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戦争の克服 <阿部浩己 鵜飼哲 森巣博>

 集英社新書 20060701

森巣博が、哲学者の鵜飼哲と国際法学者の阿部浩己と対談する。
「戦争」が時代とともに「総力戦」となり、国全体を巻き込む形になり、
国民国家という形で画一化していく。「ふんどし」は、徴兵制によって全国に広まったという。
「戦争」が加速度的に悲惨なものになっていくのと同時に、反比例する動きも強まる。
「正義の戦争」を否定し、残虐な兵器の使用などを規制する法の枠組みがつくられる。
現代では正義であろうとなかろうと戦争を「違法」と規定することになった。
だが、米国だけが超越した軍事力をもつ今、「正義の戦争」が復活し、国際法の枠組みを浸食しているという。
「戦争」の歴史を簡単に知ることができる対談集だ。

----------【抜粋・要約】-----------
□vs.鵜飼 哲学

▽ 昔は領主なり女王の兵が戦って、負けそうになれば逃げたり寝返ったりした。ところがナポレオン戦争で、勝とうが負けようが最後まで戦う国民兵が登場する。そして第一大戦になって、国民生活すべてを戦争努力に費やす「総力戦」という概念が成立する。
▽ 兵役を務めることが選挙権獲得の根拠になった。徴兵制はフランスに続いてドイツ、ロシアなどで採用され、……日本でも……国民は小学校で最低限の教育を受けるようになる……同じ情報を刷り込むことで文化の画一化を図る。もともと東北の人は、ふんどし〓なんか締めていなかった。それが全国区になったのは軍隊生活のせい。
▽出征して不在の男のかわりに、女性が生産に携わった。それで戦後、多くの国で女性の参政権が認められるようになった。戦争の技術の変化によって市民権の範囲も変化した。
▽軍産複合、需要を生むために、政府が常に戦争をつくりつづける。イラク戦争はまるでそれだった。
▽〓イラク戦争で死んでいる米兵の半数以上が、ラティノ。ベトナム戦争のときは4割がアフリカ系。73年に徴兵制が廃止されてから、低所得層が軍隊に入るようになった。……戦争に行けば市民権をやる、という制度。

□vs.阿部 国際法

▽国際法では、戦争の違法化がどんどん進んで、戦争自体が国際法から放逐された。が、ふたたび17世紀の正戦論の時代にもどってしまったかのよう。17世紀との違いは、正しいかどうか判断できる超越的な存在が出現したこと……アメリカは神のかわりだ……
▽経済制裁は、独裁体制の国に対しては、あまり効果がない。国内で流通する資源が減ると、食料などを分配する独裁者の権限がかえって大きくなる。……イラクでは、医薬品の流通がほとんどなくなってしまい、……乳児用のミルクが1カ月3缶だけしか配給されないとか……
▽今なぜ国際法が無視されるか。国家間の武力の差が圧倒的に開いたから。クラスター爆弾、デイジーカッター……強者は傷つかない。戦争は強者にとって一方的においしい手段になってしまった。
▽〓戦争の民営化 「不法入国者」の収容施設が民間のもの。PKOのために部隊を貸し出す企業も。……そのうち下請け企業だけの戦争さえ勃発する。ダイヤモンド利権がからんだアンゴラ内戦はそれに近かった。(〓違法駐車取り締まりの民間委託警察)
▽1960年代末に、いわゆる新左翼集団をひとまとめにして過激派と呼ぶようになった。「エクストリーミスト」を「過激派」と翻訳しただけで、当時、電通は3億円もらったと言われた。「過激派」というレッテルをつくりあげたことで、いろいろな集団を全員一斉にパクれる。
現在では「テロ」という言葉。
▽アメリカの新聞もイギリスの新聞もイラク戦争を「侵略INVASION」と呼んでいる。
▽〓ここ数年で、国連の人種差別撤廃委員会から人種差別にかかわり9回も勧告を受けた先進国は日本だけ。日本の新聞はそれを数行の記事で済ませてしまう。
▽アフガン崩壊で、イランとパキスタンは100万人単位でアフガン難民流入を認めた。北朝鮮に関しては、中国は受け入れないと言いつつも30万人以上の脱北者を入れている。そんななかで日本だけ「セキュリティの政治」を主張しても相手にされない。
▽〓難民、90年代になって、先進国はもう難民を保護しないという政策を打ちだすようになった。典型がオーストラリア。
▽イシハラは「(重度障害者に)人格はあるのか」だの中国人を「民族的DNAを表示する」犯罪だの、言いたい放題。〓人種差別撤廃条約に日本は加入しているのに。96年から日本で効力を生じたが、政府判断で、新たな国内法整備は必要ない、ということになった。
人種差別撤廃条約と、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、自由権規約、移住労働者を保護する条約の5つには、個人通報制度が併設されている。
この5条約のそれぞれに国際的委員会があるが、信じたいほどリベラル。日本の裁判で退けられても異なる判断が出る可能性も大いにある。だが……この制度は日本は受諾していない。受け入れていない主要先進国は日本とアメリカだけ。
▽オーストラリアでは、先住権裁判は先住民側の勝訴が多い。
▽〓〓立川のビラまき事件の人たちも、アムネスティは「良心の囚人」と認定している。61年の活動開始以来、日本で「良心の囚人」と認定されるのは初めて。……マスコミが信じがたいほどに静か。

