■読書の技法<佐藤優>東洋経済 20121216
筆者の読書の技術を開陳している。
毎月300-500冊に目を通す。そのうち熟読は洋書を含め4,5冊で、1冊5分程度の「超速読」が240~250冊、30分~2、3時間の「普通の速読」が50~60冊だ。
シャーペンと消しゴムを手にして基本書は3回読む。1回目は線を引きながら通読し、2回目はノートに重要箇所を抜き書きし、最後に通読する。抜き書きは原稿用紙50枚までというから、かなりの量だ。
ちなみに私は速読ができないから月に4,5冊熟読し、必要なところはパソコンに抜き書きしている。手間がかかりしんどいから、もうやめようか、としばしば思うが、「抜き書きとコメントをノートに記していけば、知識は確実に身につくはずだ」とあるのを読んで、間違った読書法じゃなかったと知ってホッとした。
高校の教科書や参考書の重要性についてもなるほどと思った。高校世界史B教科書は外交・国際政治の一線で通用する基礎知識がつくという。でも、いまさら数学の教科書を開く気にはなれないなあ。政府刊行物はつまらないが、矢野恒太記念会が発行する「日本国勢図会」「世界国勢図会」は分かりやすいといった実務的アドバイスも役立つ。
一方、「テキストから自分に都合がよい部分だけを拾う、あるいは、理解できる部分と理解できない部分の仕分けをせずに、なんとなくわかったつもりになってしまう若手ビジネスマンが多い。こういう読み方ではテキストを通じて知識を身につけることはできない」という指摘は痛い。とくに哲学書などを読むとき、理解できる部分だけでわかったつもりになってしまいがちだからだ。
週に1度、書評の会合をもつことで、1カ月に80冊の内容を理解できるという。知的グループをもつことで、個人では獲得できない知にたどりつけるのだ。読書会を組織するという「一歩」を踏み出せるか否かで知的レベルは大きく差がつくのだろう。
=============抜粋===============
▽44 「岩波講座 世界歴史」全31巻を刑務所で熟読。512日間で学術書220冊を読み、読書ノート62冊をつくった。
▽54 入門段階で基本書は3冊、5冊と奇数に。見解が異なる場合、多数決をすればよいから。
□熟読
▽60 3冊の基本書のまず真ん中ぐらいのページを開く。最初と最後は読みやすく工夫されている。その本の一番弱いところを読み、その本の水準を知る。
シャーペン2B、消しゴム
基本書は3回読む。1回目、線を引きながらの通読、2回目はノートに重要箇所の抜き書き、最後に通読。
読み終わって、不要な線は消しゴムで消す。
第2読 1回目に線を引いた部分で特に重要と思う部分を囲む。その部分を書き写す。欄外に自分の評価を書き込んでおく。記憶を定着させるため。抜き書きする条件を1冊あたり原稿用紙50枚に。
□速読
超速読(試し読み)で、熟読が必要、普通の速読で読書ノート作成、普通の速読だがノート作成不要、超速読にとどめる、の4つの範疇にわける。
▽超速読
最初のころは1冊5分かけない。序文の最初の1ページと目次を読み、ひたすらページをめくる。気になる語句があればポストイットをはるかページを折る。結論部の最後のページを読む。本を仕分ける。読むべき部分の当たりをつける。
すでに十分知識がある分野か、基本知識を持っている分野以外の本を速読しても得られる成果はほとんどない。知らない分野の本は、超速読も速読もできない。
つん読、しておいて、5,6冊たまったころあいをみて超速読をしてみる。
▽普通の速読 88
定規をあてて速読して重複読みを防ぐ。特に横文字は。……定規をあてればだれでも1ページ15秒で読める。
まず自分の仕事に関する分野の本を、30分とか1時間とか時間の枠を決めて始める。
□読書ノート 104
レーニンの読書ノート 750ページの本を10ページに要約。抜き書きとコメントをノートに記していけば、知識は確実に身につくはずだ。
□教科書と参考書を使う
現在読んでいる本の知識が身につくのは3~6カ月後。
大学入試センターの試験問題を活用し、学力をチェック。
▽民族 学界では、言語、地理的共通性などの歴史を持つ客観的基準を重視する原初主義primordialismと、近代以後の自己意識を重視し民族という概念が流動的とする道具主義instrumentalismが対立している。アカデミズムでは前者が、メディア報道では後者に基づいている。
▽高校世界史B教科書 外交・国際政治の一線で通用する基礎知識がつく。
