朝日新書 20070623
戦争反対という人ほど、軍事を知らない。もっと軍事を勉強せよ、とは以前から言われていた。それで、自分がかかわる部分に関しては最低限の本を読んできたつもりだった。が、やっぱり基本的なことをわかってないなあ、ということを気づかされる。
分隊・小隊・中隊・大隊・連隊・師団のそれぞれのトップはどんな階級になるか、なんて知らなかったし、知らないせいで、海外で取材するときにけっこう困った。旧日本軍に空軍がなかったのは、「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」とあるから、憲法改正してまで創設できなかったなんてことも意外だった。
昔の中国で5人1組だから「伍長」という言葉がでてきた。今では女の子の体型にもつかわれる「超弩級」って言葉が実は英国のドレッドノートという戦艦の名前だった。警察組織に階級があるのは、フランスで世界初の近代警察組織が誕生した際に憲兵隊をもとにしたから……なんて雑学もおもしろかった。
自衛隊のもっている武器がいかに性能が低くてバカ高いか、というのも、ごく一部の軍需産業をうるおす「無駄な公共事業」という視点からもおもしろかった。
-------抜粋・要約---------
▽分隊(分隊長は軍曹か曹長)ー小隊(少尉か中尉)-中隊(大尉か少佐)-大隊(少佐)-連隊(中佐か大佐)-師団(少将か中将)
師団とは、他の部隊の支援を受けることなく一定期間の戦闘を継続できる。
ある国の陸軍力をはかるには、何個師団もっているかという数え方をする。
師団以上は戦略単位 以下は戦術単位。
師団と連隊の中間規模で独立して行動できるのが旅団
▽「昔からどこの国民も軍隊に入って国防義務を果たすのが当然だった」という嘘。国民国家とか国民軍は、たかだか200年のこと。
「市民とは、自らの権利を守るために戦う者であり、世襲の権利など認めない者のこと」
▽自衛隊の装備はひどい。89式小銃はメンテナンスが面倒で非実用的で、値段も馬鹿高い。62式機関銃は自己崩壊する脆さ、ばか高さ。
軍備は公共事業。軍需産業には防衛庁のキャリアが多数天下り。
▽「国権の発動たる戦争と・・・」という憲法条文が自衛隊の行動を制約できるか疑問。テロリスト集団は国家ではないから、テロとの戦いは国際紛争ではない、といわれれば反論は難しい。自営のためと称して、海外のテロリストの根拠地を自衛隊がたたきにいくことも考えられる。
▽「自衛のため」ならなんでもあり、という考えは鳩山内閣のころにもあった。9条の規定が戦争に対する歯止めとしてはいかに心許ないか。
▽フランスでは憲兵隊をもとに世界ではじめての近代的警察組織が誕生。日本はフランスに警察制度をまなんだ。警察に、課長や部長といった職責とは別に、巡査長とか警部といった階級があり、敬礼するのは、軍隊をまねた組織だから。
▽水雷艇を駆逐するために駆逐艦。魚雷をつんだ駆逐艦を駆逐するために巡洋艦。大戦後、巡洋艦・駆逐艦という区別は意味なくなる
▽英国が1906年にドレッドノートという戦艦を完成させた。第一次大戦をはさんで、各国はドレッドノート級、超ドレッドノート級の戦艦を建造した。日本ではこれを「超弩級」と表記した。
▽日本海軍が大和をつくったのは、工業力を考えれば戦艦の数では勝てないから質で上回ろうという考えだった。これだけ大きな艦はパナマ運河を通れないから、米国でも大西洋と太平洋の双方に配備することはできまい、と考えた。
▽BMD 北朝鮮のミサイルに対抗するには、ロシアからS300という迎撃ミサイルを買って、レーダーサイトやイージスとデータリンクできるよう管制装置を改良したほうがずっと安価で即効性がある。BMDは日本の防衛のためというより、米国の軍需産業の利益を追求している。
▽飛行機 日本は憲法上の問題で空軍はもてなかった。「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」とあるから。「不磨の大典」を改正しようなどと言い出せる人はいなかった。
▽男子生徒は陸軍の軍服、女子生徒は海軍の軍服。とう発想からセーラー服が生まれる。
▽石破 「兵役がどうして「意に反する奴隷的苦役」なのか私にはよく理解できません」 ちなみに戦前のわが国でも、兵役は奴隷的苦役の最たるものと受け取られ、「徴兵・懲役、一字の違い」などと言われてきた。昔は皆がよろこんで国のために命を捨てた、などというのは嘘だとわかるはずだ。
▽イスラエルでは、ユダヤ系の国民にだけ徴兵制が適用(女性も)。
▽石破 イラク攻撃を正当化 p132 石油を手に入れる必要があるから、イラクに派遣したと、言っている。
▽核による抑止は、恐怖の均衡が成立しなければならない。気が狂って核のボタンをおす相手には機能しない。(北朝鮮に対して核は抑止力にならないし、核がなくても同様の抑止力が働く)。
▽モーゲンソー・プラン 1944年9月に公表された。ドイツが再び脅威とならぬよう、鉄道・発電を含む工業インフラを徹底的に破壊して生産力を18世紀の農業国の水準にもどそうという内容。終戦前の段階では、米国内のドイツに対して、日本に対するよりはるかに厳しかった。ナチスの戦争犯罪には時効すら認めていない。
・・・(小林の言うように)日本に対してだけ、人種偏見に基づく厳しい戦後処理をした、などという事実は、どこにもない。
▽ナチスの残虐行為や日本軍の侵略行為は、たしかに当時の国際法ですべてを裁くことはできない問題だった。かといって「法律に書いてないことはなにをしても犯罪にならない」と、誰の責任も問わなかったら、戦争被害者は納得できたろうか。・・・戦争犯罪を裁く儀式を終えて、ようやく講和への道筋がつけられた。・・・だからといってA級戦犯とされた者たちが気の毒とも思わない。彼らには国を滅ぼした責任が、たしかにある。
▽憲法で戦争を禁じている例。フランスもイタリアもブラジルも侵略戦争を否定。不戦条約の条文を国内法にしたのは、1931のスペイン憲法、1935のフィリピン憲法。
▽現実の日米の力関係をみたうえで「集団的自衛権」を認めることは、自衛隊の若者達が、米軍のポチどころか、下手すれば「弾よけ」として、「テロとの戦い」にかり出されかねない。
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