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編集長を出せ! 「噂の真相」クレーム対応の舞台裏 <岡留安則>

 ソフトバンク新書 20060616

「噂の真相」の元編集長が長年のクレーム対応の舞台裏をあかす。
強面でなにがあっても妥協しない編集長というイメージが強いが、意外に柔軟で臨機応変であることに驚く。
皇室ポルノで右翼の抗議をうければあっさりと「謝罪文」を書くし、芸能人相手でも、穏便にすまそうと思うと、さらりとあやまってしまう。謝ったところで、その後の論調をにぶらせない、というのが、ほかの人には真似できない部分だ。
検察や警察をむこうにまわしたたたかいの描写は圧巻だった。
でも、驚くような奇策を次々と出してたたかっているわけではない。
相手の話をよくきく。メディアにシンパをつくる。知り得た情報はすべて字にする。やばいなと思ったら時間をおいてしばらくしてからまた書く……
といった凡人でも考えつきそうな対応法を真正面から実行しているにすぎないことに気づかされる。


------------抜粋・要約-------------
▽休刊後に予定していたバックパッカー生活において、身の危険があった場合に備えて日本ペンクラブに加入した。ところが、林真理子と渡辺淳一は「除名しろ」と激怒したというのだ。
▽有名人の密会に使われることの多いホテルを張り込むのは大変。
▽噂の真相がハウス食品脅迫事件に対する報道協定をすっぱ抜くという情報gまわり、発売前に警察が何度も申し入れてくる。……ザ・ゲイの東郷健がわいせつ容疑で逮捕。捜査の矛先を噂の真相に向けるものと思われた。「逃亡生活」に入る。筆者が逮捕されることは、すぐにでも会社存続の危機を迎えることを意味する。……そして発売予定日の前日午後5時、遂に報道協定が解除された。
報復として別件でやってきた警察のガサ入れ。マスコミを味方につけて不測の事態に備える。……仮に筆者が逮捕されても、マスコミ各社がその背景を知っていてくれれば、警察の言論に対する弾圧だとして取り上げてもらえる可能性がある。ガサ入れに備え、業務に支障が出るため、重要書類を他の場所に移動させるといった対策もとった。……報道協定情報をリークした新聞記者を特定することを狙った別件による取り調べだった。
▽東京地検特捜部の宗像紀夫、スキャンダル記事の報復に、和久と西川の告発を取り上げる。雑誌メディアを名誉毀損で起訴するとうい前代未聞の事態に。情報戦で対抗し、宗像と女性司法記者とのツーショット写真を盗撮などなど。……裁判は負けた。が、検察と堂々と戦うメディアであることをアピールしたことで、後に東京高検検事長だった則定衛を辞任に追い込む情報提供を呼びこむこともできた。三井環による内部告発を誘発させ……調査活動費という名の裏金の存在をすっぱ抜いた。
▽鹿砦社・松岡社長の長期拘留。名誉毀損でメディア関係者が逮捕されたのは、「月刊ペン事件」以来30年ぶりだった。……筆者は「認めるところは認めて早期保釈を勝ち取って、経営立て直しに取り組んだ方がいいのでは」と伝えた。検察の言う証拠隠滅の恐れというのは、起訴事実を否認した人物を嫌がらせで長く拘置所にとめおく口実にすぎないからだ。……筆者は、松岡のスキャンだリズムには疑義を呈していた。あまりに情念的なイケイケ主義は、権力の罠にはまりやすい。……宝塚スターの自宅住所公開本にあれほどの執着を示すメンタリティがよくわからなかった。
▽いくら「噂の真相」でも、いちいち訴訟をやっていたら大変だ。一番肝心なのは「相手に直接会って話す」ことだ。相手の顔を見て、腹の底を探ることだ。……穏便に済ませようと判断した場合のコツは、相手の主張を最後まで聞くこと。内容証明の返答文にしても、相手が問いかけてくることだけに答える。そしてある程度こちらも本音をさらして話すことが大切だ。
▽名誉毀損の高額化も池田大作率いる創価学会および公明党の意向が強く作用した結果とされる。ジャーナリズムの生命線ともいえる「情報源の秘匿」すら認めない裁判所。大所高所からの判断はしないで、重箱の隅をつつくというのが、裁判の傾向である。
そして問題は、そんな風潮に引きずられるメディア界の実態だ。
例えば政治家2人によるNHK番組への圧力事件。問題はNHKに対する政治家の介入があったかどうかなのに、「誰が、いつ、どこで、どういった」という細事レベルに入りこみ、結局、日付が違っているなどと問題の本質が矮小化され、争点が完全にボケてしまった。……朝日新聞は小さなミスを指摘され、その後の対応も稚拙そのもので、いまだにウヤムヤのままに放置された感じである。
裁判で訴えてくる人物にしても、そのへんの傾向がわかっていて、意図的にポイントをずらし、本筋とは無関係の小さなケアレスミスをあげつらったあげく「だから記事全体が信用できない」というレトリックを使ってくるのだ。裁判所もこれに追随するのだ。
▽森喜朗の売春謙虚歴 森の指紋を紙面上で募集。提供者には30万円の懸賞金をつけた。これと、取材で入手していた指紋番号が一致すれば、売春謙虚歴の証明になる。
▽恐喝の共犯にされかねないリスクをメディア側が回避する手段はたったひとつ。「知り得た情報はすべて書き尽くすこと」
▽皇室諷刺ポルノ 右翼が怒り、印刷会社や取引銀行に圧力をかける。広告を出した会社にも。印刷会社をまわり……右翼団体の本部に出向く。「ご迷惑をおかけしました」。話しあいの結果、謝罪文を次号に掲載。中途半端な謝罪文よりも時代がかった大げさな文章の方が、反語的メッセージがわかる人には伝わるはずだという、とっさの判断だった。トラブルを一刻も早く収集して雑誌存続を優先させることを第一義とした。
何を優先的に守り、何を捨てられるかすばやく選択することが大事である。プライドや世間体よりも、実を取るという発想が必要ではないか。

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