□3人で

▽イラクで亡くなった外交官の奥克彦さんと井ノ上正盛さんは、CPA(連合暫定施政当局)で働いていた。……かたちとしては日本からの出向……占領政策の中枢で、占領行政の一翼を担っていた。そのことがメディアに流れなかった。
▽イラク人質事件 外務省設置法には「海外における邦人の生命及び身体の保護」責務が明記されている。なのに、お情けで助けてあげようという官房長官や首相の態度。……お上が国民と非国民の構図をはっきりとあぶりだした。被害者の家族が、周囲の圧迫で「迷惑をおかけしました」なんて言わされている。……第一自衛隊が来なければ人質になることはなかった。
▽ジュネーブ条約では、捕虜の写真や映像を公開してはいけない。なのに、捕まえたフセインの映像をどんどん出している。ファルージャで4人のアメリカ人が殺されたとき、写真が流れたのは条約違反だと言って、アメリカが抗議したのに。
▽「暴力手段を受け入れない」ちおう口実で、弱者の要求は取り合わないという姿勢。黒い9月事件のミュンヘン以降、標準になった。「テロリストとは交渉しない」
▽子どもの権利条約や社会権規約など国連でつくられた多くの人権規約は、緊急事態による人権規約をいっさい認めていない。アフリカ人権憲章もそう。1981年に「平和への権利」という9条と同じような条項をもってできた条約。
▽戦犯を裁ける国際刑事裁判所〓。93年に旧ユーゴの戦犯を裁くために設置。88年のローマ規定という条約で、設立が決められた。アメリカと日本は批准していない。ロシアも中国もイスラエルも入っていない。ヨーロッパ以外の締約国は、アフリカとか中南米ばかり。中南米は、アメリカに何度も侵略されているから、安全対策みたいなもの。……アメリカは、自分が入らないだけでなく、入った国と特別の協定を結んで、米兵を国際刑事裁判所に引き渡さないと約束させている。
▽「世界経済フォーラム」の向こうを張った「世界社会フォーラム」
▽平和の理念を貫徹するには、国内的には死刑の廃止は欠かせない。戦争も死刑も、人間の尊厳への究極的な挑戦だから。国際人権法の潮流は、明確に死刑廃止に流れている〓。
突き詰めれば、戦争は、死刑や殺人と同じく、眼前の人間を文化包丁で刺せるかどうかというレベルでとらえるべきものでしょ。

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