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「帝国以後」と日本の選択 <エマニュエル・トッドほか>

 藤原書店 200702

トッドの「帝国以後」をめぐる、トッドと日本の知識人との議論。
米帝国という覇権時代はすでに終わっており、フランスをはじめとする米国と距離をとる国々の態度は、強大な存在に反発する「反米」ではなく、ポスト・アメリカの「脱米」だとトッドは主張する。だから、チョムスキーらの「構造的反アメリカ主義者」に対しては「アメリカの強大さを認めている」という理由で賛同しない。
アメリカの衰退を論じる根拠として、産業ロボットにも航空産業にもみられる技術力・生産力の停滞と、その停滞を莫大なカネで穴埋めするためにおきた巨大な貿易赤字などをあげる。
かつては欧州がイデオロギー的で、アメリカはプラグマティックだった。いまアメリカはプラグマティックな柔軟性をなくし、きわめてイデオロギー的・原理主義的な国になり、欧州との地位を逆転してしまった。現実を否認するプロセスは共産主義の終焉期に似ているという。アメリカという国の精神が不安定であるがゆえに、イラクや朝鮮、イランに対して軍事的に興奮し、弱小国のイラクを相手に「演劇的小規模戦争」をしかけた、とトッドは主張する。

一方多くの日本の知識人は「アメリカ帝国」の幻想をひきずり、石原慎太郎にいたっては「強い者につくのはあたりまえ」とまで発言した。
日本も脱アメリカをはかり、東アジアと共同体をつくっていくべきではないか、という話の流れになっていく。
トッドの主張でとくに違和感を感じたのは「日本も核武装を考えてもよい」という部分だった。アメリカのシステム崩壊という状況になったとき、核保有というオプションを考えずに、外交的自立を考えられるとは思えない……という。
核が「自立」の条件とされたフランスの経験をふまえた考え方だろう。そのまま肯定するわけにはいかないが、脱アメリカをはかる際には熟考しなければならない主張になっていくことだろう。

----抜粋とメモ-----

▽反米主義というのは、無力な激怒であり、超先進国を前にした低開発国の反射的反応。一方(フランスにおける)ポスト・アメリカ的ということは、軽視態度をとること。劣等感に根ざしたものではない。
▽以前のアメリカはプラグマティックな国で、ヨーロッパがイデオロギー的だった。いまやそれが転倒した。アメリカは、イデオロギーにどっぷり浸っている数少ない国のひとつになった。現実を否認するプロセスは、共産主義の終焉時期を思い出させる。
たとえばイラクにおける主権移譲問題を議論しているが、アメリカはすでにイラク領土の大部分でコントロールを失っており、イラク政府はもはや存在しない。そんななかで空理空論にあけくれている。
▽(IT活用により在庫調整が加速することで景気循環が消滅するという)「ニュー・エコノミー」 携帯電話技術、エレクトロニクス、ロボット……といった分野で米国は欧日に大きく水を空けられている。合衆国は莫大なカネを自由にできるおかげで、自分たちが生産するものよりもはるかに多くのものを消費することができるが、それは膨大な貿易赤字に苦しんでいることを意味する。
輸出に強い欧州やロシアは独力でやっていけるが、アメリカは無理。
▽(イラクや北朝鮮、キューバ、イランに対する)アメリカの軍事的興奮状態は、安定した精神をもっていないことを証明している。
第二次大戦直後は、アメリカは完璧に自立し、世界はアメリカを必要としていた。人口動態と教育における新たな変数が出現し、民主主義が広まってき来たことで世界は安定化しつつある。グローバルな戦略的脅威は存在しない。世界はアメリカなしで自らの安定化を考えることができる。
▽イラクのような弱小国に「演劇的小規模戦争」を仕掛けることが、アメリカに帝国の偽装を施す
□西部邁
▽アメリカ帝国という仮想現実のなかで言を狂わせてしまった日本の知識人の何と多かったことか。岡崎久彦氏は「パクス・アメリカーナは100年は続く」。中西輝政氏も、アメリカが国連や国際法を足蹴にするのを目前にして「国連は無効だ、国際法も無意味だ」といった趣旨の発言をくりかえした。北岡伸一氏も「日本人はアメリカに就くDNAを持っている」と述べた。石原慎太郎氏に至っては「強い者に就くのが当たり前」と言い放った。
□高成田
▽米国の経常収支の赤字の穴埋めは、外国企業から米国への投資が減っている分を、東亜細亜の政府が補充している形。日本がドルを貯め込んでいることは、日本が使える購買力を米国にゆだね、米国民が借金しながら買い物を楽しんでいるのを、日本は指をくわえて見ているということだ。……もしドル債を売れば、たちまちドルが暴落し、日本も米国も資産を失ってしまうという負の運命共同体を続けることになる。

