幻冬舎アウトロー文庫 20060718
未来世界。アングロサクソンの子孫であるイースが宇宙を支配し、日本人の子孫であるヤプーは奴隷以下の「道具」「家畜」とされている。イースの便器はヤプーの口であり、足置き場もヤプーであり、靴の底敷もヤプーだ。白人の排泄物や古着などが黒人奴隷の食べ物になり、その排泄物がヤプーの口に入る。
そんな世界に、日本人男性麟一郎とドイツ人女性クララというカップルが迷いこむ。
クララは貴族として処遇され、自分が貴族であることに気づき、麟一郎を家畜として扱うようになっていく。麟一郎は自分が人間ではなく家畜のヤプーであることを次第に自覚し、クララの家畜であることを喜ばしく思うようになっていく。
実は、天照大神にはじまる日本の歴史じたいが、イースの白人がタイムマシンで古代までさかのぼり、つくりだしたものであることが明らかにされる。
アマテラスは、アンナテラスという貴族女性であり、スサノオは、スーザンというアンナの妹だった。イザナギ・イザナミは、イースの貴族の家畜サナギーとサナミーを古代に放したもの。弘法大師は歴史に手を加えるためにイースが送りこんだアンドロイドのコボである。教育勅語のような愛国心教育は、白神信仰を植え付けるためにつくられた……といった調子で戦後の歴史まで解釈されていく。
日本の歴史のすべてが、日本人をヤプーとするためにイースによってつくられたものだ、という。
万葉集や古事記から、現代の高度成長に至るまで豊富な資料を渉猟し、そのすべてをヤプーとしての歴史に解釈しなおしてしまうすさまじいばかりの構想力には驚くばかりだった。
物語の読後感は、悪い。不愉快だし、読んでいてよい気分はしない。どんよりと落ち込む。不快感が蓄積される。
それでも読んでしまう。読み終わったときは正直ホッとした。
著者の沼正三という作者は、正体さえまだ明らかになっていない。
天皇、人肉食、スカトロジー……あらゆるタブーを盛り込み、右翼から何度も攻撃されたという。
戦後最大の奇書といってもいいだろう。