国際政治で絶対に記憶する必要があるのは、1648年のウエストファリア条約だ。30年戦争は、最初宗教戦争として始まったが、途中からハプスブルグ家(スペイン、オーストリア)とフランスの戦いに変容した。厭戦気分によって、主権というこれまでになかった観念が国家に付与されるようになった。
近代国家の定義 一定の領土があり、国民としての一体感をもった人々が国民国家を形成し、政治的な決定をみずからの手でおこなうことのできる主権をもっていること。
▽153 恐慌対策 土木事業などによる農山漁村経済更生運動。都会では景気は回復したが、農村では1934年の東北の冷害もあって、回復が進まなかった。……昭和恐慌・農村恐慌のなかで、政府の経済対策や政党政治・財閥に対する不信感が高まり、軍部への期待感もおこってきた。……農民を満州に植民させることで、農民の貧窮をとりあえず解決できた。そのために、満州国建設というシナリオを書いた軍部への期待が高まる。それがクーデターを容認する雰囲気をつくった。
……改革運動は、経済的に困窮した状況においては起きにくい。生活維持に精一杯で、政治に目を向ける余裕がなくなるからだ。だいたい革命運動や国家改造運動は、現在の体制で恵まれた地位を得ていない知的エリートが起こす。
▽172 「外交白書」「防衛白書」などの政府刊行物はわかりやすく書かれていない。矢野恒太記念会が発行する「日本国勢図会」「世界国勢図会」は分かりやすく、実務にも耐えられる。
▽179 テキストから自分に都合がよい部分だけを拾う、あるいは、理解できる部分と理解できない部分の仕分けをせずに、なんとなくわかったつもりになってしまう若手ビジネスマンが多い。
こういう読み方ではテキストを通じて知識を身につけることはできない。
出口「NEW出口現代文講義の実況中継」〓現代文は論理的思考能力を問う教科。
入試問題の文章は、論理的である限り1つの結論Aを形を変えて何度も繰り返す構造になっている。同じ主張を反復しているのだから、それらを重ねて解釈しなさい。
言葉というのはしょせん、個人言語であって、個々人の感覚や状況によって揺れ動く。だから、筆者の個人言語を読者の個人言語で理解しようとしてはならない。筆者の言語は筆者の言語の中でつかむということ。文章の前後関係、文脈から言葉の意味をつかむということ。
▽「もう一度 高校数学」(高橋一雄) 12章「論理」だけでも読んでほしい。〓
▽高校数学とそれを少し超える偏微分や重積分による基礎知識を持つことで、鳩山氏の「宇宙人言語」を解読できるようになる。
数学は頭だけでは理解できない。語学同様身体で覚える(テクネー)性格があるからだ。覚えるには鉛筆が必要。
▽222 論理的能力は社会科学や哲学によってつけることができる。痛みを感じとる能力は、具体的な人生体験だけでなく小説を読み、他者の心理を代理経験することで育まれる。学術的な知識を積み重ねるとともに、小説を読むことで、体系知が身につく。
▽226 北朝鮮の人々が「洗脳」されていると見る人は、自由を欲する人間の本質を理解していないシニシズムだ。北朝鮮との間で対話を回復し、あの体制の中にも必ずある、優れた知性と接触する可能性を探るのだ。その作業が拉致問題の解決に向けた環境を整備する。
▽232 ミラン・クンデラ「存在の耐えられない軽さ」 1929年チェコ生まれ。プラハの春を背景にした恋愛小説。
▽[248 「新編 学問の曲り角」(河野与一、岩波文庫)
▽251 外国語の書籍は、やさしい順に法律書、経済書、歴史書、哲学書、小説となる。もっとも難しいのが詩だ。
▽262 1937年に文部省が出した「国体の本義」 戦争に導いた煽動文書だという間違ったレッテルがはられている。あれほど日本人の思想形成に影響を与えたにもかかわらず、まともに読まれていない。
専門分野を持つ人々が集まるブックレビュー(書評)の会合が、インテリジェンス機関の分析部局では重視される。自分が専門とする分野の本について、A4判1枚(原稿用紙3、4枚)のレジュメをつくる。慣れると30分でレジュメ1枚をつくることができる。1回の会合で1人最低2冊のレジュメをつくる。会合での発表は、インテリジェンスや領土交渉を進めるうえで、どの点が役立つかというところにしぼる。1時間で20冊程度の本について知識を身につけることができた。1カ月で80冊の本の内容をかなり深く理解することができた。〓1週間に1度、書評の会合をおこなうことをすすめたい。
コメント