▽榊原: 日本が景気回復している最大の要因は、中国を中心とするアジアが大きく成長しているから。アメリカ経済依存は少なくなってきている。
欧州統合は政治主導。アジアの協調関係はマーケット主導。政治は非常に遅れている。 ▽トッド:最終的には核廃絶が最終目標であるべき。しかし、アメリカの一極システムによって世界は不安定要因がふえた。……アメリカのシステム崩壊という悲観的な状況になった場合、日本が核保有というオプションを全く真剣に考えないで、外向的な自立を考えていくことができるとは思えない。……相互の破壊を避けるためには、小規模の核抑止力をもってくれと国際世論が要求するかも。
▽私は欧州統合に反対してきた。アメリカに対抗するパワーとしてのヨーロッパという考えに反対してきた。ところが、変わってしまった。ドイツはフランスと手を結ぶことで、セキュリティの点でもアメリカから自立する途を選びつつある。
▽中馬 アメリカ同伴絶対主義でいいのか、という心配をする政治家・官僚・記者はふえている。にもかかわらず動かない。飛び越えようとしない心理構造について小倉氏があげた3つのハードル。1)アメリカにかわるべき、あるいは一緒にやっていけるパートナーはいるのか、いるとすれば誰か。2)その新パートナーと集団安全保障体制をくめるか、運命共同体に踏みこめるか。3)核兵器をもたないまま日米関係を脱却できるか。核には依存しながらアメリカと切れることが可能か。
□伊勢崎賢治
▽アフガンの治安 DDR 武装解除を日本が担当したが、経験がない。
▽シエラレオネ
□西部
▽ステイト・キャピタリズム 政府主導の経済機構 アメリカも中国もステイトが強力な見とおしを与えながら経済運営をしている。日本は、アメリカのイデオロギー的なものだけ摂取して、市場主義にのっとった改革をしている。アメリカですら、ステイト・キャピタリズムという長期戦略で経済を運営しているときに。こんなことをすれば崩壊するのはあたりまえ。
□小倉
▽第一次大戦までは力の行使は是認されていた。2次大戦は力の行使が道義やイデオロギーに密接に結びついた。アメリカのヘゲモニーが確立するほど、戦争における道議の問題が前面にでてくる。第一次は、最後になて道議を言いだしただけで、戦争が始まるときは道議などだれも言っていない。
▽反WTOとか反IMFとか反国連とさわぐ市民運動は、実はネオコンたちんとって都合がいい。
□西部 ネオコンもNPOも両者に「世界市民」という理念像がある。ネオコンは、世界市民の世界を救うために武力も辞さずとなり、NGOのほうは、そのためには労力奉仕もいとわず、ということをやっている。
□伊勢崎 東チモールに国連が入れたのは、インドネシアの政権交代があったから。アチェで国際社会の介入を許したのは津波があったから。天災でもないと国際社会は主権に簡単には入り込めない。
アフリカの紛争では、まず地域共同体が動く。シエラレオネだったらECOWA、スーダンはAUが軍事的介入を先陣した。
……03年に柿沢元外務大臣がアフガンに来て、カルザイさんと会った。そのやりとりのなかで、その時までカルザイさんは自衛隊のインド洋での貢献のことを知らなかったことがわかってしまった。
外務省は慌てた。どうしようもないので、うちの班がカルザイさんのために、小泉さんに対する感謝状を英語で草稿することになった。カルザイさんにサインしてもらって東京に送ったということがあった(p336)。

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