。「開き直って楽天的になり、支え合って、最大防御をしましょう。やるべきことは全部やって、危機を脱出しましょう。……」
▽17 内部被曝のメカニズム 電子を軌道からはじき出す電離作用による分子切断。
分子切断そのものでの破壊効果の危険性。もうひとつ、生命体の修復作用のほうが大きい場合で、再結合が正常におこなわれないとき(異常再結合)の危険性。時間経過したあとで発病する「晩発性の危険」。……低線量被曝と言われる場合、細胞の死滅よりも、放射性微粒子による内部被曝で間違ったつなぎ直しがなされてしまう確率が高い。……さまざまな体調不良や病気の発生につながっていく。免疫力が低下し、いろいろな病気にかかりやすくなる。がんだけに限定して被害を過小評価するのは誤り。
チェルノブイリでは……それぞれの臓器へのセシウム蓄積量と、その部位での疾患に相関関係が見られている。「放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響」
アルファ線、ベータ線、ガンマ線。アルファとガンマは距離は飛ばない。粒ではなく波であるガンマは透過力がある。そのぶん破壊力は小さい。外部被曝で人間に突き刺さるのは、ほぼガンマ線だけ。
▽27 放射線は単純に減っていくのではなく、一時期は放射平衡によって、むしろ多くなってから減りだしていくこともある。
▽29 内部被曝では、外部被曝ではほとんど起こらないアルファ線やベータ線の被曝が生じる。ガンマ線と比べると局所的な被曝であるため、分子切断の範囲が狭く、放射線到達範囲内の被爆線量が非常に大きくなる。高密度な被曝になるため、DNAの二重切断を多く引き起こし、異常再結合をたくさん生じてしまう。放射性物質が体内にある限り、継続して被曝する。
▽31 放射線のリスク評価の国際的権威ICRP すべての被曝を、エネルギーだけで計る「量の大きさ」に単純化してしまう。時間をかけて進行していく身体へのダメージの蓄積も切り捨てる。
放射線の持つエネルギーだけに抽象化しているから、それがどれだけの回数の電離(分子切断)をおこなうかということすら、具体的に考察しない。電離の具体的な分布のようすを捨て去り、平均化・単純化されている。
▽34 局所でおこなわれる高密度な分子切断の現実を無視してしまう。
ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)が、内部被曝を外部被曝の平均で600倍の危険として考えるべきだと指摘している。
▽38 日本の法的被曝限度値は年間1ミリシーベルト。この値では10万人のうち5人が晩発性のがんで亡くなるとされている(高度情報科学技術研究機構HP)
▽41 ICRPの2007年勧告では、1年間の被曝限度となる放射線量を平常時は1ミリシーベルト以下、緊急時は20−100ミリシーベルト、緊急事故後の復旧時は1−20ミリシーベルトと定めている。……ICRPは、日本政府に対して被曝放射線量の限度値を通常の20−100倍に引き上げることを提案。ただし事故後も住民が住み続ける場合は1−20ミリシーベルトを限度とし、長期的には1ミリシーベルト以下をめざすべきだとしている。これをうけて原子力安全委員会は累積被曝量が20ミリシーベルトを超えた地域において防護措置をとるという方針を政府に提言した。
……人の放射線に対する抵抗力は、事故が起こったから20倍にも100倍にもなるはずがない。
▽42 ヨーロッパ放射線リスク委員会ECRRは、1945年から89年までに世界で放射線により命を失った人の数を6500万人と推計。しかしICRPの基準で試算すると117万人になる。内部被曝を勘定に入れるか入れないかのちがい。
▽43 内部被曝過小評価の理由。 ICRPが内部被曝を無視した体系を作り上げてきたのも、核戦略の一環。
▽44 原爆被害の資料を軍管理下におき、被害についてプレスコードによって、報道できなくしてしまった。占領が終わる1952年まで、世界から完全に隠された。
1946年 原爆傷害調査委員会ABCCを発足させた。内部被曝を隠す事が大きな目標として設定された。中性子線とガンマ線だけが被害を与えた放射線だったとして、放射能の影響を爆心地から2キロに限定し、それ以遠の被爆者を認めず、調査の範囲をあらかじめ狭く限定した。
ABCCは、75年から日米合同組織に再編され、放射線影響研究所と名前を変えていまも存続している。
……「死の灰」で広大な地域を放射能汚染し、内部被曝を生み出してしまったことが、そっくり無視された。
▽48 広島・長崎の原爆投下の5年後に小児がんの死亡率が3倍になり、さらにソ連の核実験やアメリカの水爆実験など、大きな核爆発があった5年後ごとに数値が上がって、1968年には、なんと戦前の7倍にまでなっている。この数値は1963年に大気中核実験が禁止されてから5年ほどたって下降に転じている。
……5年後に死亡率が跳ね上がることは、チェルノブイリ事故後、子どもの甲状腺の病気が5年で急上昇したのと一致している。
▽52 核兵器のための濃縮だけを目的にフル稼働すると、たくさんつくりすぎてしまう。工場はひとたび止めると、次に動かすまでかなりの時間がかかる。そのため必要量ができてもおいそれと止めるわけにはいかない。濃縮ウランができすぎてしまう。この矛盾の解決のために、原子力発電で使うことにした。
▽53 チェルノブイリ周辺で健康被害が報道されるたびに、IAEAやWHOなどが医師や調査団を送り込んで「放射線起因だとは認められない」と述べてきた。
広島・長崎でも、家族の多くががんになった被爆者でも「あなたは放射線の被曝などしていない」と切り捨てられてきた。
裁判は19連勝。
内部被曝で苦しみ、さらに「あなたは被曝などしていない」という扱いを受け、踏みにじられる。それを許してはならない。その意味で、いまこそ広島・長崎の経験に学んで歩むべき。
▽56 怒りを胸に、楽天性を保って最大防護を。自主避難も、できるだけ周りの人と声を掛け合い、仲間をもちましょう。その広がりこそ、自分たちを救います。
▽58 「原発なくせ、除染を進めよ、賠償をかちとれ」ばかり。いま住民が苦しんでいることにどう応えるかということを、正面切って取り上げない。
いまからでも、遅すぎることはない。子どもの「疎開」を含む被曝回避措置を全力をあげて実施することが求められます。そのためには自主避難が「権利」とはっきりさせ、経費を政府に払わせていくことが大事。

▽61 食料品放射能限度値
▽62 汚染をまぬがれることができないと判明した地域では、農産物の作付けを停止して、汚染のないところ、少ないところで食料の大増産をおこなうべき。
……「年間1ミリシーベルト」を基準として、それ以上はすべて避難対象にする構えが必要。これを国家として進めることが、長期的観点から、もっとも効率よく国民・住民を内部被曝から救う道。
▽64
「がれき」基本的には東電がすべて責任をとって敷地内に収集するべき。汚染物を拡散させず、汚染されたものの再利用をさせてはならない。
焼却処理をすると、固体の状態のセシウムが液体化、気体化して拡散を生むだけ。セシウムは28度で液体となり680度で気体となる。200度でもかなりセシウムが気化しており、バグフィルターでは無理。
▽65 万が一にそなえて、汚染地の人は髪の毛や爪、乳歯などを保存しておくとよい。
▽70 避難した人が、つらい思いをしている。「あんたの手前勝手な思い込みに子どもを巻込んでいる」と。私は飛び出した人たちは、たいしたものだと思います。あなたたちがいるために、子どもの命が守られているのだよ、というメッセージを私は出し続けなければと思う。

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