■僕は君たちに武器を配りたい 瀧本哲史 講談社 20120330
ほかの誰かと取り換えの効くコモディティになるな、自分しかできないものをもつスペシャリティであれ。当たり前といえば当たり前のことを言っている。
自動車は工作機械の進化によってモジュール化することで、どこでもつくれるコモディティ商品になった。パソコンやアイフォンなども同様だ。メディアの世界も単なる情報トレーダーならばコモディティでしかない。ほかの人には得られない唯一の情報を提供できる人材にならなければ未来はない。
スペシャリティになるには「差異」を生みださなければならないが、差異は生みだされた瞬間から模倣される。企業の栄枯盛衰のサイクルが速まっているのはそのためだ。
閉塞感に覆われた今の社会でどこに差異化の突破口があるのか。
新聞・出版などの落ち込んでいる業界にこそイノベーションのチャンスがあるという。チャンスをものにするには、「ローリスク・ローリターン」の安全策ばかりでなく、自分で管理できる範囲で「ハイリスク・ハイリターン」の投資機会をもたなければならない。ちなみに、コンビニ経営は「ハイリスク・ローリターン」で、サラリーマンは、リスクを他人に丸投げするハイリスクな生き方で、住宅の35年ローンも非常にハイリスクだという。
「ハイリスク・ハイリターン」とはつまり「経営者」の立場に立つことだ。「この会社は伸びる」と思うならばその会社に株主として参加したり、業績連動型のポジションに身を置いたりしなければならない。
一方、学生時代からキャリアプランや社会でのステップアップを考えることは、貧しい想像力経験がつくるプランで未来を拘束するのは愚かだとして、「社会にでて意味を持つのは、ネットにも紙の本にも書いていない自らが動いて夢中になりながら手に入れた知識だけだ」と言う。
我が身を振り返って、自分をどう差異化するかと考えると解答は見えない。ただ「自らが動いて夢中になりながら手に入れた知識」の大切さは実感としてわかる。学生時代の経験もそうだし就職してからの経験もそうだ。「夢中になりながら」とは、自分自身のこだわりで実践した積み重ねのことだ。それは、農村の取材など多少なりともある。それをどうPRし活用すればよいかは見えていないけれど。
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▽26 英語ができるだけで、外国からの旅行者も日本人も仕事につけた。最近は「レアジョブ」などのネットを使った英語学習が登場。フィリピン大学の優秀な学生と、自分が好きなときに会話ができる。
▽33 どのメーカーの商品でも大差がない状態を「コモディティ化」と呼ぶ。コモディティ化した市場では、徹底的に買いたたかれる。
▽40 スペシャリティになるには、これまでの枠組みのなかで努力するのではなく、資本主義の仕組みをよく理解して、どんな要素がコモディティとスペシャリティを分けるのかを熟知すること。
▽67 車はモジュールを組み立てただけでは快適な乗り心地にならない。時間をかけた調整「すりあわせ」が必要だった。だから日本がものづくりで世界を席巻した。だが、工作機械が進歩した今は品質やコストで差をつけられなくなった。
「すりあわせ」は時代遅れ。電気自動車になるとさらに部品点数が減り技術的な障壁が低くなる。iPhoneも中国製だ。
▽78 最近の「婚活」ブームも一過性で、数年後には女性がキャリアを身につけることの大切さが叫ばれるようになるかもしれない。就職も専業主婦も厳しいとなれば、女子学生も自分で自分の道を切り開いていくしかない。
▽91 沖縄はリゾート開発などで雇用が増え、失業率も多少改善されてきている。魅力を打ち出せない大阪がいちばん失業率の高い地域になっている。都道府県レベルの人材流出。
サムスン躍進の理由の一つも、日本のメーカーから、優秀な技術者を高給で引き抜いたから。
▽123 記者クラブの記者も、ただの情報のトレーダーにすぎなかった。もちろん、その情報に付加価値をつけるメディアないしジャーナリストは生き残るだろう。・・・・メディアが現地に人を派遣する意味はさらになくなっていくだろう。メディア関係者こそ、「スペシャリティ」になること、「ほかの人には得られない唯一の情報を提供できる人材」になることが必要となっている。
▽127 人々の新しいライフスタイルや、新たに生まれてきた文化的な潮流を見つけられる人=マーケター かすかな動きを感じ取る感度のよさと、なぜそういう動きが生じてきたのかを正確に推理できる、分析力。さらに売るものは同じでも「ストーリー」や「ブランド」といった、ふわふわした付加価値や違いを作れること。
「差異」は生まれた瞬間から拡散し模倣され、同質化していく。企業の栄枯盛衰のサイクルがかつてないほど速まっているのは、それが大きな理由。
▽132 東大阪の人工衛星開発。「人工衛星を作ることが出来ほど技術力が高い会社が結集している」「しかもみんな、町工場のおっちゃんで人情に厚い人たちだ」というイメージを日本中に知らしめることができたことが、非常に優れたマーケティングだった。
▽135 ポメラの成功。多くの人がほしがる製品ではなく、ごく一部の人たちしか必要とされないが、熱烈にほしがってもらえる商品を作り出したことがヒットの要因。
▽141 ベネトン 多彩な色で差異化。本当は、「服の型紙の種類を極力すくなくしてコストダウンをはかり、流行の色に合わせてあとから染色する」という会社側の都合によるもの。だがそれを「世界の多様性を受け入れる企業」というメッセージとつなげることで受け入れられた。
▽155 ホリエモンの戦略。どの事業もデファクト・スタンダードになれない。そこで、メディアに盛んに露出することで、会社と彼の知名度をひたすら高めた。刺激的な話題を振りまきつづけ、熱狂的なライブドア信者を広げた。そういう情報リテラシーの低い人々に彼はライブドアの株を売った。所得の低い人が多い信者に売るため「株式の100分割」という手法をとった。
目をひきつけるためにより突飛かつ強引な方法をとるしかない。その結果、収監。しかし今現在も、彼のビジネスは同じだ。メルマガを売り、それだけで年間1億円以上売り上げている。
▽158 個人を相手に金融商品を売る会社にとっては、「人数がたくさんいて、なおかつ情報弱者のターゲット層」のほうが効率がよい。FXはまさにそういう金融ビジネスモデルの筆頭。「中産階級向けパチスロ」
▽175 新聞・出版などの構造的苦境。落ち込んでいる業界にこそ、イノベーションのチャンスが眠っている。
▽176 競合相手がないのはだめ。マーケットがないとみなされるから。起業するときは「仮想敵」ともいえる存在がそのマーケットにいることが重要。(しょぼい敵)
アップルの仮想敵はIBMだった。
▽178 将来その会社を叩き潰すために就職する。吉野家でまなび松屋を創業した瓦葺氏。
▽197 優れたリーダーには「自分がすごい」という勘違いが必要。そういう観点では、小泉がいちばんリーダーの素質をもっていた。
謙虚ですばらしい人格をもつ人は、リーダーにはなれない。リーダーはある種「狂気の人」であることが多い。
▽218 グラミンバンクの利率は25ー30パーセントという高さ。しかし、毎週集会を開き、お金の使い方や返済の計画について無償で個別でアドバイスをする。継続的にお金を生みだす具体的な方法を教えることで、借りたお金をもとに、家畜の飼育や竹細工、食料品販売などを営むことができるよう援助する。
村のボスの管理下にある手工業で働いているときは、生きていくだけの賃金をもらって終わりだった。自分が資本を所有することで、できるだけやすく材料を仕入れ、工夫して製品を作り、それを希望する金額で売ることができる。仲介人に商品をタダ同然でもっていかれるのではなく、市場に直接売りにいける。市場にいけば、人々はどんな商品をほしがっているのか、気づきのチャンスも得られる(〓からりなどの例)
▽226 投資家としていきるのならば、「ローリスク・ローリターン」で安全策をとるより、リスクがとれる範囲の「ハイリスク・ハイリターン」の投資機会をなるべくたくさんもつことが重要。
だだし、「自分で管理できる範囲でリスクをとれ」。住宅の35年ローンは非常にハイリスクな選択。35年ローンなどは「リスクを正確に計算できない人々」を狙った商品。
▽231 最悪なビジネスはコンビニに代表されるフランチャイズに加盟すること。「ハイリスク・ローリターン」の最たるもの。
▽236 サラリーマンとは知らないうちにリスクを人に丸投げするハイリスクな生き方。
▽244 ある出来事がサイクルなのかトレンドなのか、を見分けるための感度を磨くためにオススメする方法は、2年前の日経新聞や日経ビジネス、週刊ダイヤモンドなどを読んでみること。「注目企業」が数年後、「敗軍の将、兵を語る」に取り上げられているのを何度も見てきた。
一時は大もうけして人気企業になったのに、急激に縮小して倒産に陥る企業のほとんどが、時代のトレンドとサイクルを見誤った事業戦略をたてている。
▽252 ビジネスパートナーだった仲間が失敗したときや、見通しを誤って会社中からひんしゅくを買ったとき、「触らぬ神にたたりなし」となりがちだが、そういう苦境にある人にこそ投資をするべき。
▽264 売りになるスキルや知識がない人が英語を勉強してもそれほどの価値は産まないが、「売るもの」がある人は、英語ができないと非常に損をする。・・・・きれいな英語を話せるより、さまざまな国のひどい訛りが混ざった英語を聞き取れるほうが、ずっと役立つ。
▽268 「この会社は伸びる」という読みにかけるのであれば、その会社に株主として参加するとか、利益と連動するボーナスをもらうなりして、業績連動型のポジションに身を置かなければリスクをとった意味がない。
▽271 インテリジェンスの90パーセント以上は、誰でも調べられるオープンな情報から得られる。調べる一手間が大きな利益をもたらすことが多い。
▽274
▽279 ネット社会の本格化で、グローバリズムの波が本格的に押し寄せ、数年の間に、日本も一気に本格的な資本主義化の時代を迎えるにちがいない、と確信した。(=中国化)
▽282 新大陸に上陸したピューリタンたちは、リーダーを育てるため、リベラル・アーツを根本においた教育機関を設立した(後のハーバード大学)。
リベラル・アーツが人間を自由にするための学問であるならば、その逆に、「英語、IT、会計知識」の勉強というのは、あくまで「人に使われるための知識」であり、「奴隷の学問」。銀行型と課題解決型(フレイレ)〓
社会にでてからのステップアップやキャリアプランについて、学生のうちから考え続けることは意味がないと考える(貧しい想像力と経験がつくるプランによって未来を拘束する愚かしさ〓)。社会にでてから本当に意味を持つのは、ネットにも紙の本にも書いていない、自らが動いて夢中になりながら手に入れた知識だけだ。
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